企業の経営哲学の役割

企業研究におけるチェックポイント

言葉だけではなく、腹落ちしているか?

笑顔の男性
(画像素材:PIXTA)

経営哲学=「ミッション・ビジョン・バリュー」に共感する企業を選ぶことは、非常に大切です。ただし、1つ重要な注意点があります。企業のホームページや会社案内には、大抵、その企業の「理念」が書かれています。でも、その言葉だけを読んで判断するのは早計です。その「ミッション・ビジョン・バリュー」が企業全体に浸透しているかどうか、そこに注目してください。実はそれこそが企業選択をするうえで、最も大事なことなのです。

時代の変化に応じて、企業も変化する必要があります。しかし変化できる企業は、そう多くはありません。なぜなら、変化することが怖いからです。人間は現状維持を好む生き物です。変わることを本能的に避けようとします。それでも変化するためには何が必要かというと、「失敗するかもしれないけど、我々が進むべき方向はこっちだから前に進もう!」という「腹落ち(なるほど、と理解すること)」です。この腹落ち感がないと、人間は変化に対応できないのです。

今、多くの日本企業で起こっているのは、社長や部長が「変化しよう!」と言っているものの、従業員は「腹落ち」していないため納得できず、みんな抵抗して動かない。その結果、企業が変化できない、という現象です。それに対してグローバル企業や外資系企業では、トップが「ミッション・ビジョン・バリュー」について繰り返し語り、現場レベルでもミッションやビジョンの研修を定期的に行って、社内に浸透させていく作業を徹底的にやっています。だからこそ従業員もみんな「腹落ち」して変化することができるのです。

なぜ浸透させることがそれほど重要なのかというと、大きな企業になると「ミッション・ビジョン・バリュー」が社員にとって「自分ごと」にならないからです。どんなに立派な理念があっても、日々の仕事の中でどう実現するか、達成するかという「自分ごと」に置き換えることができないと「腹落ち」しないのです。腹落ちできなければ、たとえ素晴らしい理念があったしても、絵に描いた餅になってしまいます。そういう企業に入っても、あなたのやりたいことは実現できないでしょう。

社長と社員が同じ話をしているか?

では、どうしたら理念の浸透を確認することができるのでしょうか。それは会社説明会やインターンシップ、OB・OG訪問など、企業と直に接する場面を生かすことでできます。「ミッション・ビジョン・バリュー」が浸透している企業では、会社説明会でも、最初に自社の存在意義や方向性、目指している姿、価値観などについて、映像なども駆使しながらお金や時間をかけて徹底的に説明します。なぜなら、それがその企業にとって一番大切なことだからです。

「ミッション・ビジョン・バリュー」が浸透している企業のオフィスを訪問すると、現場の社員が会社のトップと同じ理念を語っている姿をよく見られます。これは重要なチェックポイントの1つです。リクルーターや自分の上司になりそうな先輩社員が「トップはああ言っているけど、現場はもっと大変だよ」と話している企業は、理念が浸透していない企業だと判断してまず間違いありません。

また、「ミッション・ビジョン・バリュー」が浸透している企業では、社長自ら社員に向けてブログやメールなどで毎週のようにメッセージを発しています。社員もそれを楽しみに読んでいます。OB・OG訪問などの際には、そういう点も確認しましょう。そして何より、社員が楽しそうにイキイキと働いているか。「内発的動機」があれば、その姿が見られるはずです。これらの条件を満たす企業であれば、あなたがやりたいことの実現と、楽しく働くことの双方がかなえられるでしょう。

スキルで企業選択を行う人は、自分が得たいスキルや知見が得られるかどうかをチェックすることが大切です。ただしそれだけではなく、社員が楽しそうに働いているかどうかも注目しましょう。あなたと同じように、自分の成長のためにスキルを獲得したいと願っている社員がたくさんいる企業なら「内発的動機」を持っているはずです。同じスキルを学べる企業が複数あるのなら「外発的動機」だけではなく「内発的動機」も高められる企業の方が、より高い向上心を持って仕事に取り組めます。

CHECK!

会社説明会や企業訪問におけるチェックポイント
  • ミッション・ビジョン・バリューの説明に力を入れているか
  • 会社のトップと現場の社員が同じ理念を語っているか
  • 社長自ら、社員に向けて頻繁にメッセージを発しているか
  • 社員が楽しそうにイキイキと働いているか
  • 自分が得たいスキルやノウハウ、知見や経験を得られる環境か

監修者プロフィール

入山 章栄
早稲田大学大学院経営管理研究科 准教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(Doctor of Philosophy)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。
主な著書に、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)、『世界標準の経営理論』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。
入山 章栄

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