
モーダルの中身
定評のあるデザイン会社の中には、新卒よりもキャリア採用を優先する企業がある。一方で芸術系学生は自分の興味の対象や目標を明確に定めている人が多い。自分のやってみたい仕事の会社がキャリア採用を優先していたら…。そこで自らインターンシップの入り口を開いたのが大山さんだ。マニュアルに頼らず自ら主体的に動き成功した秘訣を伺った。
子供の頃からスポーツが大好きで、ずっと地元のサッカーチームを応援していました。中学生になると選手のプロフィール画像を、スマートフォンのアプリで自分なりにカッコよくアレンジしていました。そのうちチームの公式ポスターや大会告知のポスターを見ては、「自分もこういうのを作るのに関わりたい」と考えるようになったんです。高校3年生でPhotoshopを自分で買って、画像編集を自分なりに始めました。
クリエイティブ面からスポーツに関わりたい。その想いは一度もぶれることなく、東京工芸大学に進学。グラフィックデザイン領域を専攻し、ブランディングを学べる研究室に所属しました。具体的にはエンブレムやユニフォーム、ポスターなどを通して、ブランドの価値や共感性を高め、多くの人にブランドの魅力を知ってもらうのがブランディング。「スポーツ×ブランディング」という、自分の目標を東京工芸大学での学びによって明確化・鮮明化できました。
自分のやりたいことはわかったものの、スポーツのブランディングやスポーツに特化したクリエイティブ職など、スポーツビジネスそのものが、新卒採用よりもキャリア採用を優先しています。一般的なマニュアル通りの就活では夢の入り口に立つことが難しい……。そこで決行したのが、自らスポーツ関連のデザインやブランディング事業を行う会社に「インターンシップは開催していますか?」と直接コンタクトを取ることでした。
このコンタクトの最初のきっかけになったのはSNS。先述の通り、中高生時代から選手の画像をカッコよくアレンジしたものを投稿していたのですが、大学在学中にスポーツチームの公式SNSに投稿する画像をデザインするという、れっきとした仕事も請け負うようになっていました。その仕事で関わった方が、偶然にも私が興味をもっていた会社に在籍していました。これは縁だと思い、インターンシップ採用をお願いしました。
インターンシップ採用の面談の場を設けてもらい、自身のポートフォリオを持参。その会社はスポーツチームのブランディングに特化した会社で、過去にグッドデザイン賞も受賞しています。クリエイティブ面からスポーツに関わりたいという自分には、ぜひとも働きたい会社でした。
私の場合は研究室のテーマと志望企業の事業とが合致していたので、ポートフォリオ作りに頭を悩ませることはありませんでした。ポートフォリオに対する考え方は人それぞれ答えがあると思いますが、自分の行きたい業界に合致した作品をまとめるのは、正攻法の一つだと私は考えています。
無事に面談が終了し、インターンシップとしての採用が認められたのは3年次の10月。まずは簡単な業務からスタートしました。選手の画像をひたすら切り抜く作業や、多々あるグッズの中でもシンプルなデザインに限定した制作や修正の作業。あるいは元のデザインをリサイズする作業など、比較的取り掛かりやすい仕事から始めました。
文字にすると簡単に思うかもしれませんが、このインターンシップで最初に痛感したことが「作業のスピード」です。タオル一枚をデザインする場合でも、クライアント→デザイン会社→デザイナーというフローがあります。学生時代も課題には期限がありましたが、企業の場合は納期を守り、なおかつクリエイティブの精度も落とさず、スピード感を持って取り組む必要があります。多い日だと1日に4、5個のデザインを生み出さないといけないので、効率を常に意識します。
実際の入稿フローも大学では学べなかったことの一つです。スポーツならではとも言えますが、ポスターもタオルも最終的には印刷・印字され、スタジアムの壁に貼られたり、ファンが手に取る形へと具現化していきます。ときには横34mほどの印刷物を出力することもあり、このような経験はインターンシップだからこそ。
スポーツ好きにはたまらないエピソードはほかにも尽きることがなく、スタジアムのビジョンで映し出すデータを作る作業などは、スタジアムのあの空気感が好きな私にとっては、インターンシップをしてよかったと思える仕事の一つです。
徐々に大きな仕事にも加われるようになり、4年次の4月には、また今回も私から「内定をいただくことはできるでしょうか?」と直接会社側に打診しました。正式に内定をいただき、私の就職活動は終了。内定先企業で卒業までインターンシップを続ける予定です。芸術系学生の場合、自分のやりたい仕事をある程度わかっている人が多いと思います。しかし興味のある会社がインターンシップや新卒採用を行っていなかった場合、そこであきらめるのではなく、一度自ら企業に問い合わせをして、自分の作品と熱意をアピールする場を積極的に作っていく方法もあります。
今、サッカーや野球はかなりブランディングが進んでいます。しかし他のスポーツ競技ではまだまだ魅力を発信できていないチームや選手がたくさんいます。自分のデザインによって、そんなチームや選手の認知度を高めていくのが私の目標です。
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