テーマ解説
インタビュー
東京・赤坂を世界の人が集う「エンタメの発信拠点AKASAKA」にするために、サステナビリティ・SDGsの視点をどのように盛り込んでいけばいいか、自由な発想で提案して下さい。
株式会社TBSホールディングス
川鍋 昌彦さん/黒木 朋絵さん
テレビ、ラジオの放送や映像制作だけでなく、文化、不動産、ショッピング事業など幅広く展開する総合メディアグループのTBS。「最高の“時”で、明日の世界をつくる。」をブランドプロミスとし、さまざまなフィールドで心揺さぶる時を届け、社会を動かす起点を目指しているといいます。現在、『赤坂エンタテインメント・シティ』計画が進行中で、2028年にTBSを中心に赤坂の街が新しく生まれ変わります。今回のテーマでもあるエンタメシティの構想と、課題に込めた思いをうかがいました。
最高の”時”にいつも、TBSがあるために。
───はじめに、TBSホールディングスについて、どんな企業か教えてください。
黒木さん
TBSというと、テレビやラジオのイメージがありますが、コンテンツ制作の他にも文化事業やPLAZAなどのライフスタイル事業をはじめ教育など事業は多岐にわたります。現在グループではVISION2030を掲げ、放送の枠を超えてコンテンツを無限に拡げていくEDGE戦略(Expand Digital Global Experience)に取り組んでいます。最高の”時”にいつもTBSがあることを目指して、心揺さぶるコンテンツを創造しています。
───EDGE戦略について、もう少し詳しく教えてください。
黒木さん
EDGE戦略は「デジタル分野」「海外市場」「エクスペリエンス」の3分野に注力し、コンテンツ価値の最大化を目指す拡張戦略です。たとえば海外では今年韓国に現地法人を設立しました。アメリカで本格的な事業も開始し、世界に向けた発信に力を入れています。またデジタル分野では配信やXR(AR、VR)コンテンツやゲームといった新領域、エンターテイメントや教育といった事業にも挑戦しています。放送の枠を超えた取り組みには、SDGsもあげられます。
───黒木さんの部署が、グループ全体のSDGsを推進しているのでしょうか。
黒木さん
はい。サステナビリティ創造センター SDGs・ESG統括部という部署で、2030年の目標達成に向け取り組んでいます。『地球を笑顔にするWEEK』というキャンペーンはご存知でしょうか?イベントや放送を通じ未来に向けたSDGsアクションを年2回、春と秋に実施しています。次回は11月に開催するのでぜひチェックしてください。
───どんな内容でしょうか?
黒木さん
SDGsに関連する特別番組をはじめTBSのサカス広場で、『地球を笑顔にする広場』と題したイベントを開催しています。大人も子どもも楽しみながらSDGsを学べるワークショップやフリーマーケットの実施、また近隣の飲食店様にご協力いただきキッチンカーを用意するなど、親子でSDGsを体験できる内容です。また、学生たちと一緒にSDGsを考えるプロジェクトも行っています。
───学生とのプロジェクトは、面白そうですね!
黒木さん
学生さんから、「TBSと一緒にSDGsを考えたい」とお問い合わせいただいたことをきっかけに、『地球を笑顔にするACTION』というコミュニティ運営が始まりました。TBSの社員食堂で提供するミートフリーメニューの開発や、最近ですと報道局の須賀川記者と井上アナウンサーがナビゲーターを務め、俳優のサヘル・ローズさん、国境なき医師団の白川優子さんらをゲストに迎え、戦争と平和を考えるイベントを開催しました。学生にも企画・制作段階から入ってもらい、TBSのTech Design Xという施設の最先端機器を使いウクライナやガザなどの現実を共有し、私たちにできることを一緒に考えました。地球を笑顔にするACTIONには、現在小学生から大学生まで、約80名のメンバーが在籍しています。
───すでにたくさんのSDGsの取り組みが、実現されているのですね。
黒木さん
気候変動対策にも取り組んでいます。2023年度にTBSの主要3施設である赤坂の放送センターと赤坂ACTシアター、ドラマの撮影によく使われる緑山スタジオで、カーボンニュートラルを達成しました。電力はすべて再生可能エネルギー由来に切り替え、それに伴い、TBS放送センターからのTBSテレビ、TBSラジオ、BS-TBSの放送は‟CO2排出ゼロ”で送出されていることになります。
この他、報道原稿やスタジオで使う台本なども少しずつ電子化し、ペーパーレスに切り替えています。世界初の水素中継車も稼働しています。
未来に向けて、赤坂を持続可能な街に。
───さまざまな取り組みは課題のヒントになりそうです。ここからテーマについて具体的に、背景なども踏まえ教えてください。
川鍋さん TBSでは『Shake The World. AKASAKA』というキャッチフレーズのもと、この赤坂を世界の人が集まる場所として、さらに、国内はもとより世界にむけてエンタメの発信拠点にすることを目指しています。『赤坂エンタテインメント・シティ』計画という、街づくりも含めたプロジェクトで、2028年の竣工を予定しています。
───テレビ局が街づくりとは面白いですね。
川鍋さん
TBSだからできる最高の時の提供を、街づくりと街の活性化に活かす試みです。地下鉄の駅から直接商業施設を展開するなどエリアの再開発を行い、劇場やホールを作り、ホテルの開業も予定しています。未来に向けた取り組みにSDGsは切っても切り離せないと考え、みなさんのアイデアを提案いただきたいのです。
───街づくり、グローバル、ローカル、エンタメそしてSDGsと大きなテーマで、さまざまなアイデアが生まれそうですが、提案の際のアドバイスがあれば教えてください。
川鍋さん
まず、自由な発想を大前提に、たとえば、『赤坂エンタテインメント・シティ』のオープニングイベントや街の盛り上げ施策をはじめ、新しく作る劇場やホールの運営における施策も考えられそうです。先日私が視察で訪れたあるホテルでは、サステナブル素材を使った食器が活用されていました。店舗や飲食店も含め、エンタテインメント性を高めた商業施設を目指しているので、さまざまな方に楽しんでいただけるメニューの開発や、海外の方に向けた言語などのコミュニケーション対応もありそうですね。他にもライブ演奏のあるレストランで、聴覚が不自由な方に向けたサービス提供の課題もあります。SDGsの17の目標に当てはめ、さまざまなシチュエーションを想像していただきたいです。
───提案として困るものがあったら教えてください。
川鍋さん 建物に関する提案は、このタイミングですと難しいかもしれません。仕組みやサービス、コンテンツといった切り口で、考えていただけたらと思います。今の学生さんは授業などでもSDGsを学んでいますし、私たちよりも知識が豊富なので、面白いアイデアを期待しています。
赤坂がこれまで以上によりよい街に、生まれ変わるために。
───先ほどもさまざまな事例をご紹介いただきましたが、他に参考となる事例があれば教えてください。
川鍋さん 今回の赤坂の街づくりは、既存のビルを壊すところから始まりました。その際影響を受ける既存樹木は出来る限り伐採せず、別の場所に避難させビルが完成した際に再植樹する計画です。また自然災害への備えとして、帰宅困難者の受け入れに対応できるようにしています。
黒木さん 赤坂という都心部では、生物の多様性も課題です。実はこの放送センターの低層棟の屋上で、ミツバチを約20万匹飼っているんです。私たちスタッフをはじめ地域のボランティアの方と一緒にお世話し、近隣の小中学校の体験学習も行っています。また敷地内にビオトープもあって、さまざまな生き物を目にすることができます。専門家を招き調査もしており、地域と住む方のことを考え環境保全に取り組んでいます。
川鍋さん
私たちは地域との関わりを大切に考えています。たとえば茜まつりという地域の恒例行事に、TBSのサカス広場を使っていただいています。もともと赤坂という地名は、この辺りの坂に生えていたあかね草が由来という説もあり、その名を冠したお祭りです。そして私たちもまた、そのあかね草にちなんだ取り組みを考えています。根を乾燥させると染料になるそうで、染めたのれんを地域の方にお渡しできないかなど、地域との交流を深めながら赤坂全体の賑わいに貢献したいと考えています。このような取り組みも参考にしていただけたらいいですね。
───歴史や文化を紐解いていくと、地域の方に喜んでもらえるヒントがあるかもしれないということなんですね。
川鍋さん 街の未来を考える際に、過去は切り離せないものです。特にこの辺りは伝統のある地域です。華やかな場所でもありましたから、その流れを汲んで、未来もまた華やかな舞台を私たちが創っていかなければという思いです。新しいビルのモチーフは実は、「舞」というテーマで着物をイメージしています。歴史や文化に向き合ったからこそ、意味のあるものが創造できるのだと思います。ぜひ、学生のみなさんも興味を持ってたくさん調べて、私たちの取り組みにも共感してもらえたら嬉しいです。
SDGsネイティブとして。未来で当たり前の価値観となるアイデアを期待しています。
───審査項目で一番意識してほしい点は、なんでしょうか?
黒木さん SDGsは誰一人取り残さないことが一番の課題ですが、まずは、大人も子どもも含め街の人たちへ優しさをもって、みんなが来て良かったと思える場所にするためのアイデアを期待しています。そして、学生の皆さんはこれまで、心揺さぶる体験をする側だったと思いますが、この企画を通じ発信する側の体験を、楽しんでほしいです。
───駅の改札を出ると目の前に、ハリーポッターの階段が飛び込んできました。何気ないスペースが、まさに心揺さぶるコンテンツになっていて、あらゆるもの、場所に可能性があると感じました。訪れることでヒントも見つかりそうです。
川鍋さん
シアターに入る前から世界観を演出しています。実際に足を運んでいただけたら嬉しいですが、ホームページにもたくさん情報を載せていますので、そちらもぜひチェックしてみてください。
───最後に、学生に期待することをお願いします。
川鍋さん 『赤坂エンタテインメント・シティ』は2028年に始まります。良いアイデアは、実際に取り入れることも考えていますので、ぜひ、自由な発想で、ワクワクするアイデアを提案してください。
黒木さん
学生のみなさんは、私たち大人に比べ、SDGsがとても身近で、勉強もたくさんしていると思います。その知識をぜひ、赤坂の街づくりに落とし込んでください。今世の中では、「SDGsが大切だ」「何かしなくては」と大人が躍起になっていますが、皆さんが大人になる近い将来には、SDGsの取り組みが当たり前の価値観になるでしょう。『赤坂エンタテインメント・シティ』のSDGsが未来のスタンダードになれるように。ぜひ、この赤坂を世界中から人が訪れ、また訪れたくなる魅力ある街へと生まれ変わらせるアイデアを待っています。
───本日はありがとうございました!
川鍋 昌彦さん
2003年入社。技術局CG部で制作を担当後、2006年から1年間渡米し映画制作に携わる。帰国後はドラマのCG制作や宣伝部を歴任し、2021年から総合プロモーションセンターにてTBSブランディングを担当。SDGsワーキンググループリーダーも務め、2023年に組織改編により誕生した、赤坂エンタテインメント・シティ推進室の室長を務める。
黒木 朋絵さん
2010年入社。入社後は情報番組ディレクターとして各地へ取材に駆け回る。結婚・出産を経て2019年から4年間人事労政部に所属。新卒採用や障がい者雇用などに携わり、特にTBSグループのダイバーシティ推進に従事。現在はサステナビリティ創造センターで、TBSグループ全体のSDGs政策における企画、実施に携わる。