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鉄道・航空・道路業界

業界の現状と展望

鉄道・航空・道路業界を理解するポイント

  • 訪日外国人観光客の増加もあり、好調な鉄道各社の決算
  • 多角化で非鉄道分野でも収益が拡大
  • 堅調な旅客需要で増収も、燃料高や人件費増が厳しい航空2社
  • 空港での地上支援業務における人手不足の解消が課題
安全に「人」や「物」を運ぶ鉄道・航空業界

安全に「人」や「物」を運ぶ鉄道・航空業界

鉄道や路線を維持管理し、「人」や「物」を運ぶサービスを行っているのが鉄道業界。沿線でオフィスビルや商業施設、住宅エリアなどの開発も行っている。
国内では、国鉄分割民営化によって発足したJR各社、主に都市圏を中心とする私鉄や地下鉄、民間企業と地方公共団体の共同出資による第三セクター鉄道などがある。

航空機によって「人」や「物」を国内外に運ぶサービスを行っているのが航空業界。航空業界は、ANA(全日本空輸)とJAL(日本航空)の2強体制が確立しているが、それまで航空運賃に含まれていた機内食や手荷物預かりサービスを有料化することなどで低運賃を実現させるLCC(Low Cost Carrier=格安航空会社)も登場。海外の航空会社も含めて、国内外で熾烈(しれつ)な競争が繰り広げられている。

多角化で堅実な成長を目指す鉄道業界

鉄道事業者の本業である「運輸業」は、国内的には少子化に加えて、飛行機や自動車など他運送機関との競争が激化しており、中長期的には、乗降客の増加を見込むのは難しい状況といえよう。また、鉄道インフラの維持運営には大きな固定費が必要で、コスト削減余地が少ないことも鉄道各社共通の課題だ。

収益の柱となる運賃設定は、国土交通大臣の認可が必要なこともあり、状況に合わせて機動的に運賃を変えることができない。そのため、プレミアム車両や有料座席車両の導入、閑散期・最繁忙期といった季節需要に応じた料金設定、オフピーク定期券の採用、年末年始、ゴールデンウイーク、お盆にはのぞみ(新幹線)を全席指定にするなど工夫を凝らしている。

ポイント

国土交通省は、2024年4月に、鉄道会社が運賃を算定する際の根拠となる「総括原価」の算定方法を見直しました。そのため、耐震化や従業員の賃金改善などにつながる費用を運賃に上乗せしやすくなりました。運賃値上げを検討している会社もあります。

その一方で、鉄道会社は駅ナカビジネスや沿線での不動産開発、百貨店・スーパーの運営、ホテル・観光事業、食品・外食、バス・タクシーなど、古くから積極的に多角化に取り組んでいる。いまでは、こうした非鉄道事業の成否は会社の収益に大きく影響を与える規模になっている。鉄道各社は不動産を大量に所有している会社が多く、JR各社や私鉄は大規模開発に積極的に取り組んでいる。不動産事業の強化が鉄道利用者増加にもつながるため、会社全体の収益向上を目指している。

乗降客の多い駅では、既存の商業施設や路面店とは異なり、圧倒的な数の幅広い層の人が行き来しており、立地によってもその駅を利用する人の姿は大きく異なる。それぞれの駅が持つ特性や地域性を生かした魅力的な展開を目指している。

訪日外国人の増加もあり利用客が戻るJR・私鉄大手。地方路線には厳しさも

新型コロナウイルス感染症の5類移行をきっかけに人の動きが活発化。経済活動も回復傾向にあり、コロナ禍で大きく落ち込んだ鉄道にも利用客が戻っている。ただ定期客需要については、テレワークや在宅勤務の浸透で交通系ICカード利用にシフトした人も少なからずおり、戻りは鈍い。

一方で、定期外需要は回復スピードが速い。これまでの利用者の復活に加え、訪日外国人観光客の増加もプラス要因だ。2024年の訪日外国人観光客は約3,687万人 と過去最高を記録した。JR東日本・JR東海・JR西日本の、いわゆるJR3社の2025年3月期の中間決算は、3社ともが増収増益を記録した。訪日外国人観光客需要の取り込みに加えて、駅ビルでの売り上げやホテル事業も好調だった。
日本民営鉄道協会によれば、2025年3月期の中間決算では、大手民鉄15社合計の売上高は8.5%増の4兆3,658億円、経常利益は19.3%増の5,028億円と、こちらも増収増益となっている。
ただし課題もある、都市部を営業基盤とする会社と地方路線では状況は大きく異なる。赤字路線の存続議論に加え、人手不足も深刻で、減便に踏み切る地方鉄道もある。また、人気観光地では、観光客が集中することで日常利用に影響が出るなど、オーバーツーリズム対策も重要になっている。

ポイント

鉄道各社は脱炭素対策に取り組んでおり、新しい車両開発にも力を入れています。実用化が近いといわれているのは、JR東日本の水素ハイブリッド車両「HYBARI(ひばり)」。水素と酸素で発電する燃料電池と蓄電池を併用するハイブリッド式の車両で、走行時に二酸化炭素を排出しません。すでに走行実験を行っており、2030年度の実用化を目指しています。

需要回復にいち早く対応した国内2社の収益は回復。訪日外国人にも期待

コロナ禍で大きな影響を受けた航空業界だが、まずは国内線を中心に需要が回復。その後、国際線の旅客需要の回復に単価上昇も加わり旅客収入が増加、収益は大幅に改善している。訪日外国人観光客の増加も大きなプラス要因となった。
2025年3月期中間決算で、日本航空の売り上げ収益は前年同期比9.9%増の9,018億円となった。ただし燃料費の増加や整備費、人件費、作業量増加にともなって発生する費用の増加など営業費用が同11.9%増の8,243億円となり、結果、純利益は同19.1%減の498億円となった。
一方で、ANAホールディングスの売上高も同9.7%増の1兆996億円と増収ながら、日本航空と同様の理由で営業費用が同13.6%増の9,912億円 となり、純利益は13.3%減の808億円となった。両社とも旺盛な訪日外国人観光客や国内旅行人気に支えられた旅客需要、貨物需要は続くと見込んでおり、業績の上振れも期待できそうだ。
ただし、海外エアラインとの競争激化も想定される。国内ではJAL(日本航空)とANAホールディングスの大手2社が、盤石の国内路線を所有しているため、比較的経営は安定しているといえるが、東南アジアやヨーロッパなどでは、当地のナショナルフラッグキャリアが国内や域内でLCCと熾烈(しれつ)な競争を繰り広げている。

大手2社はLCC戦略も強化。日本航空は、中国の春秋航空日本(旧社名で、現在はスプリング・ジャパン)を子会社化し、ANAホールディングスは、系列のエア・ドゥとソラシドエアを経営統合し、2022年10月に共同持株会社として、リージョナルプラスウイングスを設立した。エアージャパンは、中距離国際線を飛行するANAホールディングスの第3ブランドとなった(第2ブランドは「Peach ピーチ」)。

ポイント

航空機が離着陸する際に行う、航空機の誘導や貨物の積み下ろし、機内清掃、機内食の搭載などの業務を総称してグランドハンドリングといいます。近年、この業務を行うスタッフ(グランドスタッフ)が不足、旅客・貨物需要が増加する中、大きな問題となっています。各社は、業務のDX化や特定技能外国人の受け入れなど、さまざまな取り組みを行っています。

多角化で堅実な成長を目指す道路業界

鉄道・航空とともに人や物の移動を支えるのが道路。中でも日本国内に張り巡らされた高速道路網は、国内の物流や人流になくてはならない重要インフラになっている。こうした高速道路網を安心、安全、快適に走行できるよう維持・向上に努めている会社として知られているのがNEXCO(Nippon Expressway Company)3社だ。
2005年10月に道路関係四公団が民営化。日本の高速道路・有料道路(高速自動車国道およびバイパス道路)の建設、管理を行っていた日本道路公団の分割民営化によって発足した会社が、東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)中日本高速道路株式会社(NEXCO中日本)西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)の3社となった。また、首都高速道路公団は首都高速道路株式会社に、阪神高速道路公団は阪神高速道路株式会社に、本州四国連絡橋公団は本州四国連絡高速道路株式会社になった。
それぞれの高速道路会社の事業には、高速道路事業と関連事業があり、高速道路事業には、高速道路の「新設・改築」、「維持・修繕・災害復旧」、「料金収受・交通管理等」がある。一方の関連事業には、「SA・PA事業」、「駐車場事業」、「トラックターミナル事業」、「不動産開発事業他」、「道路の新設、維持、調査等の受託」がある。

業界関連⽤語

アライアンス(航空連合)

世界規模の航空会社間の連合組織。同じグループの航空会社によるコードシェア便の運行、チェックインカウンターラウンジの相互利用、マイレージプログラムの相互提携など利用者の利便性を増すサービスを提供している。スターアライアンス、ワンワールド、スカイチームの3つの有力連合がある。

なお、成田空港ではターミナルごとに航空連合が異なっており、乗り継ぎやラウンジの利用などで利用者の利便性が図られている。

クルーズトレイン「ななつ星in九州」

JR九州が運行する豪華寝台列車で、九州各地を巡り、自然・食・温泉・歴史文化・パワースポット・人情・列車といった九州の主な7つの観光素材を楽しむことができるという。客室は10室のみで、全て贅(ぜい)と美を施したスイートルーム。利用料金が100万円超のコース設定もある。

さらに、JR西日本は「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレス みずかぜ)」を、JR東日本は「TRAIN SUITE 四季島(トランスイート しきしま)」を運行。いずれも人気となっている。

リニア中央新幹線

最高時速505kmのリニアモーターカーによって、東京‐名古屋‐大阪を約1時間で結ぶ鉄道整備計画。まずは、2014年末に名古屋駅と品川駅で資材置き場などを作る準備工事が開始。本線の工事は、2015年12月18日に最難関といわれている南アルプストンネルからスタート、東京と名古屋間・約286kmのうち86%はトンネルが占める見込み。

水資源などへの影響を懸念する静岡県との対立の影響もあり、予定していた2027年の開業は事実上不可能な状況だ。

SAF

Sustainable Aviation Fuelの略で、持続可能な航空燃料のこと。世界的な脱炭素の機運が高まる中で、航空業界でも対策が求められている。航空機で使用するジェットエンジンは、電気などの他のエネルギーで代替することが難しいため、SAFと呼ばれる二酸化炭素の排出量が少ないジェット燃料の開発と使用が課題になっている。SAFの原料には、木くずや微細藻類、排ガスから製造されたエタノール、廃食油などが使われている。国内でもSAFの実証製造プラントの稼動が始まっており、実際のジェット機を使った実証実験も行われている。

DMV

Dual Mode Dual Mode Vehicleの略で、列車が走ることができる軌道と、自動車が走ることができる道路の両方を走行できる乗り物。マイクロバスをベースに改造されている。2021年12月、徳島県の阿佐海岸鉄道で本格営業運行が開始されたことで話題になった。阿佐海岸鉄道のDMVは、鉄道モードとバスモードの切り替えは15秒程度で、乗客を乗せたまま行えるため、乗り換えなしでバスと鉄道の両方を利用できる。利便性が高まるだけでなく観光資源としても期待されている。なお、阿波海南文化村‐阿波海南駅をバスモード、阿波海南駅‐甲浦駅を鉄道モード、再度バスモードになって海の駅東洋町、道の駅宍喰温泉を往復運行している。

飛び恥

二酸化炭素の排出量が多い飛行機の利用を避けようとする運動の一環から生まれた言葉で、スウェーデン語のフリーグスカム(Flygskam)が由来。英語ではフライトシェイム(Flight Shame)ともいわれる。スウェーデンで始まり、著名人が追随するにつれ、こうした考えが広まっていった。スウェーデンでは実際に、多くの人が鉄道を利用するようになり、国内線の利用者が減少。欧州では、他の国でも同様の動きが見られた。

一方、航空会社側も手をこまねいているわけではなく、二酸化炭素の排出量を約80%削減できるといわれるSAFの導入はもちろん、二酸化炭素の排出量を大きく削減できる機体の開発や電動航空機の開発にも取り組んでいる。
また、アメリカのサンディエゴに本拠を構えるスタートアップNatilus社は、航空貨物業界に衝撃をもたらす貨物専用機を発表。翼胴一体の流線型のデザインが特徴で、二酸化炭素の排出量を50%削減し、60%輸送量を増加させることを可能にしており、すでに数百機もの受注を受けている。

超音速旅客機

超音速旅客機といえば、商業飛行を行っていたイギリスとフランスが共同開発したコンコルドやソ連が手掛けたTu-144が有名だ。両機はすでに商業飛行を停止しているが、近年再び超音速旅客機開発の機運が高まっている。アメリカのブーム・テクノロジーが開発を進めるブーム・オーバーチュアは、現在の航空機の約2倍の速度、マッハ1.7で飛行、100%のSAFで飛行することを目的としている。すでに導入を表明している航空会社もあり、2025年に完成披露、2026年の初飛行を経て、2029年の就航を予定している。

給電道路

給電道路とは、走行時に無線で給電を行いEVのバッテリーを充電できる道路のこと。仕組みはスマホのワイヤレス充電と同様で、道路に送電コイルやシステムなどを設置し、自動車には受電コイルなどを搭載する。送電コイルに電気を流すと磁界が発生し、磁界に受電コイルが近づくと反応して電力が生じるため、それをバッテリーに充電するという仕組みになっている。スウェーデンではすでに給電道路網の建設が始まっており、日本でも実用化に向けて実証実験が進んでいる。

どんな仕事があるの︖

鉄道業界の主な仕事

運輸
駅員業務、車掌業務、運転士業務(要国家資格)を行う。

技術
保線業務、電気・通信設備の保守業務、鉄道車両の整備などを行う。
物流・人流システムを開発する。

航空業界の主な仕事

客室乗務員
飛行機のキャビン(客室)に乗務。乗客の安全を確保し、サービスを提供する。豪華客船や新幹線、私鉄の特急電車などにも独自の乗務員がいる。

航空整備士
航空機体の点検・整備を行う。部品の磨耗や老朽化、故障に常に細心の注意を払い、機体を安全な状態に保つ。

※原稿作成期間は2024年12⽉28⽇〜2025年2⽉28⽇です。

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