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スペシャルインタビュー

自分の価値をさらに高める
新しい働き方も可能です。

一般社団法人キッズコンサルタント協会
代表理事 野上 美希
副業OKなど他に先駆けて
改革が進む保育業界

政府が推進する「働き方改革」の一環で、本業と並行して別の仕事を兼ねる「副業」を、社員に認める企業が注目されています。メディアで話題となる一方、実際には、情報漏洩のリスクや労働時間の管理が難しいなどの理由で、大多数の企業が導入に二の足を踏んでいるのが現状です。
ところが、ここ数年で一気に「副業」の導入環境が進んだ業界があります。その一つが、保育業界なのです。保育業界では、週3日は保育士として働き、週2日は、ダンス・ヨガのインストラクターとして活動したり、インスタグラムの運用をしたりといった働き方を認めるところが増えています。他業界に先駆けて副業解禁が進んだのはなぜでしょうか? 理由は需給のバランスにあります。とくに都市部においては、4、5年前から保育園の数が急増し、その結果として保育士は完全な売り手市場となりました。かつてのパワーバランスが傾き、労働者が強い立場にあるわけです。
保育園は、少しでも多くの労働力を集めるために、柔軟な働き方を導入せざるを得ませんでした。いわば生き残るための方策です。副業OKの他に、週休3日という新しい働き方を採用した園もあります。従来の週休2日制は、1日8時間の労働時間と9時間の拘束時間が前提でしたが、週休3日では1日9時間の労働時間、10時間の拘束時間となります。若い世代や副業を営む先生たちの多くが、1日の労働時間が長くなっても週休3日を選ぶようです。3日あればちょっとした旅行にも行けますね。こうした働き方の多様化が進むことで、保育業界はワークライフバランスがひじょうに取りやすい職場へと進化したのです。
専門性という強みを生かし
優れた発信者になる
私はつねづね、保育士という仕事は副業に向いていると思っています。その理由の一つは、子どもの命を預かる保育士は責任感が強く、本業にきちんとコミットしながら副業を両立できるタイプが多いからです。副業をするための時間やタスクの管理も得意ですね。二つ目には、保育士の専門性は副業と結びつきやすい性質があります。ダンスやヨガのインストラクターに限らず、世にあるあらゆる仕事が「人間を育てる」という保育士の本懐に、どこかでつながっています。副業として外の世界で得た経験は必ず保育の現場に還元されるでしょう。そして三つ目は、保育士の発信者としての可能性です。保育士による発言の影響力は皆さんが考える以上に大きなものです。SNSなどの普及で誰もが発信者になれる時代ですが、子育ての悩みはいつの時代も普遍です。世の親御さんたちにとって保育士から発信される情報は非常に有益なのです。
こうした需要の高さを背景に、保育園のプロデュースやメディア活動を行う保育士起業家も誕生しています。いくつの副業を手掛けようと、核にある本業が専門分野であるということは強みです。皆さんが発信者になることで、親御さんたちの子育てに対する悩みが解消されれば、日本の未来は明るくなります。少子化に本当に歯止めをかけられるのは政治家ではなく保育士であると、私は信じているのです。社会に数ある仕事の中でも、保育士は最も自分の付加価値をセルフプロデュースしやすく、しかもそれで救われる人が現れやすい職業ではないでしょうか。
他業界を知る経験が
保育に還元されるメリット

保育士が副業をすることにはさまざまなメリットがありますが、最大のものは、今、社会で何が起こっているのかを知る機会となることです。子どもの未来に責任のある立場として、彼らが将来どんな社会で生きていくのか、その移り変わりは保育士自身が肌で感じていなければなりません。副業を通して新しい世界や刺激に出会い、その経験をぜひ子どもたちに伝えてあげてください。保育園だけの生活では専門知識は深まっても、視野は狭まってしまいます。せっかく副業解禁が進む業界なのですから、どんどん挑戦することをおすすめします。
労働人口が減少するこれからの時代は、1人の人間がいくつもの仕事を掛け持ちすることが当たり前になります。1つの会社だけにずっと勤める働き方ではなく、さまざまな特技を生かして多方面で仕事をするのです。例えば、私の園にも週3回、6時間勤務のパラレルワーカー(並行して複数の仕事をする人)が在籍していますが、IT系に強い保育士さんには、その経験を生かして園でも法人としての広報アドバイスをお願いしています。このようにいろいろな特技を持った、多彩な保育士が活躍するようになったら、日本の保育業界はもっと楽しく、豊かになっていくでしょう。
海外からも注目
質の高い日本の保育士

ここ2、3年で、海外から日本語のメールをいただくことが増えました。いかにも翻訳ソフトを使っていそうなたどたどしい文章ですが、多くは中国をはじめ、北欧や東南アジアの国々などから、園の視察を希望する内容です。中国では子どもが増えたことで保育園需要が高まっていて、とくに室内遊びを充実させるプログラムに興味があるようです。私の周囲で同じような問い合わせを受けている園はいくつもあり、グローバルな関心の高さを感じています。もともと、日本文化ならではのきめ細かさが反映された幼児教育のプログラムは、質が高いことで世界でも知られていました。
北欧では保育士の社会的地位が高く、国内で重用されている先生たちから見ても日本の保育の質は「とても高い」そうです。ノーベル経済学賞を受賞したアメリカのジェームズ・ヘックマン教授は40年にわたる追跡調査の結果、5歳までの幼児教育がその後の学歴や年収に影響を与えることを明らかにしました。2019年10月からは幼児教育・保育の無償化が始まっており、世界中で幼児教育の重要性が見直されるなか、改めて日本の保育が注目されているのです。日本の先生方には、大いに自信を持っていただきたいですね。保育の世界は決して狭くありません。他分野に対してもそうですが、世界の国々という「外の世界」に向かって大きく開けているのです。今後はますます、どの業界と比べても引けを取らない働き方の多様性を実感できるようになるでしょう。

一般社団法人キッズコンサルタント協会
代表理事
野上 美希
大手シンクタンクにて、コンサルティング、採用、営業を経験後、人材会社にて人材紹介事業の立ち上げに従事。妊娠を機に、幼稚園の運営に携わる。成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、認可保育園を開設。現在では学童指導員の地位向上と学び合う場を作ることを目的に、一般社団法人キッズコンサルタント協会を設立し学童指導員の育成にも力を入れている。