転職したら偶然、副業制度がはじまった。 大学時代に教職課程を履修するものの、一般企業の就職を希望していた市川さん。ところが、母校から強く誘われ悩んだ末、大学卒業後は教員の道を選びます。そこで、しばらくは充実した教員生活を送っていたのですが、4年目を過ぎた頃、ある思いが市川さんの中に芽生えます。「教育の世界しか知らない自分は、生徒に伝えることにも限界があるのでは?」と。次の年、いったんは別の高校へ籍を移したものの、先に芽生えた思いは拭えません。「やはり、世の中を知るべきだ」とソミック石川への転職を決意しました。ただ、この時は「民間企業を一度経験したら、(離職して)再び教育現場に戻るつもりでした」といいます。 ちなみに、市川さんが入社した2020年頃。世の中ではまさに働き方の多様化が強く求められるようになり、ソミック石川社内でも働き方の選択肢を増やそうと改革が進められていたといいます。その結果「当社では2022年4月に週休3日制や裁量労働制、そして兼業・副業制度を導入しました」と人事の藤田さんは教えてくれました。
週1日の授業。ただ、準備や関連業務が意外と多い。 「私自身も仕事をしながらも、教育業界に何か還元できないかという思いが常にありました。副業に関する会社の制度が整った時に、本当にたまたま、教員が不足していると母校の先生から話を聞いて、『もしかしたら手伝えるかも』と思ったんです」と市川さん。 「副業規定では本来、勤務時間外と定められています。ただ、市川さんの場合、裁量労働制と組み合わせて就労時間内に副業できるよう調整しています」と人事の藤田さん。そうした調整もあり、市川さんは現在、毎週水曜日8時45分開始の1限から4限終了の12時35分まで、社会科の非常勤講師として教壇に立つことが出来ているのだとか。「去年までは週2日、各日2コマずつ、計4コマ授業を行なっていたのですが、週2日では移動時間などの無駄も多く効率が悪いため、今年からは週1日、4コマ連続で行うことにしました。副業は時間の使い方も大切だと感じています」と市川さんは話します。 ちなみに教員の役割は単に授業で教えるだけではありません。その準備やテストの採点など関連する業務も多く発生します。そのため、週末は学校の業務や授業の準備をし、なるべく平日の負担を減らしているとのこと。また、年間の板書計画といった大掛かりな業務は、会社の長期休暇にまとめて行っているといいます。 現在は歴史総合を教えているが、数年に一度指導要綱が刷新されるため、教員も常に学びが求められるという
社内外のつながりを増やし、長期的なブランディング業務も。 では、ソミック石川では市川さんはどのような仕事に従事しているのでしょう。質問すると、「私の所属するソーシャルリレーショングループでは、自社のアウターブランディングとインナーブランディングを手掛けています。たとえば、浜松市内の小中学校にソミック石川を知ってもらうための出張授業に出向いたり、海外企業を中心に企業視察研修の受け入れを行ったり、地域活性や地域貢献に向けた外部団体との協業、また社内の交流研修など、様々な活動にグループリーダーとして取り組んでいます」と教えてくれました。さらに、市川さんは最近ではブランド戦略室の仕事も兼務。より長期的な視点でのブランディングにも取り組んでいるそうです。 学校講話では出張授業だけでなく、子供たちを会社に招くことも。これまで約70校、2,000人が参加。
副業と本業の相乗効果が、それぞれのやりがいに。 時には、休みを削ってまでも教員との二刀流を続ける市川さんにその相乗効果を伺ったところ、「最初に副業を考えた時、本業に何かしら還元したいと決めていました。その点では、教員の副業は面白い取り組みだと複数のメディアに取り上げてもらい、弊社の認知向上につながっています。また、教員不足への貢献もやりがいになっています」と市川さん。さらに、教員の仕事の方でも生徒たちから将来の相談を受ける際、「最初に教員をしていた頃は『働き方ってこうだよ』とか『働くのは厳しいよ』とアドバイスしながらも『それって本当だろうか?』という気持ちが拭えなかったんです。それが、自分自身が一般企業で働いていることで、今では実感をもって相談に乗れます」と教えてくれました。 また、学校での生徒たちとのやりとりをヒントに、会社でのマネジメントに役立てることもあるとか。「声のかけ方や、コミュニケーション一つで相手のモチベーションが変わるのは、生徒だけでなく、人間みんな同じです。信頼して任せれば、想像以上の力を発揮してくれると思っています」と学校と会社の二つの職場で様々な学びがあることを教えてくれました。 会社にとってのメリットを人事の藤田さんに尋ねると、「採用活動では、副業制度があるから応募したという声をよく聞きますし、その実績として市川さんの話が出来るのは有り難いですね」と答えてくれました。現在、ソミック石川では副業している社員は約10名。週末にカメラマンとして働く社員や飲食店でのサービス業に携わる社員、またコンサルタントなど、仕事内容は多種多様だそうです。「働き方や働きがいは異なると思いますが、一人ひとりに寄り添いながら、それぞれの働き方を支援したいですね」と藤田さんは優しく話します。ああ、なんて社員思いの会社なのでしょう。うらやましくなります。
副業したからこそ、望むキャリアが鮮明になった。 最後に、市川さんに今後の目標を尋ねると「この2年で、気づけたことが一つあります。それは、教員とは違う形で学校教育に関わりたいということ。また会社での立場も変わり、必要な知識や能力をつけなければという気持ちや、周囲のメンバーの挑戦を応援したい思いも強くなっています」と答えてくれました。「たとえば、副業したい人、大学で学びたい人、仕事で成功したい人など、社内でチャレンジする人のサポートができたり、自身も経営的な視点を養い、社内外で誰かの役に立てるようになりたいです。副業制度はキャリアを途絶えさせることなく、様々な可能性を探れる素晴らしい制度、自身の転機にもなりました」と力強く話す市川さん。隣で聞いている藤田さんも「市川さんは私たち人事の想像を超えてきたすごい人です。副業制度を導入して本当によかったと思います。挑戦を応援する制度は会社全体で今後もいろいろ進めていくので、一緒にがんばりたいという方が仲間になってくれたらうれしいですね」と就活中の学生に向けてのメッセージで締めてくれました。