<後編>その人自身の内側から本当の心の声が出たな、と思える回がよい雑談。雑談の人・桜林直子さんに聞く、「雑談」の効能

プロフィール

桜林 直子さん
1978年、東京都生まれ。洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し、クッキー屋「SAC about cookies」を開店する(現在はオンライン販売のみ)。noteで発表したエッセイが注目を集め、『セブンルール』に出演。著書:『世界は夢組と叶え組でできている』(プレアデス出版)では、ユニークな視点から働き方・生き方についてのヒントを提案している。現在は「雑談の人」という看板を掲げ、雑談サービス「サクちゃん聞いて」を主催。コラムニストのジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組『となりの雑談』も好評配信中。
Q3.「自分を知る」ために文章を書いてみようと思ったのですが、苦手です。どうすればいいですか?
A.あなたに向いているのは「誰かと雑談する」ことかも。

前回は、「自分を知る」ことの必要性や、そのためのヒントについてお話しました。じゃあ、ぴったりくる言葉を使いながら、どんなことをしていくと自分のことをもっと知ることができるのか。
私自身の話で言えば、「文章を書くこと」が、自分について知ったり、過去を整理するために一番しっくりくる方法だったと思っています。「夢組」と「叶え組」の考え方も、文章だから書けたこと。

私はそうやって今まで自分のできごとや思考を整理してきたので、昔から、周りの人に「どうやって考えればいいですか?」と聞かれたときは、よく「文章にして書き出してみるといいよ」と答えていました。
でも、文章を書くことってどうやら難しいと感じる人が多いみたい。そこで私が始めたのが「雑談」という取り組みです。書くのが苦手なら、私に向かって話してみるのならできるのではないかな、と。そうやって、自分について整理できる人が増えるといいなと思ったんです。
私は現在「雑談の人」として、さまざまな人と雑談することを生業としています。
みなさんの背景はさまざまで、「就職活動の考えを整理したい」「いつも聞き役にばかり回ってしまうから自分の話をしたい」など、いろいろな理由で人が雑談しにやってきます。

でも私は、アドバイスは基本的にしません。相手の話を聞いて、問いを投げかけて、相手が考えを整理するのを手伝うだけ。聞く人がいるだけで、みなさんびっくりするほどお話されるんですよ。
今までに延べ1500回を超える雑談をしてきましたが、その中でも「いい雑談」だと思うのは、その人自身の内側から本当の心の声が出たな、と思える回。
そして「あまりよくなかったな」と思ってしまうのは、相手が「正直な言葉」で話せていないなと感じるときです。
正直にいるっていうのは、ただウソをつかないってことだけじゃなくて、言葉と心が合っている、ということ。私にどう思われるかを気にしてしまい、本人の心とちがうことを言ってしまうと、きっとどれだけ話してもモヤモヤが残ってしまうと思います。

飲み会や、誰かと会ったあとの帰り道って、ホクホク満足して帰るときと、なんだか少し疲れちゃったなと感じるときがありませんか?
帰り道って、今日という一日が自分にとってどんなものだったかが出てきやすい時間。自分が正直に話せたり、誰かの正直な言葉を聞けたときはホクホクするし、逆に正直でいられなかったりするとモヤモヤする。
私は雑談をホクホクした場所にするために、まず私自身が正直に話すことを気をつけています。
あとは、相手の話をジャッジしないこと。相手が話しているときには自分の話を重ねないこと。求めていないのにアドバイスされたり、話をすり替えられたりすると、相手が自分の気持ちを話すことを諦めてしまうから、そういうことはしないように心がけています。
文章を書いて自分自身のことを整理できる人は文章を書いたらいいし、もし難しいなと思う人は、「正直な気持ちを話して聞いてくれる誰か」を見つけて雑談してみるのがいいかもしれません。

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スタッフクレジット:
取材・執筆:あかしゆか
漫画:吉本ユータヌキ
撮影:菊田 香太郎