仕事で成功するためのステップ
20代で獲得すべきは「多様性」

世の中で活躍している多くのビジネスパーソンは、キャリアの「VSOP」を成長の指標にしています。「V」はVariety(多様性)、「S」はSpeciality(専門性)、「O」はOriginality(独自性)、「P」はPersonality(人間性)。20代は多様性を身につけ、30代は専門性を獲得し、40代は独自性を出していく。そして50代以降は人間性で人々を魅了し「ああいう人になりたい」「ああいう仕事をしたい」といった目標となる存在になる。つまり、就活生の皆さんが社会に出てまず獲得すべきは「多様性」です。
「Will・Can・Must」で自己理解を深めながら、どんな環境でも活躍できる人材になっていくためには、この「VSOP」を成長モデルにしてステップアップしていくことが非常に大事です。最近はテクノロジーやITが飛躍的に発展してグローバル化も進んでいるので、最初から「Will」が明確になっていて、専門分野を持っている新人も多くいます。そういう人は「SVOP」の順で成長を目指すこともありますが、「V」を身につけることで「S」がより強くなります。いずれにしても20代で「多様性」を獲得することは必要なのです。
では、なぜ「多様性」が必要なのでしょうか。1つは、あなたの価値は他人が決めるものだからです。いろいろな仕事を経験していく中で、「君はこれが得意だね」「これは苦手だね」「意外にこういうことが向いてそうだね」と、他者からあなたの「Can」をできるだけ多く発見してもらって、その中から「Will」=「やりたいこと」を見つけていくためです。
若い時期は、小さな努力をコツコツと積み重ねていくよりも、失敗の可能性を恐れず大きな成功を目指すことに、より高いモチベーションを感じるかもしれません。確かに、失敗を恐れず果敢にチャレンジすることは、もちろん大切です。しかしそれ以上に大切なのは、多くの「打席」に立つことです。多くの体験をし、成功と失敗を繰り返していかなければ、自分の「Can」は見えてきません。「Can」の数を増やすことによって、次に求められる「S」=「専門性」を見出していけるのです。
T字型人材を目指そう
20代で多様性を獲得することが必要な、もう1つの理由は、どんなライフステージになっても対応できるようになるためです。「仕事に挑戦することで人は何を得るのか?」で説明したように、仕事には「生活の安定」と「達成感」を得るという2つの目的があります。人生にはさまざまな場面が訪れます。世の中や会社の変化、あるいは自分自身の失敗などによって「達成感」を得る仕事ができなくなる時期もあります。そんなときに「多様性」が大きな意味を持つのです。
自分を「釘」に例えて考えてみましょう。頭の小さな釘と、頭の大きな釘、2本の釘があるとしましょう。どちらの釘の方が、木材に打ち込みやすいでしょうか? 当然、たたかれる面積の広い釘の方が打ち込みやすいはずです。では、引き抜きやすいのは、どちらの釘でしょうか? やはり頭が大きい方が引き抜きやすいでしょう。
これからの時代、環境の変化に強いのは、頭の大きな釘=「T字型人材」です。Tの横軸は「多様性」、縦軸は「専門性」です。どんなに優れた専門性を持っていても、時代の変化とともに、その知識や技術は陳腐化してしまうリスクがあります。それに伴って会社や組織、あるいは自分自身が危うい状況になっても、頭の小さな釘=「多様性のない人」は、木材=「企業・組織・専門分野」から引き抜くことができません。木材と一緒に一蓮托生となって朽ちてしまいます。
一方、頭の大きな釘=「多様性のある人」は、木材から引き抜きやすく、どんな企業や組織でも活躍することができます。「多様性」とは、すなわち多くの「Can」を持っているということです。たとえそれが「達成感」を得られる仕事ではなかったとしても、「生活の安定」は確保できます。つまり、20代のうちにいろいろな経験をして「多様性」を獲得しておくことによって、人生や仕事でピンチを迎えたときのリスクヘッジになるのです。
「良い失敗」を繰り返して「多様性」を獲得していく
では、どのようにして「多様性」を身につけていったらいいのでしょうか。答えは簡単です。失敗を恐れず、チャレンジを繰り返し、さまざまな経験をしていくことです。中には「失敗を避けたい」と考える人がいるかもしれませんが、仕事に失敗はつきものです。何もしなければ失敗はしませんが、学ぶこともできません。失敗から学ぶことが、次の「成功」につながり、それを繰り返していくことによって、多くの「Can」=「多様性」を獲得できるのです。
もちろん失敗することが分かっていて、何の対策も取らずに突き進むのは、社会人としてあるまじき行為です。できる限り失敗をしないように、先人から学ぶ、社会から学ぶ、自分自身の経験から学ぶことは当然必要です。しかし、それでも仕事をしていれば、失敗することはあります。大切なのは、そこから学び、同じ失敗を繰り返さないことです。そして、次の成功に生かす「学び」を得ることです。それができれば「良い失敗」になり、自身のステップアップにつながります。
たとえ自分の力量を大きく超えるような仕事のチャンスがあったときでも、恐れることなく、積極的にトライしましょう。あなたの価値を判断するのは、あなた自身ではありません。「あなたならできる」と上司や先輩が判断したから、その仕事が与えられたのです。そうした周囲の期待=「Must」に応えて、成功や失敗の体験の総量を増やしていくことが、あなたの「Can」の数を増やし、仕事の質も高めていきます。
多くの「Must」に応え、多くの「Can」を身につけていけば、やがてその中から「この仕事はやりがいあるな」「もっとこうしてみたいな」「ぜひこれをやりたいな」という「Will」が芽生えてきます。この「Will」を伸ばしていくことによって、次のステップである「専門性」「独自性」、そして魅力ある「人間性」を獲得していけるのです。「Will・Can・Must」と「VSOP」の成長モデルを常に念頭において人生の成功を目指していきましょう。
まとめ
・20代は「多様性」の獲得を目標にして「Can」を増やす
・T字型人材になれれば、どんなライフステージになっても対応できる
・失敗を恐れずチャレンジを繰り返し「学び」を得ていく
監修者プロフィール
- 沢渡 あまね(さわたり あまね)
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作家/ワークスタイル&組織開発専門家。
あまねキャリア株式会社CEO/なないろのはな 浜松ワークスタイルLab取締役/NOKIOOアドバイザー/エイトレッド フェロー。日産自動車、NTT データなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。
350以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。主な著書:『バリューサイクル・マネジメント』『職場の科学』『職場の問題地 図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』『仕事ごっこ』 趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。 -