

薬剤師という職業について、「給料が高い」「不況知らず」などといわれることがあります。確かに、薬剤師全体の平均年収は580.5万円(令和3年賃金構造基本統計調査)であり、景気の影響を受けることも少ないでしょう。しかし、薬剤師にはさまざま職場があり、その開設者や規模によっても平均年収が違ってきます。薬剤師としてのキャリアを考えるうえで、活躍できる業界の動向・職場での働き方・やりがい・人間関係・研修内容・年収を把握しておくことはとても大切です。統計調査のデータに基づいて業界ごとの薬剤師の平均年収をまとめたので、就職活動の参考の一つにしていただければ幸いです。
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業界ごとの薬剤師の平均年収

認定薬剤師・専門薬剤師の資格取得で、さらなるキャリアアップも

都道府県によっても平均年収は変わる

業界ごとの薬剤師の平均年収
病院勤務の薬剤師の平均年収
病院で働く薬剤師は、医師や看護師などと連携し、チーム医療の一員として、薬剤の専門家の立場から患者をサポートします。近年は薬剤師のベッドサイドへの進出が著しく、さらには薬剤師外来で経口抗がん剤治療を行う患者などに服薬指導を行うこともあります。
病院の開設者別にみた薬剤師の平均年収は表1のようになっています。開設者の違いにより平均給料年(度)額に大きな開きはみられませんが、賞与の部分で差がついており、公共的性格を帯びた病院のほうが手厚い賞与が支払われていることは注目に値します。なお、平均給料年(度)額は「労働の対価として職員に支給したすべてもの」を含んでいるとされ、病院に付き物である夜勤に伴う深夜割増賃金も込みの額であると考えられます。ちなみに、病院における医師の平均年収は約1468万円、看護職員(保健師、助産師、看護師、准看護師)は約506万円となっています。医師はともかく看護職員ともさほど平均年収が変わらない上、診療所や調剤薬局で働く薬剤師に比べても同程度であるという点は、現実として押さえておく必要がありそうです。もちろん、病院薬剤師の仕事には「病院薬剤師でなければ味わえないやりがい」があることは言うまでもありません。

平均給料年(度)額 | 賞与 | 合計 | |
---|---|---|---|
国立 | 4,452,890円 | 1,264,195円 | 5,717,085円 |
公立 | 4,576,186円 | 1,359,661円 | 5,935,847円 |
公的 | 4,541,475円 | 1,253,198円 | 5,794,673円 |
社会保険関係法人 | 4,557,124円 | 1,428,398円 | 5,985,523円 |
医療法人 | 4,443,030円 | 803,885円 | 5,246,915円 |
個人 | 4,389,485円 | 638,930円 | 5,028,415円 |
〔中央社会保険医療協議会: 第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告, 2021〕
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調剤薬局勤務の薬剤師の平均年収
現在、薬局の数は全国で6万を突破し、その数はコンビニエンスストアを超え、薬剤師の半数以上が薬局に勤務しています。地域包括ケアシステムの中で調剤薬局の重要性は高まっており、「処方箋通りに調剤した薬剤を渡す」という対物業務から、かかりつけ機能を軸とした対人業務へ仕事の重心が移り変わっています。
調剤薬局の開設者別・店舗数別にみた薬剤師の平均年収は表3~4のようになっています。一般の薬剤師の平均年収は病院よりやや低い水準です。店舗数によっても差はありますが管理薬剤師になると勤務年数も長くなるため年収も増えている印象です。管理薬剤師への手当の有無は法人によって異なるため、キャリアアップとともに年収アップを目指したい方は、手当の有無を確認するとよいでしょう。なお、2021年に施行された改正医薬品医療機器等法により、「管理者は原則、薬局における実務経験が少なくとも5年あり、中立的かつ公共性のある団体(公益社団法人薬剤師認定制度認証機構等)により認証を受けた制度又はそれらと同等の制度に基づいて認定された薬剤師であること」が求められるようになりました。

平均給料年(度)額 | 賞与 | 合計 | |
---|---|---|---|
個人:薬剤師 | 3,460,883円 | 221,050円 | 3,681,933円 |
法人:管理薬剤師 | 6,459,285円 | 755,572円 | 7,214,857円 |
法人:薬剤師 | 4,164,116円 | 571,957円 | 4,736,072円 |
〔中央社会保険医療協議会: 第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告, 2021〕
平均給料年(度)額 | 賞与 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|
1店舗 | 管理薬剤師 | 8,170,504円 | 317,864円 | 8,488,368円 |
薬剤師 | 4,811,123円 | 476,390円 | 5,287,513円 | |
2~5店舗 | 管理薬剤師 | 7,288,943円 | 474,435円 | 7,763,378円 |
薬剤師 | 4,225,317円 | 397,320円 | 4,622,637円 | |
6~19店舗 | 管理薬剤師 | 6,720,405円 | 609,357円 | 7,329,762円 |
薬剤師 | 4,444,402円 | 432,509円 | 4,876,911円 | |
20店舗以上 | 管理薬剤師 | 5,417,942円 | 1,085,591円 | 6,503,533円 |
薬剤師 | 3,917,964円 | 696,919円 | 4,614,883円 |
〔中央社会保険医療協議会: 第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告, 2021〕
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製薬会社勤務のMRの平均年収
MR(医薬情報担当者)は、主に製薬会社に勤務し、全国各地の支社・営業所などに配属され、そのエリアの医療機関を担当します。担当先を訪問し、自社の医薬品に関する情報を医師や薬剤師などの医療スタッフへ説明するとともに、その使用感や副作用の情報を臨床から収集して会社にフィードバックする役割も果たします。医療機関の医師や薬剤師との深い信頼関係を築く必要があり、専門知識とともに高いコミュニケーション能力が必須になる仕事です。
MR(医薬品営業員)は薬剤師でない方も含まれるデータになりますが、「令和3年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)によるとの平均年収は551.8万円となっています。一般的に製薬会社は年次が上がることでの年収の増加幅が病院・薬局等と比較し多く、MRの場合は成果によってインセンティブも出るため、生涯年収が高くなる可能性があります。企業の業績や個人の成果にもよっては、年収アップも目指せるでしょう。

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認定薬剤師・専門薬剤師の資格取得で、さらなるキャリアアップも
医学や薬学は日々進歩し、高度化かつ複雑化しています。それに伴い、薬剤師にもより深い専門知識と高度なスキルが求められるようになりました。そこで、各自の自己研鑽を促し、一定レベル以上の知識とスキルに達した薬剤師を認定するため、さまざまな認定薬剤師・専門薬剤師制度が設けられています。より専門性の高い薬剤師であることの証明となり自信をもって治療に貢献できるようになると思います。病院や薬局などでも取得を推奨するケースが増えているようで、同資格を持っていれば、さらなるキャリアアップにつながり、年収も上がる可能性はあります。また、かかりつけ薬剤師や管理薬剤師になるためにも認定薬剤師資格が求められます。

都道府県によっても平均年収は変わる
以上のように、同じ薬剤師資格を持って働くのでも、業界により平均年収が大きく変わってくることが分かりました。さらには、勤務する都道府県によっても平均年収が異なることに注意しておく必要があります。「令和3年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)によれば、都道府県別の薬剤師の平均年収(2021年)第1位は山口県の667万円、第2位は香川県の653万円、第3位は茨城県の650万円となっています。薬剤師の平均年収は地方のほうが高い傾向にあり、これは人手不足が主な要因であると考えられます。
都市部と地方とでは、それぞれにメリット/デメリットや向き/不向きがあるので、事前にリサーチした上で、自分に合った働き方ができる職場を選んでください。
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