博士の就活
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博士の就職活動の特徴
博士の就職活動の特徴
博士の就活は、学部卒や修士卒と違うとはいっても理系就活である以上、ほかの項目で触れた具体的な活動のポイントは共有できます。理系としての専門性を博士という学位が担保してくれる分、修士以上に高い専門分野の能力が期待されます。
一方、スケジュールについては注意が必要です。修士修了までの採用においては通常、年間計画に基づき、3月広報解禁、6月選考活動解禁という指針に準じて行う企業が多数ですが、博士採用の場合はそもそもこの指針の対象ではないため、企業は時期を気にせず自由に採用できます。学部・修士と同じ選考スケジュールの企業もあれば、中途採用と同じく時期を定めず通年採用とする企業もあります。いずれにしても法律によって定められたものではありませんので、必ず志望先企業のスケジュールを確認することを忘れないでください。
エントリーシート(ES)や面接などについても、学部生や修士生と同様にしっかりスケジュール管理をして、チャンスをしっかり生かす心構えで臨んでください。
広い視野で企業を探す重要性
広い視野で企業を探す重要性
「博士の就職が難しい」というのは今や過去のことだといえるかも知れません。就職で苦労するのは博士だからではなく、きちんとした準備をしていないことや、個人の能力に起因したりすることがほとんどです。とくに苦労する大きな理由は「選択肢の狭さ」にあります。
修士以下の学生同様、博士後期課程の学生でも、機械・電気・情報など、企業の事業内容に直結する専攻の場合は比較的選択肢も豊富で、また大手企業を中心に博士採用枠をあらかじめ用意している企業もあります。しかし基礎系を中心とする産業と直結しない専門分野や、専門分野外の企業に就職する場合は、しっかりした計画を立てないと非常に苦戦します。
全国の大学で見られる傾向ですが、基礎研究など、企業の事業内容との関連性が乏しい分野を専攻する学生は、初めから特定分野にこだわらない広い視野で企業を探すべきと理解していることが多いようです。一方、BtoC企業のような人気企業「だけ」に絞っての活動は、とてもリスクのある危険な姿勢です。博士の就職では、とにかくどん欲に機会を増やすことが欠かせません。自ら可能性を下げるような応募は避けましょう。
博士だからこそ、「志望企業群のポートフォリオ」を作り、第1志望群から順に何社ずつか志望先企業を挙げて、入念に企業研究を行うことが重要です。採用の厳しさを基準に、大学受験時の併願の要領で仕分けします。たとえば、誰もが知っているような知名度の高い大手企業・有名企業やBtoC企業は第1志望群、自分の専門性と一致するが知名度の低い企業や中小企業などを第2志望群、それ以外は、大量採用がある、理系グループ内であれば専門分野を問わない企業、大企業のグループ(系列)会社といった分類で第3志望群とし、数社ずつグルーピングすれば、同じ10社応募、20社応募でも、現実度は格段に上がります。
第1志望群企業
- 株式会社AAA工業ホールディングス(一部上場大手有名メーカー)
- BBB化学株式会社(一部上場大手メーカー)
- 日本CCCプロダクツ株式会社(未上場だがテレビCMで有名)
第2志望群企業
- DDD化学株式会社(一部上場BtoB企業)
- EEE化学工業株式会社(未上場有力専門BtoB企業)
- FFF農薬株式会社(有力商品で専門技術が生きるBtoB企業)
第3志望群企業
- 株式会社AAA工業ケミカルズ(大手メーカーのグループ企業)
- BBB商事システムズ株式会社(大手系列IT企業)
- GGGシステムコンサルティング株式会社(独立系IT企業。理系であれば専門問わず応募可能)
博士学生の就職で、企業の研究職を志向する人は多くいますが、一方で理系博士の対極にあるともいえる営業職に就く博士もわずかですが存在します。
高度な機械設計や技術的知識を持つ博士の中には、医療機器メーカーなどに就職後、顧客である大学教員や医師とも対等か、場合によってはそれ以上の専門性を持つ専門家としてビジネスを展開している人もいます。博士号を取得するほどのインテリジェンスを持ち、高い専門知識と深い思考・考察・論理展開能力があり、英語の論文も直接読んで、自ら学会発表までこなせる専門家は博士以外にそうそう見当たらないのではないでしょうか。そうして活躍する人材は恐らく将来の基幹人材として、企業内外で評価されるでしょう。外国の企業のようなグローバル環境では、研究開発担当者がドクターなのは当たり前であり、マスター以下の担当は単なる作業者のような扱いを受けることすらあるといわれます。
博士採用時の年齢について
博士採用時の年齢について
ビジネスのグローバル化とともに活躍するフィールドが拡大されてきた博士ですが、その一方で国内には、まだまだ年功序列制の人事システムを取っている企業が少なくありません。博士学生は学部卒より5年、修士卒より3年以上年数を重ねているということは、20代後半から30歳くらいとなり、企業では初級管理者(主任、アシスタントマネージャー等)程度のキャリアに相当する年齢です。しかし業務経験のない人が、はじめから日本企業で管理職を務めるのは無理があります。
博士採用を躊躇する企業は今でも存在しますが、その理由の1つにこうした年功制人事で処遇が難しいというものがあるのです。まだまだ日本企業では年下の上司のような存在は標準的ではなく、一定年齢になれば役職に就くケースも少なくないため、会社員としての経験のない博士学生が入社することで、こうした序列が崩れるのを忌避する企業があるのは事実です。
逆に完全実力主義の会社は、ベンチャーなど歴史の浅い企業、外資系金融やコンサル企業等に多く見られます。どちらが良い悪いではなく、自分自身のキャリア観に基づき、どういった社風が自分に合うかを考えるべきでしょう。
ちなみに完全実力主義の企業であっても、年齢を気にされることはあります。その場合は年齢を理由にあきらめるのではなく、社会人経験がなくとも企業組織で柔軟に対応ができることを説明すればよいのです。
企業が懸念する「柔軟性の無さ」には、研究活動を通じていかに柔軟な発想を鍛えたか、研究室以外の人とも交流してアイデアを練った、国際学会で積極的にコネを作り活動ベースを広げた、指導教員と学生の間に立って研究室運営に寄与した等、企業社会で発揮できる能力を持っていることをアピールできれば、単に年齢だけで採用が不利になることはありません。
研究内容だけでなく+αを伝える
研究内容だけでなく+αを伝える
博士学生は修士学生以上にESや面接で、自分の研究についてしっかり説明することが求められます。「研究概要書」のような形式で、A4・2枚くらいに研究内容をまとめておき、いつでも提出できるように、著作権やパテント、研究上の秘密事項などを除いたうえでまとめましょう。
企業は学会ではなく、面接は学会発表ではありませんから、最新の研究による機密情報を伝えることが目的ではないのです。研究の目的や方向性、なぜそうした実験やリサーチ方法を選んだかなど、研究そのものについての説明に加え、応用・転用・実用の可能性なども分かりやすくまとめておけば、面接でもそのまま説明に使えます。
面接には専門技術者、研究者以外の方も同席する可能性がありますので、専門外の人にも分かりやすい説明ができる人材であることを伝えるのは、博士の就職において重要です。
またアピールすることは研究内容だけにとどまらず、研究室の運営や指導教員、修士や学部生とのつながり、学会活動などで広げた人脈など、博士課程で経験したこと、身に付けた強みをしっかり面接官に伝えましょう。
無理に学生時代のアルバイトやサークルの話などをするより、「研究室」という組織内で監督者であった教員や、部下ではなくとも指導にかかわった下級生との関係は、組織の中で活躍できることをアピールする際に、博士ならではの武器になるでしょう。
英語アピールは欠かせない
英語アピールは欠かせない
研究活動実績やTOEICスコア、短期や長期の留学など海外経験はどんどんアピールしましょう。
博士後期課程を修了するには英語の論文や研究発表などが必要となり、国際学会での経験や、海外交流の実績もあるはずです。TOEICのスコアを求められることもあるかも知れませんが、スコアが高くない場合は実績でも良いので、英語でのコミュニケーションができることをアピールしましょう。ネイティブや帰国子女のように「ペラペラ話すことができるレベル」である必要はまったくありません。英語を理解して「仕事(研究)ができる」こと自体が企業で活躍する博士の強みになります。
英語での仕事環境もさまざまですし、外資系企業であっても外国人に囲まれて仕事をするとは限りません。外資でも経営陣以外は日本人だけの会社や、日本企業でも英語を公用語化する会社など、環境はさまざまです。自ら機会を減らすことが無いように、ぜひ英語環境にもチャレンジしましょう。
実際に英語でビジネスをする人の多くは帰国子女などではありません。カタカナ英語、ブロークン発音でも気にせず、どんどんビジネスを進められる姿勢は、理系博士も参考とすべきでしょう。
繰り返しますが、企業におけるドクターの存在はグローバルスタンダードです。海外とのやり取りは「ドクター〇〇」と呼ばれて仕事をする環境です。ビジネスの世界で実績を積み、世界的な活動をするのに、博士であることは大きな力になります。
産業界、アカデミア以外の道
産業界、アカデミア以外の道
博士人材のキャリア選択には、前述のように産業界に進むもの、大学や公的機関の研究職といったアカデミアに進むものに加えて、第3の選択肢として「起業」が考えられます。博士人材自身がビジネスをスタートアップさせ、その専門性で生み出した研究成果やパテント、技術などを事業化し、法人として独立することを指します。
生成系AI、バイオテクノロジー、新素材、クリーンエネルギーなど、研究課題が時代のニーズにもマッチし、それが事業化できれば単なるビジネスの成功以上に、歴史的な価値を創出するほどの意義があります。
自らビジネスを立ち上げ、法人を作るというのは簡単ではありませんが、今、国を挙げて、起業への支援には風が吹いています。さまざまな支援や資金援助などを活用し、既に大学発ベンチャーから上場に至った例などもあります。
イノベーションの創出を目指し、新たな技術や素材、製品、システムを開発することは国の大きな目標です。政府や大学はさまざまな起業支援を行い、環境整備に努めています。事業化のためのアドバイスや資金援助、法人設立やインキュベーションオフィスやラボスペースの提供など、ゼロから立ち上げる上での支援策も打ち出されています。
特に資金援助など、従来は金融機関との関係構築のような手間も時間もかかる部分に、VC(ベンチャーキャピタル)などの投資を呼びやすいような環境も進んでいます。VCにはどうすれば事業化が可能かを一緒に考えるアドバイザー的専門家もいます。
一方、「会社・法人を作る」ことはもちろん易しいことではありません。資金調達も、あくまで実用化や製品化によって、市場で収益を得られる見通しがあるから可能になるものです。資金も得て、法人化も出来、製品を上市したもののうまく売れなかったり、事業計画が計画通りに進まないというリスクはどんな事業でも必ずあるもので、起業は当然ですが確実な成功を保証されたものではありません。
成功時の巨大なリターンや、自らの研究を社会に送り出したいという強い信念と実行力によって、道を拓くという覚悟があってこその選択肢です。関心があるなら、VCや自分の大学のインキュベーション部門など、専門家の話を聞いてみてもいいでしょう。
『理系就活の進め方』総合監修

増沢 隆太(ますざわ りゅうた)
東北大学特任教授、人事コンサルタント。ロンドン大学大学院修士課程で戦略と戦争を研究。外資系企業数社を経て、人事コンサルタント会社起業。全国の大学や企業で戦略的キャリアとコミュニケーションの講演やセミナーを行う。マイナビTVにも毎年出演。キャリアやコミュニケーションの専門家として、Yahoo!ニュース公式コメンテーターの他、テレビ、ラジオ、ビジネスコラムでの情報発信、全国で講演会を行う。日本初の理系専用就活ガイド『理系のためのキャリアデザイン 戦略的就活術』(丸善出版)をはじめ、著書も多数
Officialブログ『理系のための 戦略的就活術』
http://rikei.rm-london.com/
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