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化学・石油業界
INDEX
業界の現状と展望
化学・石油業界を理解するポイント
- 合併と統合を繰り返した石油業界は大手数社が競い合う
- 日常生活に欠かせない多種多様な製品を生み出す化学業界
- グリーン化・脱炭素と最適な生産設備の構築は化学・石油業界全体の課題
- 脱炭素の流れの中で、非石油事業に注力する石油業界

生活に必要なあらゆる製品に関わる、化学・石油業界
化学業界では、仕入れた原材料に化学反応技術を加えることで、新たな素材・製品を生み出している。そのため、その分野は多岐にわたり、例えば石油や石炭、天然ガス、水、空気、植物、金属、非金属、陶磁器、パルプなどの多種多様な原材料を、プラスチックや合成ゴム、化学繊維、電子材料、農薬、医薬品、化粧品、ガラスなどに変えている。中間財や一次製品と呼ばれる製品が中心になるが、化粧品や洗剤などのように消費者が直接手にする最終製品を手がける会社もある。
一方、石油業界は、大きく川上・川中・川下に分けられる。川上は油田の探査や採掘、原油生産、原油生産を行い、川中では原油精製・加工によるナフサなどの石油製品の生産を、川下では石油製品の流通や販売を行っている。かつてはセブン・シスターズ(またはエイト・メジャーズ)といわれる欧米の大手石油会社(石油メジャー)が、原油生産のほとんどを独占していたが、現在は新セブン・シスターズともいわれる、サウジアラビアやマレーシア、中国、イラン、ロシアなどの国営企業の存在感が増している。
ポイント
石油関連企業は、合併や統合で業界再編が進みました。川上で石油開発を担う会社には、UAEやオーストラリアなどに権益を持つINPEXや、国内資源を中心に海外でも権益を持つ石油資源開発があります。石油元売りとも呼ばれ川中と川下に相当する精製と販売を担う会社は、今ではENEOSホールディングス、出光興産、コスモエネルギーホールディングスの3社に集約されています。
日本経済を支える根幹業種の一つ。製品は基礎化学品と機能性化学品に大別
化学業界は、古くは肥料や染料の製造から始まり、その後、技術の進歩や石油精製品の拡大などもあって、医薬品や合成繊維、産業用ガスなど事業領域を拡大。いまでは、航空機やエレクトロニクス産業、自動車産業などの分野へも製品を供給している。2021年発表の経済産業省の資料「化学産業の現状と課題」によれば、「化学産業は、事業所数(約2万)、従業員数(約95万人)、製品出荷額(約46兆円)、付加価値額(約18兆円)でみても製造業全体の1割強を占め、経済や雇用を語る上でも欠くことのできない産業。」としている。
そして製品は、大きく基礎化学品と機能性化学品に大別される。基礎化学品は、ナフサから精製するエチレンやベンゼンをはじめとする石油化学製品や、ポリエチレンにポリプロピレン等の合成樹脂、近年は燃料としても注目されるアンモニアや、固形せっけんの原料として知られるカセイソーダ(水酸化ナトリウム)といった工業薬品、窒素や酸素等の産業用ガスなどがある。一方、基礎化学品を原料に、いろいろな化学反応や配合などを行うことで造る、耐熱性や耐薬品性など、基礎化学品では満たせない高い機能を持つ製品が機能性化学品だ。
ポイント
ナフサ分解工場に運ばれたナフサは、石油化学基礎製品と呼ばれるエチレンやプロピレン、ベンゼンなどに変わります。これらの基礎製品は、さらに石油化学誘導品工場で石油化学誘導品という別の物質に作り変えられます。例えば、エチレンはポリエチレンに、プロピレンはポリプロピレンにといった具合です。石油の精製から誘導品の製造までの一連の作業を行うのが、石油コンビナートです。誘導品は、コンビナート外の別の会社や工場に運ばれ、プラスチック製品や化学繊維、合成ゴムなどに生まれ変わります。なお、石油化学工業協会によれば、日本には9ヵ所に15の石油化学コンビナートがあります。
基礎化学品は製造プロセスが比較的単純で、メーカーごとの特性差が少ないため価格競争となりやすい。そのため企業には、より安い原材料の入手や製造設備の効率的稼働など、コスト戦略が求められる。
機能性化学品は、クライアント(納入先)の業種が多岐にわたるだけでなく、例えば耐熱性など、前述のように性能に対する要求もさまざまで、多品種少量生産を特徴とする。そのため、クライアントとメーカーが一体となって製品開発を行うケースも多い。一つ一つの取引規模はそれほど大きくなくとも、製造に当たっては専門の技術や独自のノウハウが必要となるため、他社が新規参入することは容易ではない。半導体製造に使われる、自然界に存在しない特殊ガス(半導体材料ガス)の製造など、世界的にシェアが高い製品を製造する企業も多い。
半導体材料を中心に反転の機運。さらなる選択と集中と選択、事業再編が加速か
総合化学メーカーは、傘下にも複数の子会社を持ち、多種多様な製品の製造販売を行っているが、石油価格や、化学製品の原材料となるナフサの在庫価格の変動が収益に大きく影響する。2023年の化学業界は、中国経済の不振や半導体向けの回復が遅れたこともあり厳しい状況が続いた。だが、2023年下期あたりから底打ち反転の機運が高まっており、AIブームの影響もあり半導体向けの機能製品は上向いている。
多種多様な製品を製造する化学業界の取引先はさまざまだが、自動車業界を主要取引先とする企業が多く、自動車関連部材の展開は多岐にわたっている。そのため、新車の販売実績が業績に与える影響は大きい。2024年の自動車販売は、好調だった2023年の反動もあり販売台数が伸びていない。さらに、中国以外の国ではEV(電気自動車)の販売が想定ほど伸びていないこともマイナス要因だ。
加えて、脱炭素社会への対応や投資も同時に求められており、一般社団法人日本化学工業協会では、2050 年カーボンニュートラル実現のための化学産業における投資額について、7.4~9.7 兆円と算出。2030年度のCO2の削減目標を2, 000万トン(2013年度比で32%削減)としている。
化学・石油業界は、世界的な市況の影響を受けやすく、中でも汎用(はんよう) 品は生産設備を増強する中国との厳しい価格競争にさらされている。以前から汎用(はんよう)性の高いエチレンの国内生産能力は過剰と指摘されており、グリーン化・脱炭素と共に業界全体の課題として対応が求められていた。今後は、自社だけにとどまらず他社との連携もふまえて、さらなる選択と集中と選択、事業構造の見直しが進みそうだ。
近年では、旭化成、三井化学、三菱ケミカルの3社は、西日本におけるエチレン製造設備のグリーン化、ならびに将来の能力削減も含めた生産体制最適化を検討することで合意。出光興産と三井化学は基礎化学品のエチレンで、千葉県の生産拠点の集約を検討すると発表、出光興産拠点の操業を止めることを明らかにしている。住友化学も丸善石油化学とともに千葉県のエチレン製造設備の生産最適化の検討を開始した。新陳代謝のスピードを上げ、収益が期待できるEVや半導体関連素材などに注力していくとともに、グリーン化・脱炭素と適切な需給バランスに対応できる製造設備のありようの両輪を業界全体で見直していく機運は高まっている。
世界情勢に翻弄(ほんろう)される化学・石油業界
石油業界では、コロナ禍の影響による世界的な経済活動の縮小で、石油需要は一気に後退。現物の貯蔵容量がいっぱいで買い手が現れなかったという特殊事情もあるが、2020年4月20日にはWTI先物原油価格が-37.63ドルと、史上初めてマイナス価格を記録した。
しかし、石油需要は経済活動の回復に歩調を合わせて徐々に回復したが、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに原油価格が高騰、WTI先物原油価格は130ドルを超える場面もあった。
さらに、パレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルの衝突が激化。中東情勢の不安定化も懸念される中で、トランプ政権が誕生。原油価格は常に世界情勢によって大きく変動する。
多角化や脱炭素につながる構造改革に着手する石油業界
国内の石油業界は、規模も大きく安定的なイメージがあるが、国内で生産される原油は使用量の1%にも満たず、ほとんどを海外からの輸入に依存している。原油価格や為替の変動が各社の収益に影響するだけでなく、日本経済全体への関わりも大きい。また、再生可能エネルギーの導入促進、EVや水素自動車の普及など、世界的に脱炭素の潮流は加速しており、右肩上がりの需要増は見通せないのが現状だ。各社はM&Aや製油所の統廃合などで経営の合理化を進めると同時に、石油以外のエネルギー関連商品やサービス、電子部品材料などを総合的に提供する企業として、非石油事業の育成を急いでいる。
一方で、水素やアンモニアなど、脱炭素の切り札の一つと考えられている製品の製造に関わることも多く、カーボンニュートラルの観点からも化学・石油業界が担う役割は非常に大きく、注目の業界と言える。
ポイント
海外に権益を持つ石油開発会社は、エネルギー安定確保のためにも国策上極めて重要です。そのため、石油開発最大手のINPEXは、国内で唯一の黄金株を発行している上場会社です。黄金株が1株あれば、株主総会や取締役会で決議された事項に拒否権を行使でき、敵対的買収者に対して効果を発揮します。同社の黄金株は、日本政府(経済産業大臣)に割り当てられています。
業界関連⽤語
グリーン水素
燃焼しても化石燃料のようにCO2を排出しないことや、石炭や石油、食品廃棄物、下水汚泥などさまざまな資源から造れることが特徴の水素。これまでも、研究開発は進んでいたが、近年、水素エネルギーの活用に向けた動きが各国で加速している。水素の製造にはさまざまな方法があるが、中でも、太陽光や風力など、再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して製造する水素はグリーン水素と呼ばれ、究極のクリーンエネルギーとして期待が高い。
ちなみに、製造過程でCO2の排出が伴う水素はグレー水素、そのCO2を回収して貯蔵などをする場合はブルー水素と呼ばれる。
バイオプラスチック/生分解性プラスチック
生物資源から作られたプラスチックで、主にトウモロコシやジャガイモなどのでんぷんを原料としている。バイオプラスチックの多くは、生分解性プラスチックとしての性能を持ち、微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解されるため、産業廃棄物とならず、自然環境への負荷が少ない。プラスチックゴミによる海洋汚染が問題視されていることもあり、政府では海洋中で生分解する「海洋生分解性プラスチック」等の開発・導入・普及促進に取り組むとしている。なお、現状ではすべての生分解性プラスチックが、土や海の中で分解されるわけではなく、高温にするなど一定の条件下でなければ分解されない製品もある。後者は燃焼されることも多いが、二酸化炭素を吸収した植物由来のため、実質的に大気中の二酸化炭素を増やさないカーボンニュートラルに寄与している。
天然資源化学
これまでの石油化学は文字通り石油を主役としていたが、いまでは石油だけでなく、石炭や天然ガス、バイオマス、シェールガスといった幅広い天然資源を利用する「天然資源化学」の時代へと進展している。例えば、これまでの日本の石油化学では原油を精製したナフサを主原料にしていたが、米国ではシェールガスを原料にしたエタンにシフトしつつある。また、中国では安価な石炭を原料にした「石炭化学」を国策的に推進している。
ナフサ
原油の蒸留で得られる石油精製製品で、ガソリンの一種。自動車や航空機などの燃料や石油化学製品の主原料として利用されている。国内でも原油を精製して製造しているが、その半分以上をUAE、カタール、韓国、インド、クウェートなどから輸入している。
ナフサの価格は原油価格に連動しているため、価格変動の影響が大きい。各社とも収益の安定化にはナフサ以外の原料を使う割合を高めることも必要だと考えており、そのための研究・努力を行っている。
バイオマスナフサ
バイオマスとは、動植物に由来する資源のことで、石油などの化石燃料を除いたもの。持続的に再生可能な資源とされている。バイオマスナフサとは、こうしたバイオマスを熱分解することで得られる液体燃料のこと。品質は石油由来のナフサと同等で、既存設備を活用しながらバイオマス化が可能なため、大きな追加コストが発生しないこともあり、各社はバイオマスナフサの活用を進める動きを拡大している。
アクアマテリアル
東京大学の相田卓三教授らが開発した、98%が水でできている新素材。固まると適度な硬度を持ち、型にはめて自由な形に加工することもできる。アクアマテリアル同士を張り合わせると分子同士が接合するという特長もあり、さまざまな用途での活躍が期待されている。環境に優しい素材として注目を集めている。
シェールガス
シェールガスとは、泥土が堆積した頁岩(けつがん=シェール)層から採取する天然ガス。従来のガス田とは異なる場所から採れることから、非在来型天然ガスとも呼ばれる。採掘が難しいので放置されてきたが、近年技術革新が進み低コストでの採取ができるようになり、低価格での天然ガス供給が可能となった(シェールガス革命)。なお、2013年6月におけるEIA(米国エネルギー情報局)の発表では、世界のシェールオイル可採埋蔵量は3,450億バレルと推定。1位はロシアの750億バレル、2位はアメリカの580億バレル、3位は中国の320億バレルとなっている。
エチレン稼働率
ナフサから作られるエチレンは、日用品、家電、自動車用部品などに使われる幅広い化学製品の原料で、その生産動向は化学業界の活況具合を示す指標となる。稼働率90%が好不況の目安とされているが、近年は90%を下回ることが多い。
E10ガソリン
E10ガソリンとは、ガソリンにバイオエタノール(サトウキビやトウモロコシなどから製造される植物由来のエタノール)を10%混合した燃料のこと。海外ではすでに自動車燃料として使用されている。これまでは、バイオエタノールの原料となるバイオマスの調達に関する課題や、濃度の高いバイオ燃料に対応できない車が多いなどの理由で国内ではあまり普及が進まなかったが、改めて資源エネルギー庁を中心に導入拡大に向けた審議を進めている。なお、E20ならばバイオエタノールを20%含み、E100なら100%バイオエタノールという意味になる。
どんな仕事があるの︖
化学・石油業界の主な仕事
営業
化学素材を、顧客である素材メーカーや卸会社に提案・販売する。
資材調達・購買
各工場やプラントからのニーズを取りまとめて、国内外から原料や薬品を仕入れる。
基礎研究
次世代向け製品に役立てるため、最先端技術の研究を行う。
生産管理
スケジュールや計画を立てて、スムーズに生産できるよう手配をする。
プラント・設備設計
製品を作るための工場やプラントを、スタッフがスムーズに効率よく働けるように設計する。
※原稿作成期間は2024年12⽉28⽇〜2025年2⽉28⽇です。