

医療従事者として働く以外にも、薬剤師資格を持っていれば(薬学の専門知識があれば)活躍しやすい職場があります。そうした職場のうち、医療機器メーカー、食品メーカー、化粧品メーカーの業界動向やニーズについて解説します。
Index
メーカーの最新動向

メーカー薬剤師の仕事

就職活動&キャリアパス

メーカーの最新動向
将来性は揺るぎないものの競争は熾烈
最新の医療機器を導入することは、医療の質や医療施設の評価に大きく関わってきます。特に日本では、幅広い医療現場で高度な製品が活用される傾向にあり、そうしたメーカーのニーズは高いといえるでしょう。医療レベルの向上やスタッフの省力化を医療機器が後押しするケースが多く、海外市場でもシェアを握るような高い技術力を持つ企業もあり、業界の将来性は揺るぎありません。臨床とは異なる視点から医療に貢献できる業界です。
もう少し視野を広げてみると、食品や化粧品といった身近な領域も、薬学と親和性があることが分かります。これらの製品は人々の健康に直接的に関わるため、高いレベルで安全性が担保されている必要があります。だからこそ、薬学の専門性に裏付けされた科学的見地から研究や開発などに携わるスタッフが求められます。

求められる+αと価格ごとのニーズ
健康志向の高まりが追い風となっている食品メーカーは、日本のような少子高齢社会でも市場規模が縮小しにくい業界だと考えられています。ただし、美味しさはもちろんのこと、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品に代表されるような「+αの要素」が重視され、海外製品あるいは国内メーカー間における激しい競争の中で差別化を図ろうと心血が注がれています。
化粧品メーカーでも、アンチエイジングなどを謳う高機能の製品開発が進められており、大学の研究室などと連携するケースも珍しくありません。一方で、一定の品質を保ちながらもコストパフォーマンスに優れた「プチプラ」の人気も高く、高価格帯と低価格帯に製品が二極化する傾向がみられます。日本の化粧品は国外でも高い評判を得ており、海外市場にチャレンジする企業も少なくありません。

メーカー薬剤師の仕事
医療機器メーカー
医療機器の製品企画・開発、品質・生産管理、マーケティング、薬事関連業務(医薬品医療機器総合機構への承認申請など)、メディカルライティングといった業務を担当することが多く、こうした場面で薬学の専門知識が役立つことは言うまでもありません。また、いわゆる営業職として活躍する薬学部出身者もいます。当然のことながら顧客の多くは医療機関であり、売り込みをかけたり現場の情報を収集したりする上で、薬剤師資格が有利に働くことは間違いないでしょう。外資系企業に限らず、海外の論文を読んだり現地法人などとコミュニケーションしたりする場面も多いことから、英語力を磨いておけば強みの一つとなります。

食品メーカー
消費者の健康志向の高まりを受けて、製品開発では「付加価値を付ける」ことに力点が置かれやすく、薬学部出身者ならではの知識や技能が求められています。予防医療的な視点から、新たな健康食品などを生み出す先輩も少なくありません。また、こうした機能性だけでなく、美味しさ(味)の研究に従事したり、食品添加物の分析や品質管理といった食の安全性に携わったりすることもあります。

化粧品メーカー
新規の有効成分を見出したり、それらの成分が人体に与える影響を確認して安全性・機能性を担保したりと、化粧品開発には高度な研究プロセスが欠かせません。そのほか、最適な製造方法の考案、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づいた申請手続き、広告表現チェックなど、薬学の専門知識を生かせる業務がたくさんあります。

就職活動&キャリアパス
就職活動のポイント
納得感のある「医療現場を選ばない理由」が必須
メーカーによって業務内容や求める人物像はさまざまですが、就職活動では薬学部出身者以外とも競争になります。面接では必ずと言っていいほど「薬剤師資格があるのに、医療現場でなく当社を志望するのはなぜ?」という趣旨の質問を受けるはずなので、説得力のある志望動機を用意しておくことが欠かせません。業界や製品に対するぼんやりしたイメージを持っているだけでは不十分で、「この会社だからこそ取り組みたいこと」を明確にし、言語化して伝えられるようにしておきましょう。また、志望する業界への適性があることも上手にアピールしたいところ。例えば、化粧品メーカーの研究職であれば、美容やファッションのトレンドに敏感になり、センスを磨いておくといいでしょう。
キャリアパス
他部門への異動も受け入れる覚悟が必要
メーカーでのキャリアパスは採用される枠やコースによっても異なり、必ずしも入社時と同じ仕事を続けられるわけではありません。研究職として入社したとしても、研究する領域が大幅に変わったり、開発や生産、技術営業、企画といった他部門に異動したりするケースも珍しくないのです。また、外資系や海外展開を図るメーカーの場合は、日本を飛び出しての活躍を期待されることもあるでしょう。いずれにしても、企業で働く以上は異動の可能性があること、キャリアパスが業務上の成果に左右されやすいことを覚えておきましょう。
向いている人
薬剤師の使命と利益追求を両立させる企業人に
「国民の健康な生活を確保する」という薬剤師の使命を忘れないようにしつつ、企業活動の根幹である利益追求もかなえるというバランス感覚が求められるでしょう。また、企業人として必要なコミュニケーション能力を備え、周囲との連携・調整を図りながら自身の力を発揮することが必要です。こうした意識や能力を持った人は、ビジネスの現場でもたくましく生き抜いていくことができるでしょう。