アイドルのライブ会場で突撃インタビューしてみた

アイドル好き、みんな推しに自己投影してる説

3月20日、場所は千葉県幕張メッセ。
己を鼓舞しながら静かに佇む男子大学生がひとり、そこにはいた。

ニュースキャスター:今日はとあるライブイベントの会場と中継がつながっています!ミズケーン!
ミズケン:はーい!こちらリポーターのミズケンです!私は今、幕張メッセの前の広場に来ていまーす!
本日はこちらの幕張メッセイベントホールにて、櫻坂46がファンへの感謝を伝えるイベント、『Buddies感謝祭』が開催されますー!ということで今日は、私ミズケンが現地の熱をお茶の間に届けるべくー…

ひとりで見知らぬ人に声をかける自分を奮い立たせるために脳内で働かせていたテレビ中継妄想はこのあたりで留めておくとして。
私は櫻坂46のファン、通称Buddiesであることを強く自負している。そんな私が自分以外のBuddiesのライブに対する向き合い方を調査するべく、単身無券でライブ会場へと出向き、インタビューを試みた。

前回の記事にて音楽ライターの西廣さんに取材した際には、自分の好きな対象にプロの目線から切り込むことで、自分の「好き」に対する解像度を上げることができた。

そうはいっても、「ステージ上のアーティストに自分を重ねることで、『自分もこうあれるかもしれない』なんて勘違いが己の羞恥心を和らげてくれる」という好きの源泉に対する持論は結局マイノリティなのだろうか。

否、私は、アイドルに自分を重ねることでパワーをもらう人が大多数なのではないかと考えている。
そこで本記事においては、実体験と音楽ライターの方への取材を踏まえて生まれた仮説、「アイドルオタク、みんな推しに自分を重ねている説」を検証していきたい。

そんなわけで早速、計3組、7人の櫻坂ファンの方々に敢行した取材の結果を見ていこう。
(なんと一度もお断りされませんでした。快く取材を受けてくださった皆様、本当にありがとうございました!)

Q.現地インタビュー敢行!

インタビューに応えてくれるのはライブの開演を刻々と待つ人たち。ワクワクはそのまま保持していてもらいたいので、まずは導入として櫻坂のライブの魅力などを語ってもらいつつ、「推し活」のスタンスを探ってみた。

〇1組目―SNSつながりの男性3人組(学生2人、社会人1人)

Q.櫻坂46のライブにはどれくらい足を運びますか?

「櫻坂がライブをやるたびに、遠征の有無を問わず足を運んでいます」
「同じく、月に1、2回はマストですね」
「去年だと…18公演行きました!」

―皆さん年間通して櫻坂のライブに強く惹かれていることがよくわかる。では何がそんなにもファンを惹きつけるのだろうか。


Q.櫻坂46のライブを見ていて一番心動く瞬間はどんなときですか?

「ツアー公演を初めて観るとき、毎回全く異なる演出で確固たる世界観が新鮮に表現されている様を目にすると、いつも鳥肌が立ちます」
「それだけじゃなくて、メンバー個々人の成長がパフォーマンスとして生で目に見えた瞬間も感動しちゃいますね」

―推す要因に疑似恋愛はほとんど無いと話すお三方は、アーティストとして創るライブという作品自体が持つパワーと、アイドルとしての物語性のどちらにも強く心を動かされると熱弁する。


Q.櫻坂46(アイドル)が好きなことを公言していますか?

「櫻坂は王道のアイドルっぽくない雰囲気のグループではあるけれども「坂道アイドル」であることは間違いないので、やっぱりどこか「アイドル(櫻坂46)好き」の公言は避けちゃう自分がいます」
「自分はむしろがっつり公言します。櫻坂46には今までの日本のアイドルのイメージを覆すインパクトがあるし、自分を構成する大きな要素になっているので、公言する恥ずかしさが好きの気持ちで上書きされている感じです」
「周りが女性アイドルのファンにも寛容な環境なおかげか恥ずかしさとかは全くなく、公言しますね」

―この質問には三者三様に回答があった中で、好きが羞恥心を上回っている、という意見には、自分もそうなのかもしれないとハッとさせられた。

〇2組目―リアルなつながりの女性2人組(学生2人)

Q.櫻坂46を好きになったきっかけを教えてください!

「欅坂46の『ガラスを割れ!』(2018年)の頃から、友達のすすめで」
「同じく友達のすすめで、欅坂のときから5、6年推しています」

―櫻坂46へと改名する前から長きにわたってグループを推しているお二人は、どういうスタンスで応援してきたのだろうか。


Q.櫻坂(アイドル)を推す要因として、疑似恋愛または自己投影が当てはまると思いますか?

「正直どちらも全くない、と思います」
「ライブに行ったときの世界観への没入感みたいなエンタメ性と、純粋に可愛いメンバーを見ることで得られる癒し目的かな」

―「え、ほんとですか!」
予想もしなかった回答が返ってきて驚いた。アイドルを推す要因として挙げられた二つがどちらも当てはまらないとは…!


Q.櫻坂に関わらず、SNSなどを通じて自分の「好き」に対する自信が削がれた経験はありますか?

「基本的にSNSは見る専ですし、タイムラインに色々な人の発言が流れてくるのを見て『へー』と思うだけで真に受けることはなく、自分の好きは揺らぎません」

―お二人とも健全でまっすぐな向き合い方・推し方をしていて、つい「めちゃくちゃかっこいいです…!」という気持ちが口をついて出た。

〇3組目―SNSつながりの男性2人組(学生2人)

Q.櫻坂46のライブを見ていて一番心動く瞬間はどんなときですか?

「YouTubeのドキュメンタリー動画を見て感情移入したメンバーがいるんですけど、その子がステージ上でバキバキにダンスしている様子を見ると、成長を実感して感動します」
「アイドルになった瞬間から推しているメンバーの中に同い年の子たちがいて、そんな彼女たちが一生懸命に励んでいる姿を見ると自分も頑張ろうと思えます」

―私と同年代のお二人ということもあり、同じく歳の近い坂道メンバーのライブでの姿にパワーをもらうという声がきけて、強く共感すると同時に安心した。3組目にして初めて、「自己投影」的な楽しみ方を見つけられた。


Q.櫻坂に関わらず、SNSなどを通じて自分の「好き」に対する自信が削がれた経験はありますか?

「『もっと早く知ることができていたらよかったな』みたいな古参に対する羨ましさはあるけれど、自分のタイミングで出会えたと思っているから、劣等感みたいなものはないです」

―「古参に対する羨ましさ」にはひどく共感すると同時に、なんと素敵な考え方なのだろうと感動してしまった。

マイノリティな推し方の先には

結論…
「アイドル好き、みんな自己投影してる説」は立証ならず。

「アイドル好き(櫻坂ファン)」を公言するか否か、メンバーのどんなところに心を動かされるのかなど、「推す」にあたってのスタンスは予想以上に多様だった。

共通して言えることとして、みんなあくまで自分の人生を生きる中で、補助的に勇気や癒し、夢中をもらえたりするから応援する。推している。

つまり、私と同じように自分の悩みだとか理想だとかを好きなメンバーにあてがって応援している人はあまりいなかった。
自分の推し方は圧倒的マイノリティだったのだ。

あれ、?

みんなと同じじゃ無い。

でも恥ずかしく無いかも。

以前までだったら、「20歳も超えてアイドルに自分を重ねて生きている自分」に共感すら得られない結果を受けたら、自分の情けなさにまた、自信を失っていただろう。
恥ずかしさにもだえていたに違いない。

そうやって他と違う自分を恥ずかしく思わずに肯定するのと同時に、インタビューした人たちを素直にかっこいいと思えた自分がいることに気がついた。

たとえ少数派であっても、自己投影の先には、それはそれで「自分の人生」を歩む、かっこいい自分が待っているのかもしれない。

容になれたと同時に、自身のこれからにも期待の高まる1日になった。

I型の私が取材に至るまでの葛藤

一見、インタビューの実施まですんなり進んでいったように思われる今回の企画。

実を言うと、当初のタイトルは、
『ライブに行くたびに必ず左隣の席の人に話しかけてみた!』だった。

今でも思う、これは実現できたら面白そう。

12月11日、ずっと真夜中でいいのに。@神奈川県民ホール
12月31日、COUNT DOWN JAPAN@幕張メッセ
1月11日、UNISON SQUARE GARDEN@東京ガーデンシアター
2月16日、Lucky Kilimanjaro@幕張メッセ

…月イチ以上のペースで取材のチャンスがあったにもかかわらず、幾度となく人見知りを発動しては挫折した。

そして迎えた学生編集部卒業前最後の取材機会が、3月19日幕張メッセで開催された櫻坂46のライブ。(実は2Daysの初日の公演に参戦していたのだ)

「いや、ここはやっぱり大好きな櫻坂46のライブを純粋に楽しみたい」
「でもこのまま自分と同じファン目線をインタビューで汲んでおかなくて良いのか…?」

そんな葛藤を経て一つの名案が生まれる。

「はなからインタビュー目的で翌日の幕張メッセも行ってやろう!(チケットないけど)」

そうしてなんとか背水の陣のもと、敢行することができた突撃インタビュー。
海浜幕張駅からいつものように京葉線に乗ってついた帰路は、もう尋常じゃないくらい清々しかった。

反省点が一つあるとすれば、写真撮影の可否を尋ねるべきだった。ライブが始まる前のファンの方々の高揚感を少しでも伝えることができれば、こんなに良いことはなかった…。

でも、何度挑戦しても隣の人にすら声をかけることができないほど内向的な自分が、長年大好きな櫻坂のライブ会場で起こすことができた「現地取材」というアクション。その奇跡みたいな行動から得られた知見は、自分の「好き」を盾に羞恥心を乗り越えられた、「大きな自信」としてずっと大切にしていきたい。

要するに何が言いたかったのかというと…

「好き」を盾にすれば、人間、かなり強くなれるらしいよ。

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