<前編>分身ロボットは、あらゆる人に必要な「もう一つの身体」をつくる。ロボット研究者・吉藤オリィさんに聞く、ロボットで目指す社会

東京・日本橋には、身体が動かせない人でも遠隔から操作可能な分身ロボット「OriHime」たちが働くカフェがあります。その名も、分身ロボットカフェ。

開発者であるオリィさんは、このロボットは、あらゆる人の「孤独の解消」につながるのだと言います。いったい、どういうことでしょう? お話を聞いてみましょう。

プロフィール

吉藤 オリィ(よしふじ・おりぃ)さん

奈良県生まれ。小学5年~中学3年まで不登校を経験。
高校時代に電動車椅子の新機構の発明を行い、JSECにて文部科学大臣賞Intel ISEFにてGrand Award 3rd を受賞、その際に寄せられた相談と自身の療養経験から「孤独の解消」を研究テーマとする。早稲田大学、孤独解消を目的とした分身ロボットの研究開発を独自のアプローチで取り組み、2012年株式会社オリィ研究所を設立。分身ロボット「OriHime」、ALS等の患者さん向けの意思伝達装置「OriHime eye+ switch」、寝たきりでも働けるカフェ 「分身ロボットカフェ」等を開発。2021年度「グッドデザイン賞」大賞に選ばれる。Ars Electronica -Golden Nicas受賞。

Q1.ロボットはどんな人に必要ですか?

A.あらゆる人に必要です。私がつくっているのは、 将来、誰もが迎える「寝たきり社会」でも、社会に参加できて、孤独を解消できる分身ロボットです。

マンガ
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 「ロボットコミュニケーター」を名乗る私の活動すべてに共通する目的でありミッションは「孤独の解消」です。
 ここでいう孤独とは何か。私の考える定義は、「自分が誰からも必要とされていないと感じ、辛さや苦しさに苛まれる状況」です。

 人は移動したり対話したり、何らかの役割を果たしたりすることで社会に参加していますが、それができない状態になると人は無力感に苛まれ、孤独に陥ってしまうのです。

分身ロボット「OriHime」

 そこで私は、孤独を解消するためのツールとして「もう一つの身体」となる分身ロボット「OriHime」をつくって、社会に広めています。
 遠隔操作できる分身があれば、自分が動けなくても「移動」できるし、分身がコミュニケーション支援できれば「対話」を促進できる。分身ロボットを介し、仕事や作業をすることで、「役割」を得ることも可能です。

 私自身のことをいえば、小学生から中学生のころがまさに孤独の時期でした。体調をこわし検査入院などで学校を休んだことがきっかけに家から出なくなり、部屋で横になって天井ばかり眺め続けました。本当に辛かった。

 あとから思ったのですが、あのような孤独状態は、だれの身にも起こり得ることです。病気や怪我の恐れはいつだってありますし、年をとれば多くの人が寝たきりになる。日本の統計を見れば、健康寿命と平均寿命の差は約10年。つまり、「孤独」とは、将来的にみんなが直面する課題です。

 では、寝たきりの人が「移動」「対話」「役割」を失わないためには、どうすればいいか? 私の考えたひとつの答えが、分身ロボットによってもう一つの身体を得ることです。

吉藤 オリィさん

 私は2013年から、ALS(神経疾患の難病で徐々に身体を動かせなくなる)の患者さんたちとともに研究を始め、目だけで操作できるパソコンをつくったり、「OriHime」を世に広める挑戦をしてきました。
 多くの人はみんな寝たきりになることがわかっていても、どうしたらいいか、いまのうちから本気で考えている人は殆どいない。だから、いまは寝たきりの先輩たちとディスカッションして発明を進めています。

 そうしたテクノロジーを使って、みんなが働ける世の中を目指そうと考えて、2021年に分身ロボットカフェを立ち上げました。ここでは、全国にいる身体を動かせないスタッフたちが、分身ロボットを介してカフェの仕事をしています。

 移動が困難な人たちの働く場所を、これからどんどん増やしていきたい。寝たきりだと働けない、キャリアが築けない。そんな社会ではなくなる日は、そう遠くないはずです。

 引きこもっていた小中学生時代、私は「死んでしまいたい」「自分なんていない方がいい」と考えていました。あんな思いは二度としたくない。私はまずもって自分自身の孤独の解消のために、いろんな研究や実践をしています。それがみなさんにとっても役立つものであれば、もちろん嬉しいことだと思っています。

分身ロボット「OriHime」

<中編>はこちら

スタッフクレジット:

取材・執筆:山内 宏泰
漫画:あまいろ
撮影:黑田 菜月

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