
通信業界
INDEX
業界の現状と展望
通信業界を理解するポイント
- スマートフォンの所有率は堅調に推移する一方で固定電話は減少傾向
- 半数を超える企業がクラウドサービスを利用
- ますます激化する携帯電話市場でのシェア争い
- 金融を含めた巨大経済圏の構築にまい進する大手通信会社
- 通信業にとってはARPUの向上がポイント

「固定通信」・「移動体通信」・「ISP」などで構成される通信業界
通信業界には、従来の固定電話やPCにおける通信サービスを行う「固定通信」、携帯電話やスマートフォン、PHSなどのモバイルにおける通信サービスを行う「移動体通信」、インターネット接続サービスを提供する「ISP(インターネットサービスプロバイダー)」などがある。通信を行うための回線や設備を全国に整備し通信サービスを提供、重要な通信インフラを支えている。
モバイルはスマホが中心。テレワークは在宅からモバイルやサテライトへ
一般用の情報通信端末にはさまざまなものがある中で、いまではスマートフォンが中心になっている。
総務省の「令和5年通信利用動向調査」によれば、2023年8月末時点のスマートフォンの世帯保有率は90.6%、個人の保有率も78.9%と堅調に伸びている。また、インターネット利用者の割合は、13~69歳の各年齢で9割を超え、インターネット利用機器もスマートフォンが72.9%と中心となっている。
また、コロナ禍をきっかけに導入が進んだテレワークの割合は49.9%と半数を割り込んだ。3年連続で減少しており、今後導入を予定していると回答した企業も減少した。なお、テレワークの導入形態では、在宅勤務は減少する一方でモバイルワークやサテライトオフィスが増加している。
また、企業によるクラウドサービスの利用率も増加傾向にあり、全社的に利用している企業の割合は50.6%と半数を超え、一部利用している企業も含めると77.7%と8割に近づいている。「非常に効果があった」と回答した企業が33.5%、「ある程度効果があった」とする企業は54.9%と、合わせて88.4%の企業が肯定的な回答をしている。
IDC Japanの市場予測によれば、2023年の国内パブリッククラウドサービス市場は、前年比27.5%増の3兆2,609億円。2023年~2028年は、年間平均成長率17.2%で推移し、2028年の市場規模は2023年比2.2倍の7兆2,227億円になると予測している。中でも生成AIは成長をけん引する大きな要因になると指摘している。
ポイント
本社を基点に、さまざまなエリアに衛星のように設置するサテライトオフィス。テレワークの新形態として注目されています。一社で専有する場合と、複数社で共同利用する場合があります。通勤時間の削減や営業中に社外で作業できる、地方にいる人材を獲得しやすいなどのメリットがあり、災害時のBCP(事業継続計画)の一つと想定している企業もあります。
減少傾向にある固定電話加入者。移動通信ではMVNOが健闘
スマートフォンの利用者が増加する一方で、固定電話(有線式加入電話)の加入者数は減少傾向にある。
総務省の「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 (令和6年度第2四半期)」によると、2024年9月末時点での固定電話(音声系)の契約数は前年同期比2.5%減の4,901万となった。その中でのNTT東西加入電話は同7.7%減の1,190万と減少した。一方で、IP電話(従来のアナログ回線ではなくインターネットを経由して音声をやりとりする)の利用番号数は、同1.9%減の4,481万となった。近年は、固定電話におけるIP電話の比率が年々高まっている。なお、NTTはアナログ回線とISDN回線を廃止し、IP網へ移行することを決定しているが、自宅やオフィスに設置している固定電話が利用できなくなるわけではない。また利用者側からの手続きや工事などの必要もない。
移動系通信(携帯電話・PHS・BWA)の普及率は、1993年にはわずか1%台だったが、2000年には携帯電話の加入者数が固定電話の加入者数を上回り、2023年9月末時点の移動系通信の契約数は前年同期比3.0%増の2億1,798万。携帯電話の契約数は同3.4%増の2億1,790万となった。移動系通信契約数における事業者別シェア(グループ別)は、NTTドコモが34.6%(前年同期比0.9ポイント減、MVNOへの提供にかかるものを含めると40.8%)、KDDIグループが27.4%(同増減なし、同31.7%)、ソフトバンクが19.3%(同0.3ポイント減、同23.9%)となった。楽天モバイルは3.1%(同0.7ポイント増、同3.7%)だった。
ポイント
iモード全盛時には6割を超えていたドコモのシェアですが、他社への乗り換えが増えるとともにシェアを落としています。そのため、シェア35%を死守し、さらなる上昇を目指すことを明言しています。先陣を切って携帯電話料金の実質値下げに踏み切るなど、顧客獲得合戦で他社に積極攻勢をかけています。
低料金プランで競争激化の通信業界。本格活用へ5Gの基地局整備も進む
通信各社の収益源は、通話料とデータ通信料。従来とは異なる課金モデルの検討を含めて、既存ユーザーの囲い込みと新たな収益源の開拓が課題となっている。国内においては、オリジナルコンテンツの配信や通信販売の拡大などさまざまな施策を打ち出している。成熟期に入りつつある国内市場だけでなく、高い伸び率が見込まれる北米やアジア・太平洋地域を中心に海外展開も進めている。また、それぞれ独自の経済圏を確立し、金融やECなどの非通信分野での収益確保にも力を注いでいる。
さらに、大容量の通信が可能になる5G(業界関連用語参照)もスタート。5G対応の端末機も各社から発売され、通信業界は新たなステージに突入している。先のデータ発表によると、2024年9月末時点での5G携帯電話の契約数は初めて1億を突破し、1億229万となった。一方で、3.9-4世代携帯(LTE)は減少傾向にあり1億1,546万となっている。5G対応機器の普及で個人向けはもちろん、IoTサービスなど法人向けへの展開もあり、通信業界はもとより関連業界からの期待も大きい。
典型的なストック型ビジネス(仕組みやインフラを構築し、定額や従量で課金しサービスを提供、収益を確保するビジネス)といわれる通信業界だが、いわゆる官製値下げにより、各社は20GBのデータ通信をベースとした月額2,000円台(税抜)の新料金プランを市場に投入。自社顧客の囲い込みと他社からの取り込みを図ったためARPU(1ユーザーあたりの平均収益・売り上げで、通信会社の収益動向を左右する重要指標)が下落し、収益への影響も大きかった。
近年、値下げ競争は一段落し、今後はARPUの上昇による収益動向が注目される。
加えて、通信各社は、それぞれの経済圏を構築し、非通信サービスを充実させることでユーザーの囲い込みにも注力している。中でも、通信と金融をからめた巨大経済圏確保競争が注目だ。ソフトバンクグループはグループ内にPayPay銀行やPayPay証券などを、楽天グループは楽天銀行や楽天証券などを、KDDIグループはauじぶん銀行やauカブコム証券などを有している。そうした中で、通信大手で唯一傘下に銀行と証券会社がなかったNTTドコモは、マネックス証券を子会社化し巻き返しを図っている。他にも、KDDIがローソンのTOBに参画し、三菱商事と共同経営することを表明し、通信業界のみならず大きな話題となった。
さらに、時期は通信会社によって異なるが、いわゆるガラケーで利用されていた3G通信のサービス終了が決定しており、買い替え需要も期待できるので、早晩激しい顧客獲得競争が始まりそうだ。なお、先の同資料によれば、2024年9月時点の3Gの契約数は598万件となっている。
本格的なeSIMの普及なるか
総務省は、これまでの物理的なSIMカードから、スマートフォンに内蔵された本体一体型のeSIMへの普及も進めている。eSIMであれば、店舗に行ってSIMカードを差し替えるなど、新しいSIMカードの到着を待つことなく、通信会社の変更がオンラインで可能になる。同時にSIMロック禁止を普及させることで、消費者は通信会社の変更が容易になり、会社間で競争が促される。料金の引き下げも進むとの期待もあり、2021年10月以降に販売される端末はSIMロックが解除された状態であることが原則として義務付けられている。
ただし、eSIMに関する認知が消費者へ広まっているとはいえず、普及率はそれほど高くない。先の新料金プランともども、販売店のあり方自体を見直すきっかけになりかねないため、こちらも注目される。なおeSIMは、Embedded SIMの略で、Embeddedは「埋め込まれた」などの意味がある。
ポイント
MVNO(業界関連用語参照)の契約数は、2024年9月時点で前年同期比6.4%増の3,397万と順調です。なお、国から免許を得て電波を割り当てられ、自社でアンテナや基地局を設置して携帯電話サービスを提供している会社をMNO(Mobile Network Operator:移動体通信事業者)といいます(キャリアとも呼ばれます)。MNOから直接回線を借りている会社を一次MVNO、一次MVNOから回線を借りている会社を二次MVNOといいます。
業界関連⽤語
ローカル5G
通信事業者が提供する全国的に広範囲な5G通信サービスに対し、地域の企業、自治体などが個別に利用できる5Gネットワークのこと。例えば企業の社屋・工場内や自治体の施設といった限られたエリアで自営の5Gネットワークを構築、利用できる。ただし、国で指定された無線局免許の取得が必要となる。
MVNO
Mobile Virtual Network Operatorの略で、自社では通信網を持たず、他の事業者から借り受けて通信サービスを提供する事業者。仮想移動体通信事業者ともいわれる。
1年定額のSIMフリーカードや低価格のデータ通信サービスなど、大手通信事業者にはないオリジナルサービスの提供が特徴で、多くの企業が参入している。データ通信量や通信速度に制限がある場合もあるが、ユーザーニーズに即したサービスを提供している事業者が多い。
5G(第5世代移動通信システム)
NTTドコモでは、あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)化が急速に進むと、2020年代の情報社会では、移動通信のトラフィック量は2010年と比較して1,000倍以上に増大すると予測している。そのため、世界中の通信会社が5Gの研究開発に取り組んでいる。実効スピードは現行の100倍、10Gbpsを超える超高速通信を実現。超高解像度動画のストリーミングも快適に楽しめ、自動運転にも寄与するとされる。
世界経済だけでなく国家安全保障に与えるインパクトも大きいといわれ、米中貿易摩擦の焦点の一つと目されている。
BYOD(ビーワイオーディー)
Bring Your Own Deviceの略で、「自分の機器を持ち込む」こと。個人所有のパソコンやスマートフォンを職場に持ち込むだけでなく、アクセス制限された企業の機密情報にアクセスし業務を行うことも想定している。業務に必要なファイルやデータをクラウドに保管し、職場だけでなく出張先や自宅などでも情報にアクセスして仕事ができる。
企業側でコンピューターなどを用意する必要がない、情報をクラウドで一元管理できるというメリットがあるが、情報流出やウイルス感染のリスクや、セキュリティー管理が複雑になるなどの課題もある。
量子暗号通信
インターネット上ではさまざまなデータが暗号化されてやりとりされているが、コンピューターの性能が向上するにつれて、ハッキングによってデータが盗まれたり、暗号が解読されたりするといったリスクが高まっている。量子暗号通信とは、量子力学の原理を応用し、暗号を解くために必要な鍵を分割、光の最小単位である光子に一つ一つ乗せて送ることで、データ通信の安全性を担保できる技術。
光電融合技術
これまで別々だった、光通信の技術と電子回路の技術を融合すること。コンピューターなどで使われる半導体チップは集積化が進んでおり、チップ内の配線の発熱が性能を制限しつつある。そこで、チップ内の配線に光通信技術を導入し、低消費電力化を行うと同時に高速演算技術も組み込むことで、これまでにない光と電子が融合したチップの開発を目指している。NTTは以前から光電融合技術の研究開発を続けており、これらのチップを搭載した機器で構築された「オールフォトニクス・ネットワーク」によって、情報通信技術インフラの性能向上を目指している。
IOWN(アイオン)構想
Innovative Optical and Wireless Networkの略で、直訳すると「革新的な光とワイヤレスネットワーク」。最先端の光技術を使って、豊かな社会をつくるための構想で、NTTが提唱している。これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想で、2024年の仕様確定、2030年の実現を目指している。2020年1月にNTT、米Intel Corporation、ソニー株式会社の3社がIOWN Global Forum, Inc.を設立。現在は国内外の有名企業や研究機関などそうそうたる顔ぶれが参画メンバーに加わっている。
NTTのサイトによれば、IOWNは、ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタルツインコンピューティング」、それらを含むさまざまなICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されている。従来と比べて、伝送容量は125倍、遅延時間は200分の1、消費電力は100分の1を目標としている。
空飛ぶ通信基地局
災害などで、携帯電話の基地局が使えなくなった場合などに備えるために、各社が開発を本格化しているのが、「空飛ぶ通信基地局」といわれるもの。High Altitude Platform Stationの頭文字を取って、HAPSとも呼ばれている。成層圏まで無人の航空機を飛ばし電波の送受信を行い、上空から広い通信エリアをつくることで、高度の高い場所や通信エリアの穴をなくすといったメリットもある。上空の基地局が動くことで、カバーできる通信エリアが変動するなどの課題もあるが、災害時だけでなく、通信インフラが整っていない途上国での活用も期待されており、実用化が待たれる。
Starlink(スターリンク)
アメリカの航空宇宙メーカー「Space Exploration Technologies(スペースX」が運営するインターネット接続サービス。ロシアによるウクライナ侵攻時に、ウクライナからの要望に応じ、インターネット接続サービスを提供したことでも知られている。ちなみに、スペースXは、テスラやPayPalの共同創業者で、近年ではX(旧Twitter)のオーナーとしても知られるイーロン・マスク氏が率いている会社の一つ。独自開発のロケットを用いて、宇宙空間に多数の衛星を打ち上げ、スターリンクと呼ばれる通信衛星網を構築。スペースX社は、そのスターリンクを利用して、インターネット接続ができるサービスを提供しており、電波が届きにくい離島や山間部でもインターネット利用が可能になる。2022年10月に、アジアでは初めてとなる日本でのサービスを開始した。すでに6,000基を超える衛星を打ち上げており、いまでは日本の大部分をカバーしている。
OSINT(Open Source Intelligence:オシント)
OSINTとは、一般に公開されている情報源からアクセスが可能なデータを収集、分析、決定する諜報(ちょうほう)活動の一つ。主に軍事分野で用いられていた手法で、テレビやラジオ、新聞、雑誌などに掲載されたさまざまな情報を丹念に収集し、分析していた。
いまでは、スマホとソーシャルメディアの普及、さらに分析ツールも登場し、誰もがその担い手になれる時代になった。投稿された動画や画像の撮影場所や、影の長さから撮影時間を特定することもできる。また、事件の容疑者や投稿者の身元、アイドルの自宅などを特定してソーシャルメディアで公開する、いわゆる「特定屋」もオシントの一種といえる。オシント自体には問題はなくても、得た分析結果の使い方を誤ると、大問題になる可能性もあり、常に目的や妥当性が問われる行為といえよう。
NTT法改正
NTT法とは「日本電信電話株式会社等に関する法律」のことで、NTTグループを統括する日本電信電話株式会社と、地域会社である東日本電信電話株式会社(NTT東日本)ならびに西日本電信電話株式会社(NTT西日本)3社の特殊会社としての法的地位や事業内容、国の関与や規制について定められている。旧電電公社が敷設・運用してきた電話回線網などのインフラを受け継ぐこともあり、民営化後も業務内容や経営などに関して一定の制限や国による関与が規定され、現在に至っている。
これまでも、古い規制行政を引きずることでグローバル化への対応の遅れを指摘する声はあり、NTTは法律のあり方についてさまざまな場で考えを表明していた一方で、NTT側と他の通信大手3社の見解は真っ向から食い違っていた。こうした中、2024年4月に改正NTT法が成立、研究成果の開示義務の撤廃や外国人役員の就任規制緩和などが盛り込まれた。
なお、NTTドコモやNTTコミュニケーションズ、NTTデータらの会社はNTT法の規制下にない。
プラチナバンド
プラチナバンドとは、700MHzから900MHzの周波数帯を指す言葉で、プレミアムバンドやゴールデンバンドともいわれる。この帯域は障害物を回り込んで届きやすいという特性から、携帯電話やテレビ放送の中継などに適しているとされている。少ない基地局で広いエリアをカバーできるというメリットもあり、すでに多くの事業者に割り当てられている。同周波数帯は利用価値が高いにもかかわらず空き容量が少ない希少性もあって、このように呼ばれている。
どんな仕事があるの︖
通信業界の主な仕事
セールスエンジニア
営業担当と協力してクライアントのニーズを正確にくみ取り、ソリューションの提案から、開発、納品に至るまでを管理する。
商品企画
自社の技術をどのようにサービスに生かすのかということを念頭に、新しい商品を企画し、実現させる。
ネットワークエンジニア
ネットワークシステム構築の全般(機器開発、システムの提案、設計、保守、運用・サーバー管理など)を担う。
カスタマーサービス
ユーザーからの製品やサービスに関する問い合わせに直接対応する。ユーザーにとってはその企業の顔ともなる。
※原稿作成期間は2024年12⽉28⽇〜2025年2⽉28⽇です。