

フルモデルチェンジまで残り1年で
eCanter開発部門への異動を決断
「次世代型eCanterの開発をやってみないか」
上司にそう声をかけられたのは、「Canter」をはじめとするディーゼル車両のシートとシートベルトの設計・開発をおこなっていた2022年の春です。フルモデルチェンジの発表・発売まで1年を切っていたタイミングで「やらせてください」と即答した理由は2つあります。1つは、最先端の技術を知りたいという好奇心です。2017年に発表した初代eCanterが国内初の電気トラックとして高く評価されていたこともあり、未知の分野に挑戦したいと思いました。
もう1つは「電気トラック」と「自然環境保護」の関連性を知るためです。当社は国内拠点のカーボンニュートラル化(温室効果ガス排出量実質ゼロ)をめざしていますが、私自身は入社以来「電気トラック」と「自然環境保護」をきちんと結びつけることができずにいました。その理由と正解が、電気トラック・プロジェクト部の仕事の中にあると思ったのです。
回生ブレーキのレベルコントロール機能。ホイールベースに応じて設置数を変えられるモジュール式バッテリー。ステアリングスイッチと連動した10インチのフル液晶メーター。2023年春に発売予定の次世代型eCanterには、電気トラックならではの機能を多数追加しています。電気トラック・プロジェクト部はこうした各コンポーネントの設計開発プロジェクトのスケジュール、予算、品質などを管理し、プロジェクト全体の舵取りを行うセクションです。

テストで明らかになる問題を集約して
グローバルな開発体制で対策を構築
私が着任したときには、喜連川研究所(栃木県)でのテスト走行が始まっており、コンポーネントの問題点の集約と改善策の検討が最初の仕事でした。1つのコンポーネントの制御設定を変えるとそれまで問題がなかった機能の動作に影響が出ることもありますので、全体のバランスをみながら慎重に進めていきました。
チームは10名で編成。課題の抽出と解決策の検討を川崎本社のエンジニアが行い、CADモデルの作成・修正などの作業はインドオフィスのエンジニアが担当します。リモートでのミーティングやメールのやりとりは基本的に英語です。私は本格的に勉強したことはありませんが、大学の研究室も多国籍な環境でしたので慣れるまでにそれほど時間はかかりませんでした。単語をつないで伝えることから始めて日常的に使っているうちに、ビジネスレベルでの会話もできるようになっていました。
次世代型eCanterは、国内初の電気トラックとして発売したeCanterの最新モデル。新たに搭載する機能に関する技術の開発は、参照事例がどこにもない状況でスタートし、試行錯誤を続けてきました。それは着任した時点でも同じで、最後のバトンを受け取った私もまた「解決方法は本当にこれがベストなのか」と悩みながら問題の原因究明にあたっていました。
そのなかで面白さを感じたのは、ノウハウや知識を持っている人をつないで問題を解決に導いていくこと。たとえば、メータークラスターの液晶パネルの開発が行き詰まったときに、信号系統の開発をおこなっている設計技術者の助けになる情報を他部門の設計技術者から聞き出して共有する。目立たない仕事ですが、それが実ったときは、ディーゼル車の設計とは違う充実感を覚えました。

寒冷地での航続距離延長を目的に開発した
バッテリー関連の新機能の実車実験と検証
困難だったのは、充電器の電力で指定の時刻までにバッテリーを暖める「バッテリープレコンディショニング機能」。冬期のエネルギー消費を節約できる「ヒーターカットスイッチ」。シートやステアリングなど必要な箇所だけを暖める「省エネ暖房」といった、寒冷地で航続距離を安定させるために開発した新機能の実車試験と検証でした。
当社には低温実験室がありますが、実際の環境を完全に再現できるわけではありません。そのため北海道でも試験と検証を重ね、実験室での試験結果との比較分析を行いました。試験は専門のセクションが担当しますが、設計の思想やロジックに基づいて検証と対策の方針策定を行うのは私の仕事。北海道での試験にも立ち会い、夜間、車両の電源が入っていない状態で外気温を正確に予測するにはどうすればいいか。運転効率を高めるには、バッテリーの温度を何度にすればいいか。誰も答えを知らない課題と向き合い、進むべき道を探す日々でした。
難局を乗り越える原動力になったのは、お客様に喜んでいただきたいという想いです。この機能があれば寒冷地のお客様にもeCanterを導入していただける。冬の朝も気持ち良く仕事をスタートしてもらえる。そんな想いで仕事をしていました。もちろん、満足していただけなければお客様の気持ちは離れてしまうという危機感も常に持っていました。

尽きることのない興味と好奇心を推進力に
eCanterのさらなる性能向上に取り組む
2023年春に発売予定の次世代型eCanter。新機能が満載ですが、初めて運転されるドライバーの皆さんは騒音や振動の少なさ、加速性能の高さに驚かれると思います。発売後は、お客様の声を反映しながら次回のフルモデルチェンジに向けたコンセプトの策定を進めていきます。電気自動車に関する国際的な基準や法規の将来的な変更に基づいてやるべきことを決めていく形になりますね。
「電気トラック」と「自然環境保護」の関係性については学ぶことがまだまだたくさんあり、私のなかではきちんと結びついてはいません。ただ、eCanterの開発に関わってはっきりしたことがあります。それは、当社は電気トラック業界の先駆者であること。そしてeCanterはゼロ・エミッションに取り組む世界各国の企業から必要とされているということ。持続可能な社会づくりへの貢献という面でも魅力的なビジネスだと思います。
次回のフルモデルチェンジに向けて、プロジェクトの最初から携わり、大きく変わっていく世の中の動きを察知して新たな機能を創出し、お客様の期待に応えていく。そう考えただけでワクワクしますね。今、技術者として特に注目しているのは、バッテリーの進化スピードです。次回のフルモデルチェンジまでに大幅な性能の向上が間違いないバッテリーをどう使えば、コストや価格を下げられるのか。充電時間の短縮と航続距離の延長を実現できるのか。尽きることのない興味と好奇心を推進力にして、eCanterのさらなる性能向上に取り組んでいくつもりです。