cat オピニオンリーダーに聞くチーム医療 Vol.3 - 医療・福祉ナビ - マイナビ2024

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オピニオンリーダーに聞く チーム医療Vol.1 鎌田 實 「命の伴走者」として、医療者は何ができるのか?

鎌田實氏は、大きな赤字を抱え苦況に喘いでいた長野県の諏訪中央病院に赴任。住民とともに作る医療を実践し、見事に経営を立て直して、患者さんはもちろんのこと、若い医療者たちが日本中から集まる病院となった。そんな奇跡を可能にしたのは、いったい何だったのか? 多種多様な医療の現場で、医療者はどんな心構えを持つべきかを鎌田氏に伺った。

「相手の身になって」考えれば
答えはおのずと見えてくる

僕は55歳の時に諏訪中央病院の院長を辞して、今は週に1回火曜日に回診をしています。僕が病室を回った時にPT(理学療法士)やOT(作業療法士)がいると、彼らは僕の診察を優先しようとします。でも僕は、訓練を見ていたいので、先にやっていいよと言います。彼らがいなくなった後に、患者さんに訓練の意味などを説明してあげることで、モチベーションが上がり、治療の意味が見えてくる。うちの病院では、重篤な患者さんでも、医療者が付き添って温泉に行ったり、花火大会に行ったりするんですが、僕から「行ったら?」とは言わないんです。自分から「行きたい」と言い出すのをひたすら待つんです。そういう意味でも、モチベーションを上げるということは非常に重要です。

日本の医療は、ピラミッドの頂点に医師がいて、その下に看護師や技術者がいると思われがちです。でも僕は、それは逆だと思っていて、臨床検査技師、診療放射線技師、臨床工学技士、PT、OT、ST(言語聴覚士)など、いろいろな職種の人たちの連携で、医療は成り立っています。チーム医療という観点で考えると、一番苦労しているのが看護師や技術者たちで、医師は一番後ろにいて、すべての責任を持つということなんです。プロフェッショナルが何重にもなって、生き生きと患者さんを支えるようになれば、医療は今よりずっと風通しがよくなるんじゃないでしょうか。

たとえば、右手足が麻痺しているので、それが少しでも動くように訓練をしている患者さんがいるとします。訓練を続けていて、ここがゴール、という判断をするのはPTやOTなんです。彼らの判断を聞いて、患者はもちろんのこと医師も、まだもう少しがんばれる、もう少しやってあげたらいいじゃないかと言いますが、PTやOTがゴールだと言ったら、それが本当のゴール。でも、実は彼らがゴールだと判断したところがスタートになるんです。右手足は麻痺していても、左手足は元気だ。じゃあ、左手足を使って社会復帰して、どうやって生き生きと生きられるかを医師やPT、OTが一緒になってディスカッションしていくことが重要なんです。医師とコメディカルスタッフとでは、専門分野が違うのですから、視点も違って当然です。しかし、すべての人に「自分はプロとして患者さんのために何がしてあげられるか」という共通のテーマがあります。相手の身になって考えれば、誰もが温かい医療ができるようになるはずです。

医療のプロフェッショナルが海外でできること

僕はチェルノブイリの原発の放射能汚染地域の子供たちの救援活動を約28年、イラクの難民の医療支援などを約15年と、海外での医療活動にも積極的に携わってきました。
そうした活動を通じて思うのは、日本の医療技術はとても優れているので、医療のスペシャリストが、勇気を持ってもっと海外へ飛び出していけば、救われる人は確実に増えるはずだということです。
僕が行っているチェルノブイリのある病院では、どこかの国から届いた高額の医療機器が、ほとんど使われていないまま放置されています。というのも、医療機器はちょっとのことで動かなくなってしまうので、メンテナンスが必要だからなんです。高いお金をかけて機械を贈っても、贈りっぱなしでは意味がありません。その点、僕がかかわっている日本チェルノブイリ連帯基金というNPOでは贈った機械を必ず臨床工学技士が見に行くので、使えなくなったからといって処分されたりせず、きちんと役目を果たしています。

ベラルーシ共和国のチェルチェスクでは、僕たちが贈ったエコーの機械が大活躍して、多くの子供の甲状腺がんを発見しました。甲状腺がんの手術後、経過を見るために甲状腺ホルモンの測定をしますが、それも臨床検査技師が行くことによって可能になります。医療者がフットワーク軽く海外へ出て行くようになれば、海外での日本の評価も変わってくるのではないでしょうか。世界の貧しい国に、税金を使って大金を投入しても、実はあまり喜ばれていません。額は多くなくても、そこに人が介入することが大事です。若い読者の方にも、そんな仕事の場があることを知っておいていただきたいと思います。

PROFILE

鎌田 實(Minoru Kamata)
医師・作家
東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県・諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり、つぶれかけていた病院を再生させた。医師として地域医療に携わるかたわら、チェルノブイリ、イラク、東日本大震災の被災地支援などにも取り組んでいる。
  • 書籍人間らしくヘンテコでいい(集英社)
    人間が幸せに生きるのに、本当に必要なものは何か。鎌田氏が遠いルーツを求めて人類発祥の地アフリカほか各地を訪ね、あらゆる人種と触れ合ってみつけた答えは、人間らしければ「ヘンテコでいい」だった。日々不安を抱え、弱気になりがちな人に贈る、生き方のコツ。
  • 書籍がんばらない(集英社)
    本当に豊かな生、また死とはなんだろう。延命だけの治療に批判的であり、患者の側に立った医療を目指している名物医が、日々患者やその家族に接する中で綴った、感動エッセイ。多くの人に感銘と勇気を与え、TVドラマ化されるなど、鎌田氏を一躍著名にしたベストセラー。
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