経営哲学とは何か?
企業は必ず経営哲学をもっている
各企業には「経営哲学」あるいは「企業理念」「経営理念」などと呼ばれるものがあります。これらは企業の「考え方」や「志向性」を示す非常に重要なものとされています。では「経営哲学」や「企業理念」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。そして、私たちの就活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。企業における「経営哲学」の役割について理解を深め、業界・企業研究や企業選択の参考にしましょう。
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の3種類でとらえる経営哲学

経営哲学とは「自分たちの会社はどうあるべきか?」ということを示す非常に重要なものです。企業理念、経営理念、信条、社是、クレド、フィロソフィーなど会社によって呼び方は異なりますが、意味するところはほぼ同じです。世界の有力企業では、これらを「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の3種類で定義していて、会社にとって最も大事なものと考えられています。
ミッションとは、その企業の「存在意義」。この企業は、どんな組織なのか、何のために存在し、何を行うのか。企業が社会において果たしたいと考えている役割や使命など、企業活動の根幹を規定するものです。普遍的であり、かつ時代と共に読み替えられるもの。それが「ミッション」と呼ばれています。
ビジョンとは、その企業の「方向性」。ミッションで定義された考え方に基づいて、具体的に何を行うのか、ある時点までに「こうなっていたい」と考える到達点です。自社が目指す数年~数十年後の中長期的なイメージを、従業員や投資家、社会全体に示す、企業が目指す姿を示すものとされています。これは経営環境に合わせて、流動的に設定されます。
バリューとは、その企業の「価値観」や「行動指針」。この会社はどうあるべきか、どういう価値観を持って、従業員はどのように動くべきか。日々の判断や行動の基準となる姿勢や価値観を示すもので、組織独自の考え方や優先順位を明らかにしています。これは継承されるものと、時代の変化に伴って追加されるものがあります。
世界の企業は「ミッション」から語る
経営哲学=「ミッション・ビジョン・バリュー」は、企業にとって最も重要なものです。こうした考え方は、日本ではまだ一般的ではありませんが、グローバル企業や外資系企業では常識とされています。というより、日本以外の国では、ごく当たり前の考え方なのです。日本企業が自社のプレゼンを行う際には「売上」や「利益」から語るのが一般的ですが、世界の有力企業は最初に「ミッション」を語ります。
ミッションには、創業者の思いや願いが反映されており、創業以来、連綿と受け継がれ、基本的には一貫しています。時代の変化に伴って言葉そのものは変更することがあっても、根本的な理念は変わりません。例えばFacebookの場合も、「人々をつなげる」という考え方は一貫しています。それはなぜかというと、考え方がコロコロ変わる企業は、従業員や投資家から信用されないからです。だからこそ、世界の有力企業では創業者の思いや願いが非常に大切にされているのです。
なぜ「経営哲学」が最も重要なのか?
では、なぜ「経営哲学」が企業にとって最も重要なのでしょうか。それは、時代の変化に応じて、企業が変化するためです。企業が変化するためには、従業員がみんな同じ方向を向いている必要があります。なぜなら、経営者が「変化しよう」とどんなに主張しても、働く人の気持ちがバラバラならば、会社を変えることはできません。変化できなければ、会社はつぶれてしまいます。会社が変化するためには、すべての従業員が共感できる「理念」が必要なのです。
今、日本でもこうした考え方をする企業が次第に増えてきています。特に新しく生まれているベンチャー企業では「ミッション・ビジョン・バリュー」を重視するところも多く、最近は大手企業でも注目されるようになってきました。それは、世の中の変化が激しくなってきたからであり、そうしなければ、これからの時代を生き残れないからです。今後はさらに増えていくでしょう。
「世の中の変化に応じて、会社も変わる必要がある」、「同じ目標を目指し、みんなで頑張りたい」、「創業者の思いを大切にしている企業で働きたい」。もしあなたがそう考えているのなら、業界・企業研究を行う際には、その企業の経営哲学=「ミッション・ビジョン・バリュー」に注目しましょう。「何」をしている企業なのかということも大切ですが、どんな「考え方」をしている企業なのかを知るのは非常に大切です。なぜなら、採用、育成、戦略など、企業活動のすべては「理念」によって規定されるからです。
テクノロジーの進化や世の中のニーズに伴って、企業もビジネスも変化します。「現在」の姿が会社のすべてではありません。しかしブレない軸を持っている会社は、変化はしても、根本的な「理念」は変わらないのです。その考え方に共感できるのなら、どんなに時代が変わっても、同じ思いを持って仕事ができるでしょう。「経営哲学」に注目することは、企業選択において、とても重要な考え方の1つです。
まとめ
・世界の有力企業は経営哲学として「ミッション・ビジョン・バリュー」を重要視している
・企業が変化するためには、従業員がすべて同じ方向を目指す必要がある
・「何」をしている会社なのかは重要だが、どんな「考え方」をしているのかについても意識すべき
監修者プロフィール
- 入山 章栄
- 早稲田大学大学院経営管理研究科 准教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(Doctor of Philosophy)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。
主な著書に、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。 -
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