PROJECT STORY
[第一章]
井之上翔悟

三井ホーム鹿児島株式会社 営業部
2014年入社 法学部卒

入社3ヶ月。営業の最初の仕事は
現場の職人さんに認めてもらうこと。

突然の辞令

井之上翔悟の1日は、まだ誰も出社していない早朝のオフィスでその日の予定を再確認することから始まる。6月のその日も、いつものようにモデルハウスで接客したお客様一人ひとりの顔を思い浮かべながら、これからどんなふうに話を進めるかを考えていた。入社して3ヶ月。社会人としての生活にも慣れ、仕事の流れもようやく掴めるようになってきたところだ。

「井之上、ちょっと話があるんだが、今大丈夫か?」
珍しく改まった口調で課長が声をかけてきた。課長はいつものデスク脇ではなく応接室へと井之上を連れ出した。普段の柔和な雰囲気とは違う課長の姿に、少し緊張感が走る。
「いま指宿で耐火建築物の特別養護老人ホームをつくっているのを知っているよな。実は井之上にこの現場を経験してもらいたいと考えているんだ」
「現場、ですか?」
課長によると、営業スタッフを成長させるために建築現場の経験を積ませようという試みが新しく始まり、その第1号に井之上が選ばれたというのだ。ただし、営業の仕事を完全に離れるわけではない。今から完成までのおよそ6ヶ月の間、週3日は営業活動をし、残りの2日間を現場での仕事に当てることになるという。

「これは大変なことになった、と正直思いました。そもそも建築現場は入社時の研修でいくつかまわって見たぐらいです。現場を経験するといっても何をすればいいのか。しかも営業の仕事は続けながらです。頭の中はパニックでしたけど、とにかく『がんばります』と返事をしたのは覚えています」と井之上は振り返る。

こうして井之上にとって生まれてはじめての建築現場での仕事が始まった。

建築現場での仕事

観光地としても有名な指宿市は薩摩半島の南端にある。これから半年間通うことになる特別養護老人ホームの建築現場は、眺めが素晴らしい海岸沿いにある。井之上の家からは車で1時間以上。建築現場の朝は早く始業は8時だが、「何もできないのだからせめて一番に出社しよう」と、井之上は朝6時には家を出て7時過ぎには到着していた。
カギのかかった工事ゲートの前で一つ大きく深呼吸をし、ゲートを開けた。中に入りまずは事務所とその周辺を入念に掃除した。時間とともに次々と出勤してくる職人さんに向けて挨拶する井之上の声が、大きく響き渡った。

現場の責任者は生産管理グループの平瀬グループ長。平瀬は営業スタッフに現場経験を積ませることの必要性を説いていた一人だ。「現場を知ることは営業にとって必ずプラスになる」という信念があり、近年現場を訪ねてくる営業スタッフが減ってきていることに危機感を抱いていた。

敷地はおよそ400坪。耐火建築の2階建ての建物は、個人の住宅とは規模も、建築方法も大きく異なる。1日あたり常に数十人の職人さんが仕事を進め、そして多くの企業が関わっている。
朝は全員揃っての朝礼でスタート。ラジオ体操から始まりKYK(危険予知活動)をするなど、「ビルを建てるような現場に近い」と平瀬は言う。井之上は朝礼の司会をし、資材を運び、ホウキを手にあたりを掃除した。平瀬の助手として施工完了チェックと記録写真の撮影を行い、建物のあらゆるところに身体を潜り込ませた。

「すべてが初めての経験です。とまどいはありましたけど、とても面白かったです。とにかく自分ができることは何でもやろうと思っていました」と井之上は当時を振り返える。自分で仕事を見つけては懸命に働く井之上の姿に、次第に現場の職人さんたちも井之上の仕事ぶりを認めるようになっていった。

台風襲来

2014年6月下旬から2015年1月末まで、井之上は現場で経験を積んた。ちょうどその頃、基礎 工事が済み、上物の建築が始まっていた。この年は天候不順で雨が多い夏だったとはいえ真夏日は60日を超えていた。冷房もない真夏の屋外での作業は、慣れない井之上にとっては過酷だった。
「それまで身体がなまっていたということもありますが、体重は4、5キロ落ちました(笑)。資材を運んだりする力仕事も結構あるんです。暑さも厳しく、2リットルのペットボトルなんてあっというまに空になるほどです。幸い誰も熱中症で倒れることはありませんでしたが、炎天下の中で仕事を続ける職人さんには頭が下がるばかりでした」

また、指宿は台風の通り道としても名高い場所だ。この年は4つの超大型台風の直撃を受けた。特に7月10日に鹿児島に上陸した台風8号は各地に大きな被害をもたらしている。
「現場は海沿いの土地だったので、大型台風の直撃を想定した環境整備がたいへんでした 。建築現場ではクレーンも資材もたくさん置いてあります。万が一風で飛ばされてしまえば、付近の方に被害を与えてしまうことになります。台風の進路とスピードに気を配りながら、資材が飛ばないようにしっかりと養生したり、建築用防護ネットを取り外して片付けたりといった作業をしなくてはいけません。この年は頻繁に台風対策に追われたのを覚えています。万全の対策を取ったつもりでも、台風が過ぎた後に現場へ行く時はどんな事になっているかと、いつもドキドキしていました」と井之上語る。

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