<中編>お金には「良い稼ぎ方」と「悪い稼ぎ方」があります。金融教育家・田内 学さんに聞く、お金を稼ぐ意味

お金は「知らない人に助けてもらうためのチケット」で、お金が存在するから、知らない人同士でも助け合うことができる。「働く」という行為は、本質的には「誰かの役に立つ」ということ。お金は、誰かの役に立ってこその対価。
──だとすると、「お金を稼ぐ」っていいこと? それとも悪いこと? 前編に引き続き、金融教育家の田内さんにお聞きします。
プロフィール

田内 学さん
1978年生まれ。2001年東京大学工学部卒業。2003年、同大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・ サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーダーに。2019年、退職後は、子育てのかたわら、社会的金融教育家として講演や執筆活動 を行っている。noteでは、経済やお金の情報を発信している。主な著書に「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)。
Q2.「良い稼ぎ方」と「悪い稼ぎ方」の違いはなんですか?
A.「人の役に立って対価をもらうこと」と「搾取」の違いです。

前回、「働く」を考えるとき、お金のことだけを考えるのではなく、誰のために、どんな役に立ちたいのかを考えてはみませんか、という提案をしました。反対のことに聞こえるかもしれませんが、この提案が、遠回りのように見えて、実は「お金を稼ぐ」ことにつながっていきます。
先に結論から言ってしまうと、たくさんの「人の役に立つ」ことで多くの「お金を稼ぐ」ことは、「良い稼ぎ方」だと僕は考えています。
いまは、僕が学生時代だったころと比べて、相当便利な世の中になったと思います。スマホひとつでいろいろなことができちゃいますよね。
Googleで調べものをしたり、Amazonで買いものをしたり。その生活には欠かせないiPhone、Google、Amazon… これらの商品やサービスを生み出した人たちの名前が、世界の富豪ランキングの上位に並んでいます。
近年、「世界の格差が広がっている」と言われ、いまはフランス革命が起きる前と同じ状況にあるという学者もいます。しかし、フランス革命のときのように、王侯貴族たちが、立場や権力を利用して、人々からお金を奪っているわけではありません。
お金を稼いでいる人たちの多くは、たくさんの人の役に立ったから、その結果としてお金持ちになったのです。

もちろん、金銭的な格差が広がりすぎることは良いことではないと思います。しかし、どのような稼ぎ方をしたのかを見ずに、金銭的な格差だけを切り出して考えるのは問題だと思っています。
大金持ちの話だけではありません。人の役に立つことで稼いでいる人が存在しなければ、社会は成り立ちません。ですから、誰かの役に立って価値を生み出して、正当な対価をもらうのは、「良い稼ぎ方」のあるべき姿でしょう
反対に、「悪い稼ぎ方」についても考えてみましょう。
アイドルのライブチケットを高値で転売する、いわゆる「転売ヤー」はどうでしょうか。この人たちは、正規の金額よりも高い金額でチケットを売って、その分の利益を懐に入れています。たしかに、ライブに行きたいファンにとっては、高いお金を払ってでも、ライブに行けるのはうれしいことかもしれません。ですが、「転売ヤー」は、「モノ」をただ横に流すだけで、何の価値も生み出していません。

価値を生み出していないのに、対価をもらおうとする人ばかりが増えると、社会は成り立ちません。
このように、「人の役に立つ」ことと「お金を稼ぐ」ことは結びついています。「お金を稼ぐこと」は、誰かの役に立っていて、社会の一員として働いている証でもあります。
以前、日本財団が行った「18歳意識調査」という、世界各国の17〜19歳へのアンケート結果を見て、驚いたことがあります。
日本人は謙虚なのかもしれませんが、「自分で国や社会を変えられると思う」という項目で「変えられる」と感じている日本人は2割弱。一方で、他国の人たちの4〜8割が「変えられる」と回答。日本人が圧倒的に低い数字だったんです。
理由はいろいろと考えられますが、自分も社会の一員だという実感を、なかなか持ちづらいのかもしれません。
ですが、やっぱり、社会をつくるのは私たち一人一人なんです。「社会」に出ることは、人と人との支え合いのなかに入ること。私たちの行動が、確実に、社会をつくります。

とはいえ、「社会に出て、人の役に立つってむずかしい」と思う方もいるかもしれません。僕も、大学生の頃はそう思っていたので、よくわかります。
でも、シンプルなことなんです。前編 でお話ししたトンカツ屋さんの例も、美味しいトンカツをつくって、人の役に立ったから対価をもらえていますよね。
そんなふうに、身近な誰かのことから、周りを見渡して「人の役に立つ」ことを想像してみる。そうすることが、ゆくゆくは、「良い稼ぎ方」をして「たくさん稼ぐ」ことにつながっていくのだと思います。
<前編>はこちら
<後編>はこちら
スタッフクレジット:
取材・執筆:片岡 由衣
イラスト・漫画:ホリプー
撮影:豊島 望