自然災害や大規模な事故が発生した際に、チーム医療にあたる存在として注目を集めているDMAT(Disaster Medical Assistance Team/ディーマット)。国立病院機構災害医療センターの小西英一郎氏は、診療放射線技師としてDMATの活動に携わっている。機動性が重視されるDMATにおけるチーム医療の実態を、小西氏に聞いた。
災害時の出動だけでなく、隊員養成研修などの活動も
最初にご説明しておきますが、DMATという“職業”があるわけではありません。あくまでもDMATは「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」であり、医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成される医療チームのことを指しています。
よく勘違いされるのですが、常にDMATの活動だけを行っているのではなく、私自身、日常は国立病院機構災害医療センターで、診療放射線技師としての業務を行っています。また、災害時の出動のほか、DMATの隊員養成研修にインストラクターとして参加するのも役割の1つになります。
私が災害医療センターに入って最初に興味を持ったのは救急医療でした。当院では三次救急を受けており、救急の現場に遭遇する機会が多くありました。そんな折に上司からDMATの隊員になれるチャンスを与えられ、現在、私がインストラクターを務めている隊員養成研修を受講することになったのです。
もともと上司から、どのような研修が行われるかも聞いていたので、特にとまどいはありませんでしたが、やるべき業務や考えなくてはいけない領域がとにかく広く、「全体に目を配る」という視点が必要なDMATの特徴を学ぶことができ、日常の業務においても活かすことができると考えました。
災害現場で最も重要なのはコミュニケーション
DMATは地震や土砂崩れ、大雪などの自然災害のほか、トンネルの崩落や工場の爆発といった大規模な事故の現場でも活動を行います。
被災地や事故現場にも出動しますが、被災近辺の病院で人員が足りないという場合の支援も大きなウエートを占めます。現場に出動した場合には、本来の業務調整員としての職域以外の対応が求められるのが、DMAT隊員の特徴となります。
こうした現場では“情報の錯綜”が発生しがちです。「言った」「言わない」ということにならないよう、チーム医療の現場では、情報共有が最重要とも言えます。
医師と看護師、同僚とコミュニケーションを取り、集めた情報を元にどういう対応をすると、ロスのない診断・治療ができるのかが、一刻を争う状況の中では大きなカギとなります。それだけに、これからチーム医療を志す学生さんには、「誰とでも会話ができる能力」、「誰とでも会話をしようとする能力」を身に付けておくことをおすすめします。
また、災害医療は学生時代、なかなか習う機会がない分野ではないかと思います。そのため、今後この分野を目指す方々には、ぜひ、ニュースなどにアンテナを張り、災害が発生した時にはどのようなことが付随して起こったのかなどを気にかけておくとよいと思います。
チーム医療の現場で得た最大のものは「人とのつながり」
DMATの隊員は、2020年現在、全国で約15,000人おり、大きな病院にはたいていDMAT隊員が在籍しています。隊員が在籍している医療機関には、いざというときのために標準資機材が配付・配備されています。診療に使用する機器だけでなく、衛星電話やトランシーバーといった通信機器、パソコンやプリンタなど、資機材は多岐にわたります。
災害や事故の現場で、通信手段の確保は私たち業務調整員の大きな責務の1つであり、とても重要な役割であります。また、現場では、もちろん自分の専門分野以外もすべて対応しなければなりません。それだけに、実際の業務の中でより多くの知識やスキルを幅広く身に付けていくために、日本各地の災害医療に係る多くの方々と常にコミュニケーションを取ることが重要なのです。
DMATの隊員になって得たものの中で、こうした「人とのつながり」はとても大きなものだと思います。災害医療の現場では多くの職種の方々がチーム医療に携わっており、私自身が多くのことを吸収できる環境です。
DMAT隊員となる事で、このようなチャンスを得ることができたので、これからも「人とのつながり」を大切に、自分のスキルを磨き、災害医療に興味を抱く方々との交流を深め、発展していけたらと思っています。
PROFILE
- 小西 英一郎(Eiichiro Konishi)
- 独立行政法人国立病院機構災害医療センター
診療放射線技師 撮影透視主任 -
2004年3月、国際医療福祉大学保健学部 放射線・情報科学科卒業。
同年4月に国立精神・神経センター武蔵病院で非常勤として勤務を開始し、翌年には国立病院機構災害医療センターで常勤採用となる。
その後、国立病院機構千葉東病院での勤務を経て、再び2013年4月より国立病院機構災害医療センターに勤務。
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