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スペシャルインタビュー
かつて人材広告業界で働き、たくさんの仕事の実態を見てきた野上美希さん。その野上さんは保育業界を、「とても素敵な仕事」だと断言します。職場の処遇改善が進んでキャリアの選択肢が広がる保育業界は、資格を最大限に活かせる場です。業界の現状と将来、働く魅力について取材しました。

「保育園の今」を知り、保育士として
どう活躍するかイメージしてみましょう!
社会福祉法人風の森 統括
学校法人野上学園 主事代表理事
株式会社野上アカデミー 代表取締役
野上 美希
「量から質へ」転換しても、保育士は不足している

保育業界を取り巻く状況がどんどん移り変わっていることを、皆さんはご存じですか? 例えば、待機児童の問題。2017年頃にピークだった待機児童(約2万6000人)ですが、保育園を増やすといった国の施策が一定の成果を挙げたこともあり、今では約2500人にまでその数を減らしています。過疎地ではもちろんのこと、都内でも空いている園が増えていて、大幅に定員割れするケースもあるほど。保育の「量」を増やすことから、「質」を追求することへの路線変更が進んでいます。
こうした保育の質の追求とも関連して、保育士配置基準(保育士一人が担当できる子どもの上限人数)が見直されたことも、近年の大きなトピックです。制度発足来、75年間ずっと変わらなかった基準が見直され、4・5歳児で30人から25人に改善した場合の加算が設けられるなど、保育提供体制を強化する流れが加速しています。これは保育現場からすると相当にインパクトがあることで、より丁寧に子どもたちを見られる、働き方を改善して休みが取りやすくなるなど、効果を実感している方も多いようです。
このように見ていくと、「保育園の数がそれほど増えないなら、保育士のニーズも減ってしまうのかな?」と心配になるかもしれません。しかし、それは杞憂です。保育業界に限らず、今の日本は労働人口の減少により、大変な人手不足です。保育現場でも、保育士が足りない状況は変わらずで、「他の業界や園より魅力的だと思ってもらうには?」と各園が頭を悩ませています。結果的に、多くの園が働き方改革に目を向け、実践するようになってきました。
働き方改革が進む保育業界、現場はこう変わった!
実は私自身も、10年以上前から、この業界で働き方改革を推進してきた一人です。「残業が多い」「休憩が取りにくい」といった従来からの課題を解消するため、事務仕事のICT化で生産性をアップしたり、配置基準の2倍の保育士を配置したりと、働きやすい職場づくりに取り組んできました。メディアによる報道の影響もあり、まだまだ「保育士は忙し過ぎて大変な仕事」といったイメージを持たれがちですが、多くの保育現場でそうした実態は変わりつつあることを、学生の皆さんにも知っていただきたいです。
また、近年では「子ども主体の保育」が広がる中で、行事の在り方も見直されてきました。以前のように「行事のために日々の保育を進める」のではなく、子どもたちの日々の生活や遊び、主体性を大切にしながら、その延長線上に行事を位置付ける園が増えています。そうした園では、結果的に行事が必要なものに絞られることも多く、保育士の準備や製作にまつわる負担軽減にもつながっているわけです。さらに、以前は季節ごとに大掛かりな壁面装飾を行う園が多くありましたが、現在では子どもの作品を中心に環境を構成したり、壁面装飾そのものを設けなかったりする園も一般的になっています。保育士の負担軽減という側面だけでなく、子どもが主体となる保育環境を大切にする考え方が広がっていることの表れでしょう。
こうして保育士の負担が減ることによって、さまざまなプラスの効果があることを実感しています。まずは何より、子どもと向かう時間が増えて、保育の質が底上げされること。そして、保育士自身がしっかりと休んだり、残業なく仕事に取り組んだりすることで、「心のゆとり」が持てるようになることも大きいです。実際に、私が運営する園の様子を見ていると、誰かが急に体調不良になったようなケースでも「ゆっくり休んで」「早く帰って大丈夫ですよ」と心から伝えあい、快くサポートし合えていることが分かります。精神的な余裕の有無は、子どもへの関わり方をも左右するので、そうした意味でも重要なポイントだと感じます。
ぜひ、学生の皆さんにも、こうした保育現場の変化を肌で感じてもらえたらうれしいです。自分の「肌感」と合うかどうかも含めて、ぜひ園見学に訪れ、自分の目で保育士の表情や子どもたちの姿を見てみてくださいね。
多様性の時代に、保育園で働くことの面白さとは?

もう一つ、近年の保育園における大切なキーワードが「多様性」です。外国籍の子どもや、発達に特性を持った子どもが珍しい存在ではなくなり、それぞれの家庭における価値観も多様化しています。「何だか大変そう」と思われるかもしれませんが、ポジティブな側面もたくさんあります。まず、子どもたちにとって、多様性の環境で毎日を過ごし、自分とは違う個性や考え方に触れられることは、とてもいい経験になります。どんどん世界がグローバル化していく中で、幼い頃から多様性という概念を体感できることには、大きな価値があるでしょう。
保育現場としても、昔のように「全員で同じことを行う」よりも、一人ひとりに寄り添って、その個性に沿った働きかけが優先されるようになってきました。また、特に発達特性がある子への関わりでは、作業療法士や心理士など、保育士以外の専門家と協働する場面が増えています。自分とは違う視点で子どもについて学び、専門性を蓄積し続けられることに、意義を感じる方も多いのではないでしょうか。
保育の世界は、社会の縮図と表現できます。「インクルーシブ」「ダイバーシティ」などの言葉が注目される今の時代、それをまさに体感できる場所の一つが、保育園なのです。だからこそ保育を学ぶ皆さんには、学生のうちから、何事にも前向きに取り組む姿勢を育んでもらいたいですね。保育士は、「子どもを通じて自身が学ぶ」ことがとても多い職業です。多様な子どもたちへの関わりを楽しみながら、自分も社会人として成長できる場なので、そのために必要な姿勢を学生時代に育んでおきましょう。
「誰通」の創設で実感した、保育士への大きな期待
2026年度からは「こども誰でも通園制度(以下、誰通)」が本格的にスタートし、保育士がより社会から期待される存在になりました。この制度では、保護者が就労しているかどうかにかかわらず、6カ月~満3歳未満の未就園児を、時間単位で保育園などに預けることができます。私が運営する園では、2年ほど前から試行事業として誰通に取り組んできましたが、想像以上にニーズがあり驚きました。
保護者と子どもだけで過ごしていると、その子が何に興味を持ち、どのような個性を有しているのか、かえって見えにくくなることがあります。誰通を活用して集団での生活や遊びを経験し、そこに保育士というプロフェッショナルが関わることで、その子の一層の成長が期待できるわけです。保護者にとっても、子育てから一時的に離れ、自分を大切にできる時間を取ることは、とても大切なことだと感じます。
保護者への子育て支援に力点が置かれた制度という点で、誰通にやりがいを感じる保育士も少なくありません。現状では、誰通での通園は、週1回程度になることが大半で、コミュニケーションを取れる回数が通常より少なくなりがちです。だからこそ、1回1回の登園時にしっかりと子どもの様子を伝えたり、保護者からの悩み相談に応じたりして、より濃密なコミュニケーションにすることが意識されています。「社会で子どもを育てる」という国の方針の中で、専門職としての保育士の存在感が大きくなっていることを、本制度を通してあらためて実感できました。
壮大な「国家プロジェクト」の一員として輝こう

私は以前、人材紹介事業に関わっていたので、さまざまな職種や職業の特徴を肌で感じてきました。その経験を振り返って感じるのが、保育士がとても特別で、素晴らしい仕事だということです。AIが何でも「答え」を教えてくれる今の時代、自分自身の感覚が鈍ったり、創造力が低下したりする不安を抱える人は少なくありません。しかし、保育士は人と人との心を通わせる仕事に精通する、AIには決して代行できない存在です。そして、子どもは本当に真っすぐで、予定調和なく本心をぶつけてくれます。そのやり取りの中で心を動かされながら、豊かな感情を味わえる仕事は、他にはなかなか存在しないのではないでしょうか。
また、さまざまな年代や立場の保護者と関わり、子どもに関わるプロとして信頼・感謝される仕事である点も、とても特徴的だと思います。子育て中は不安を感じることが多く、保護者は日々悩んだり葛藤したりしていることが多いもの。そこに寄り添い、支えながら信頼関係を育めることも、保育の仕事の魅力でしょう。卒園時は涙を流しながら手を取り合い、「先生がいてくれてよかった」といった言葉を頂けることも多いです。卒園後、子どもだけでなく、保護者の方が遊びに来てくださることもあり、絆の強さを感じます。
一般就職との比較で悩むこともあるでしょうが、ぜひこうした「保育士ならではの魅力」を忘れずに検討してもらえたらと思います。ちなみに、もし今、実習が大変で保育士を諦めようとしているなら、もったいないかもしれません。実習で特に大変な計画作成や記録は、実際の現場ではかなりの部分がICT化していて、膨大な量を手書きして苦労するような場面は激減しています。こうした点は技術の力でサポートしてもらいつつ、子どもに向き合える時間が増えていることも踏まえて、あなたが「本当にやりたいこと」を考えてみてください。
国の求めている人材は時代ごとに変わりますが、国としてどういった人材を育んでいきたいかを把握し、業務に反映させる立場にあるのが保育士です。私たちは、時代ごとに必要な力を育むため、最も重要とされる乳幼児期の土台をつくる大切な部分に関わる、壮大な国家プロジェクトの一員なのです。一人ひとりの、そして社会の未来をつくる保育の仕事を、多くの方に選び取っていただけたらうれしいです。
社会福祉法人風の森 統括
学校法人野上学園 主事代表理事
株式会社野上アカデミー 代表取締役
野上 美希
千葉県出身。東北大学工学部卒業後、シンクタンクおよび人材総合会社にて、経営コンサルティング、人材採用、人材紹介事業の立ち上げなどに従事。営業部長として組織マネジメントを経験した後、自身の妊娠をきっかけに教育・保育の世界へ。
現在は、認可保育園6園、幼稚園、学童保育、病児保育、児童発達支援などを運営し、地域全体で子どもの育ちを支える環境づくりに取り組んでいる。
保育は子どもの人生の土台をつくる、社会にとって極めて重要な仕事であるとの考えのもと、保育者が誇りとやりがいを持って働ける環境づくりを推進。保育・教育分野における講演や執筆活動も行っている。