テーマ解説
インタビュー
「あなたたち×小学館」それぞれの得意を生かして ひとびとの心に彩りを与えるための協力プロジェクトを立案してください
株式会社小学館
元藤祐輔さん/総務局 人事・人材課
総合出版社として、あらゆるジャンルの出版物を刊行する小学館。みなさんの中にも、小学館の本に触れて、学んだり泣いたり笑ったり、心が動かされた経験のある方もいるのではないでしょうか。2022年に創業100周年を迎えた小学館は、紙の出版物をルーツに、現在はデジタル分野でも様々な事業を展開し、今まさに伝統と革新が共存する変革期の真っ只中にあります。今回は、小学館で人事を担当する元藤さんに、テーマの意図やそれに込めた想い、みなさんに期待することをお聞きしました。
「物語の力」で人生を豊かにする小学館。
───子どもから大人まで、だれもが一度は小学館の本や雑誌を手に取った経験があるのではないかと思いますが、改めて、小学館という会社について教えてください。
元藤さん 『小学一年生』のような子ども向け雑誌や図鑑・学習書などのイメージが強いかもしれませんが、書籍・雑誌・まんがなどの様々なコンテンツを、老若男女幅広い年齢層に向けて出版しています。また、紙の出版にとどまらず、アプリやWebメディアなどのデジタルコンテンツも運営していますし、イベント、メタバース、キャラクター・ライツ事業なども展開しています。あらゆる分野が事業領域だというところは当社の特徴かと思います。
───それだけ多彩なジャンルのコンテンツを発信するとなると、それを作る社員にもいろいろな方がいると思うのですが、「小学館らしさ」を挙げるならどんな点でしょうか?
元藤さん ご想像のとおり、本当に社員は個性豊かなので何を一番大事にしているのかは人それぞれ違いますが、「物語の力」というものを各々信じているように思います。例えば、何度か社員同士でお酒を飲みながら「棺桶に入れて欲しい1冊は何か」というテーマで話したことがあるのですが、毎回ものすごく白熱するんですよ。何を選ぶかも、選ぶ理由もみんな違う。どんな本を選んで、何を考えたのかを話し合うのが本当に面白い。熱量も凄まじくて…そのテーマで盛り上がる度、みんなが「物語の力」を大事にしていると感じます。
───すごくいいですね! その「物語の力」は、仕事の中ではどのように大事になってくるんでしょうか。
元藤さん 人に何かを伝える上ですごく頼りになる力の一つだと思っています。雑誌でも書籍でもまんがでも、誰かの人生を豊かにしたり、困りごとを解決したり、悩みを少しやわらげたりしてくれることがあるじゃないですか。ストレートな言葉を投げたり、ただ解決方法を提示するだけでは伝わらない場合でも、「物語の力」が加わることでアプローチできることがあります。実際、私が小学館に入ったのも、まんがを読んで人生が変わった経験からなんですよね。
───それはどんな経験だったのでしょうか?
元藤さん 学生時代、ケガや人間関係に悩んで部活を辞めようと思っていた時期があって。その時、たまたま読んだまんがに猛烈に感動して、自分自身と重ね合わせてすごく励まされたんです。程なくして、結果的には部活を辞めることにしたんですが、辞めようと思ってから実際に辞めることになるまで、少しの間ですが、そのまんがのおかげでもうひと頑張りすることができた。まんがを読む前後で、自分を取り巻く環境は変わらなくても、自分にとっては世界の見え方が大きく変わったという経験です。「物語の力」が尊いと感じた原体験で、その力を実感して、今度は自分が届ける側になりたいという想いが強く芽生えたのを覚えています。
課題のヒントは、自分の中と周囲にある。
───今回の出題テーマには、「『あなたたち×小学館』それぞれの得意を生かして……」とありますが、このテーマに込めた想いを教えてください。
元藤さん 学生の方々にプロジェクトに参加していただくにあたって「作って終わり」にしてほしくないという想いが出発点にありました。せっかくならみなさんも私たちも面白がれることを提案してもらいたいし、「すごくいいから実際にやってみようよ!」となったらもっと面白いな…などと想像してわくわくしています。冒頭でも申し上げたように、小学館は総合出版社ですのでどんなジャンルのコンテンツでも受け止める構えはできています。
───逆にいえば、かなり範囲が広くて本当に自由な企画を提案できる、ということですよね。それはそれで難しそうですが……
元藤さん
まず意識してほしいのが、「当事者としてテーマに加わる」ということ。「物語の力」にも通じますが、「個の熱量」って何かを人に伝えるときに大事だと思うんですよね。なので、「自分には分からないけど時代の流れ的にこんなものが求められているのかな……」といった気持ちの入っていないものではなく、「自分は何が好きなんだろう」「何が得意なんだろう」ということに向き合ってほしい。大学生のみなさんなら、SNSを私たちよりも使いこなせるかもしれませんし、みなさんの地元や周りのことならみなさんの方がきっと詳しいですよね。
───なるほど。まずは自分自身と向き合ってみることから、企画のきっかけを探してみる、と。
元藤さん
はい。そして自分の周りにも目を向けて、「身近な人に届けたいもの」という考え方も企画のヒントになるのではないかと思います。例えば、身近な人が悩んでいることであれば、多分同じ悩みを抱えている人は世の中にはたくさんいるはずです。自分と周りをよく観察して、自然と生まれる気持ちや想いを見つけてみてください。そして、方向性が決まったら、ぜひ同じように小学館の得意なことについても調べてみてください。みなさんと小学館が掛け合わさることで、本当に世の中が驚くようなアイデアが出てくると思っています。逆にいえば、小学館だけで成立してしまう企画になってしまわないようには注意してもらえればと思います。
「その企画は誰の役に立つ?」徹底的な読者目線を持って考える。
───総合出版社はほかにもいくつかあると思いますが、“小学館の強み”を挙げるとすれば、どんなことになるんでしょうか?
元藤さん 現在はあらゆるジャンルのコンテンツを持っていますが、ルーツが子ども向けの出版物にあるということは一つの強みだと思っています。特に実用性を重んじていて、その根底には「誰かの役に立ちたい」という想いや、「わかりやすく伝える」「面白く伝える」という使命感がある。出版物をつくるために、そこは集中的に鍛え上げているので、会社としての強みになっていると思います。
───審査項目の中にある「読者目線」も“伝える”ことに重きにおいた、出版社ならではの項目だと感じました。
元藤さん プロジェクトへ臨むにあたって、「読者目線」はすごく大事にしてほしいですね。企画の対象者は誰なのかーー誰の役に立つのか、誰の悩みに寄り添うのかーーといった要素は、しっかり考えていただきたいです。また企画の内容だけでなく、「読み手(審査員)へ伝わりやすいように企画書をつくる」ということにもこだわってください。ご自身の意図が余すことなく伝わった上で審査されたほうが納得できるでしょうし、私たちもなるべくみなさんの意図を理解した上で審査したい。本の企画・編集には、「読者目線」という考え方が本当に重要なので、みなさんにもその原体験をしてもらえたら嬉しいです。私自身、審査項目の中で一番大事だなと思っているのは、この「読者目線」です。
───常に「読者目線」を意識して、課題に臨むわけですね。
課題にも、自分にも、熱を込めて向き合う時間にしてほしい。
───もう一つ、小学館の課題に取り組むにあたってみんな気になるのではないかと思うのが、「紙の出版物を軸に考えたほうがいいのか」という点なのですが、いかがでしょうか?
元藤さん じつは、それは結構迷ったポイントなんです。当社の状況でいうと、昨年創業100周年を迎え、今社内には「伝統と革新」がまさしく両立している状態です。伝統という意味では、私たちの根幹には紙の出版物がありますし、革新という意味では、デジタル展開やメタバースのような新しい取り組みも大切にしています。ただ、今回のプロジェクトにおいては、どちらに限定するのも本意ではないので、どんなものを軸にしていただいても構わないという結論を出しました。
───会社自体がどちらからのアプローチも大事にしているということですね。
元藤さん そうです。出版業界は斜陽産業と言われて久しいですが、じつは巣ごもり需要でサブスクリプションサービスやデジタルコンテンツが想定以上のスピードで普及するなど、業界を取り巻く環境には変化が起きています。これまで培ってきた財産を大切にするためにも、今、社内には新しいことにも挑戦しなければならないという良い意味での危機意識があります。年齢に関係なく、社員みんなが何かに挑戦しているし、これから入ってくる学生の方にはなおさら、チャレンジする姿勢でいてもらいたい。そういう学生にこそ、小学館に興味を持ってもらいたいですね。
───最後に、今回のプロジェクトを通じて学生の方に向けて期待していることを教えてください。
元藤さん せっかくやるのだからとにかく楽しんで取り組んでもらいたいですね!ゼミの課題でやるとか、自主的に参加するとか、参加理由は人によって違うと思いますが、前のめりでやるか他人任せでやるかの姿勢は自分で決められます。力を入れずに取り組めば、やっぱり身になって残るものは何もありません。この課題は、世の中に面白いことを発信できる可能性を秘めたテーマだと信じているので、ぜひ真剣に取り組んで、課題にも、自分にも、熱を込めて向き合う時間にしてもらえたら嬉しいです。
───本日はありがとうございました!
元藤祐輔 さん
株式会社小学館
総務局 人事・人材課
まんがの編集者を志望し、2010年に入社。制作局を経て、少女まんが誌『Cheese!』編集部へと異動。その後、子ども向け雑誌『ぷっちぐみ』編集部も経験し、2022年10月人事部へ。棺桶に入れてほしい1冊は、手塚治虫の『ブラックジャック』。