
介護実習を始めるにあたって、不安を抱く学生さんは少なくありません。特に不安要素として挙げられることが多いのが「実習記録をきちんと作成できるか」。文章が苦手な学生さんほど、意識的に学ぶ必要があります。実習生として真剣に記録物に取り組んだ経験は、プロとして現場に立ったときにも必ず役立つはずです。
※本特集で取り上げる書類の書式や書き方は、あくまで参考として例示するものです。実際の書類作成で迷うこと、分からないことがあれば、担当教員や実習指導者などに相談してください。また、先生方の指導と本特集の内容で異なることがあれば、先生方に従ってください。
第6回 アセスメントシートの書き方
「アセスメントシート」作成の主な目的は、利用者さんの情報をもとに生活課題を統合・分析すること。介護過程の展開において欠かせない存在ですが、記入欄が多いこともあり、何から手を着ければいいか迷う人も多いのではないでしょうか。ここでは、アセスメントシート作成のポイントを分かりやすくお伝えします。
INDEX
介護のニーズをとらえるために必須!
介護におけるアセスメントとは、支援が必要な利用者さんの情報を専門的な視点から分析し、どのようなケアが求められているか検討する事前評価を指します。介護過程の展開では個別支援計画を作成・実施しますが、その「根拠」に当たるのがアセスメントシートです。利用者さんのニーズを明確にし、適切な計画を立案するためには、十分なアセスメントが必要不可欠。介護過程の展開における最初のプロセスにして最大の要だといえるでしょう。
情報収集した内容を定められた書式にまとめていくわけですが、ここで注意したいのが個人情報の漏洩です。アセスメントシートでは、利用者さんの生活歴や身体機能、家族構成など、多岐にわたるプライベートな情報を扱います。場合によっては、障害の有無や経済状況といった極めてセンシティブな情報を書き込む可能性もあります。実習に関わる書類の中でも、特に取り扱いに配慮が必要なことを覚えておいてください。
積極的な情報収集でより良いアセスメントを
介護実習で用いるアセスメントシートは複数枚にわたることが多く、ボリューム面でも作成が大変な書類と感じられるかもしれません。書式は様々ですが、以下のような項目について記入欄が設けられています。
- 基本的なプロフィール:性別、年齢、要介護度、疾患名、生活歴、入所の経緯、家族構成、施設での過ごし方など
- ADLやIADL、コミュニケーション、社会参加、精神状態
- 本人や家族の思い、関わりの中から分かったこと
- 生活課題の統合・分析
1~3の情報に適宜番号を振っておき、4で生活課題の統合や分析を行う際に、根拠となる番号を書き添えるケースもあります。
実習期間は短いですから、受け身の姿勢でいると、なかなか利用者さんの全体像を把握することは難しいもの。実習施設から提供される情報を漏れのないように書き込むことはもちろん、自らも積極的に情報収集を行いましょう。
まずは「困っていること」について考えてみよう
どのような情報が必要になるか分からずに迷うことがあったら、「その人が何に困っているか」に焦点を合わせてみましょう。介護サービスを受けている人の背景には、必ず生活上の困難が存在します。まずは一番の困りごとに注目し、そこから視野を広げていくのがお勧めです。生活課題がはっきりとすれば、個別支援計画の目標も立てやすくなるはずです。
また、その人のADLやIADLをとらえるとき、単純に「できる/できない」だけで考えないことも大切です。ある行動ができるかどうかは簡単に白黒が付けられるものではなく、間にグレーの部分があることを意識しておきましょう。ある行動を複数のプロセスに分割し、それぞれについて考えてみると分かりやすくなります。例えば「着替え」なら、「ボタンを外す」「腕を引き抜く」「新しい衣類を取る」「シャツをかぶる」「そでを通す」などに分けることができます。どの部分が難しいかによって、必要な支援も異なってきますね。

「体」だけでなく「心」も意識した情報収集を
介護におけるアセスメントでは、身体的な機能に注目してしまいがちです。しかし、本当の意味で利用者さんを支えるためには、精神的な側面にも目を向けることが欠かせません。日本介護福祉士会が「衣・食・住・体の健康・心の健康・家族関係・社会関係」という生活7領域についてのアセスメントを推奨していることからも、心に関するアセスメントの重要性が分かります。

とはいえ、実習期間に利用者さんと深い信頼関係を築き、「不安や憂鬱な気持ちはありますか?」といった直接的な質問をするのは難しいかもしれません。その場合は、心のあり様が反映される言葉や行動を観察し、そこから心の内を探ることが有効です。周囲とのやり取りやレクリエーションへの反応などから、その人の気持ちが読み取れることは少なくないのです。
本人の「できること」「やりたいこと」にも目を向けて
介護福祉士をめざす以上、「利用者さんを支援したい」という気持ちは大切です。しかし、相手を「何もできない人」ととらえたり、できない部分にばかり注目して関わったりすると、本人のやる気や機能を奪うことにつながりかねません。アセスメントシートを作成する際も「できることは何だろう?」という視点を忘れず、できるだけ前向きな表現を用いることが大切です。
さらに、その人が何を望んでいるか、どのようなことが好きかといった点にも目を向けてみましょう。例えば、家事が得意で物静かな人と、スポーツ好きの人では、提案すべきレクリエーションがまったく違うものになるはずです。利用者さんの希望や好みを把握することで、その後に考える目標や計画がより個別性のあるものになります。