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プラント・エンジニアリング・環境業界

業界の現状と展望

プラント・エンジニアリング・環境業界を理解するポイント

  • 製油や石油化学、発電など様々な生産設備が複合的に稼働するプラント
  • 大規模プラントでは国家のありように影響することも
  • 世界を席巻する中国製太陽光パネル
  • 脱炭素案件を中心に内外でコンスタントな需要
  • 脱炭素の切り札とされる水素やアンモニアに注力
社会・経済に大きな影響があるプラント・エンジニアリング

社会・経済に大きな影響があるプラント・エンジニアリング

プラントは、石油やガスなどのエネルギー、化学、医薬、金属など、社会や経済を支える重要な物資の生産設備。プラント・エンジニアリング業界では、国内外の企業から石油精製、化学、製鉄、発電などのプラントを対象として、企画、設計、調達、施工、管理を一括して請け負う。

巨大なプラントになれば、一国の経済を発展・加速させ、社会生活に大きな影響を与えることもある。また、海外におけるプラントの建設を通じて、世界のエネルギーの安定供給や産業の高度化などにも寄与している。

国内では日揮ホールディングス、千代田化工建設、東洋エンジニアリングの3社が御三家としてよく知られている。

ポイント

一般的な工場は、比較的少ない設備で原材料を加工して製品などを作る施設を言います。プラントも広い意味で工場ですが、少し違います。貯蔵設備や製造設備などの様々な設備や機器が配管を通じて複数組み合わさっているのが特徴で、石油製品や化学製品などの原料や、熱・エネルギーなどを生産する施設が中心です。規模や設備の数とは関係ありません。

また、環境業界には太陽光や風力、バイオマスを使った発電設備の製造開発を行う企業や、水処理施設脱炭素の巨大設備を手がける企業などがある。プラント・エンジニアリング業界の企業を中心に、大手の電機メーカーや化学メーカー、電力、造船を主力にする企業、総合商社など他業界の企業が単独で、時には協力しあって担うケースがあるが、専業で力を発揮する企業もある。中でも太陽光発電パネルや風力発電機の製造では、中国企業が世界市場を席巻している。

ポイント

日本では1973年の第一次オイルショックを契機に、1974年にサンシャイン計画と呼ばれる新エネルギーの研究開発に関する長期計画が策定されました。その後、太陽光パネルの技術開発が進み、2000年頃には世界シェアの50%を日本が占めました。その後、中国企業がシェアを拡大。現在は中国が世界市場の80%前後のシェアを有し、日本のシェアは1%未満です。

脱炭素化に向けた取り組みが加速。ライバル会社同士の協業も

高い競争力を持ち、世界でも優位性を認められる日本の環境技術は注目されており、各種環境関連設備は、産油・産ガス国やアジアなどで旺盛な受注がある。
老朽化した国内インフラの整備や、海外へのインフラ輸出、エネルギーや水処理設備などの需要も高まりつつあり、近年は半導体生産に不可欠な超純水プラント(業界関連用語参照)の重要性が増している。また、エネルギーの貯蔵やリニアモーターを使った物流システムの構築のほか、多用途での利用が期待できる大深度地下空間の開発や海洋開発など、将来にわたってプラント・エンジニアリングや環境業界の会社が活躍できるフィールドは広い。

さらに、世界的な脱炭素化を受けて多くの企業は産業構造の転換を求められている。カーボンリサイクルやカーボンニュートラル技術、太陽光洋上発電水素アンモニアといった環境に優しい新エネルギー領域への取り組みは、プラント・エンジニアリング、環境業界の成長力を大きく左右することになりそうだ。
2022年4月に、業界大手の日揮ホールディングスと東洋エンジニアリングは、燃料用アンモニア製造工場を共同で建設すると発表。ライバル会社同士が、大きな特定分野で全面協力するのは珍しいともいわれており、本気度がうかがえる。また、東京電力と中部電力が設立したJERAは、日本郵船と商船三井との間で燃料用アンモニアの輸送に向けた協議を開始。さらに、JERAと九州電力、四国電力、東北電力、中国電力、北陸電力、北海道電力、沖縄電力は、発電用燃料としての水素・アンモニアの導入に向けた協業を発表している。
燃料用アンモニアは、燃焼しても二酸化炭素を排出しないことから、脱炭素の切り札のひとつとしての期待も高い。ただし、製造過程で二酸化炭素を一切排出しないグリーン水素・アンモニアは製造コストが高く、いかにコストを下げられるかも課題だ。

ポイント

水素やアンモニアは、製造方法をもとに、グレー、ブルー、グリーンに分類されます。グレーは、化石燃料から製造される水素やアンモニアです。ブルーは、化石燃料から製造されるものの、製造過程で排出される二酸化炭素を分離回収し貯留・利用されます。グリーン水素は、太陽光発電などの再生可能エネルギーで水を電気分解して製造され、グリーンアンモニアは、グリーン水素を原料として窒素と合成して製造されます。

プラント・エンジニアリング、環境業界の課題

成長への期待が高い一方で、プラント・エンジニアリング業界は、海外のライバル会社との価格競争激化など課題も多く、多くの企業が(外国人も含めた)「労働力・人材の確保」を経営課題に挙げている。巨大プラント工事が、熟練労働者の人手不足や賃金上昇などの理由で予定通りに工事が進行せず、巨額な追加費用が発生し大きな損失を抱えるケースもあり、徹底した工期や費用の管理が求められている。人材の確保と同時に、AIドローンなどの最新のデジタル技術を積極的に活用して新たな価値を生み出す、デジタルトランスフォーメーションの推進も急務だ。
こうした中で、2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻。ロシアは欧州各国にパイプラインを通じて、大量の天然ガスを供給していたため、エネルギー危機が発生。天然ガスの調達に不透明感が漂い、世界各国はエネルギーに対する安全保障の重要性を強く認識することとなった。中長期的にも脱炭素への移行期の中で重要とされるLNG(液化天然ガス)の確保は急務であり、プラントの設計や建設などプラント開発は拡大し、エネルギー安全保障への投資が活性化しそうだ。

業界関連⽤語

工場夜景

神秘的な暗闇の中でわずかな光が映し出す、圧倒的な存在感とSFのような非現実的な世界。石油コンビナートや製鉄会社を中心とした巨大工場の工場夜景の人気が高まっている。夜間の工場を撮影したり見学したりするだけでなく、旅行会社が主催するクルーズツアーや各地を回るパッケージツアーに参加する人も増えている。なかでも、北海道室蘭市や神奈川県川崎市、三重県四日市市、福岡県北九州市、山口県周南市は五大工場夜景エリアとして人気が高い。

洋上LNG(Liquefied Natural Gas=液化天然ガス)プラント

海洋ガス田では、洋上で取り出したガスを陸上にあるLNG液化プラントまで送る海底パイプラインが必要なため、ガス田の規模やガス田までの距離、水深によっては敷設が困難だったり、採算が合わなかったりする場合もあった。
そうした中、ガス田の開発手段として有望視されているプラントのひとつが、液化プラントを洋上に設置するLNG FPSO (Floating Production, Storage and Offloading)。ここでは、洋上で取り出したガスをその場で液化、LNGを生産し、積み出すことが可能になる。

動脈産業と静脈産業

採取もしくは輸入した資源を加工して、新たな製品を製造し流通・販売する産業のことを、酸素や栄養を運ぶ動脈の働きに例えて「動脈産業」、一方で不要になり回収した製品をリサイクルする産業のことを、老廃物や二酸化炭素を回収する静脈の働きに例えて「静脈産業」と呼んでいる。
これまで「静脈産業」は、廃棄物処理の延長線上にとらえられることが多かったが、今では新たな成長分野の産業として、政府も活動をバックアップしている。

水ビジネス

世界的な人口増加に伴って水資源の需要は増加。また、下水道の不備や水質汚染も深刻化しており、水の需給バランスは悪化している。そのため、各国で水インフラの整備が進められており、上下水道にかかわる水ビジネスは世界中で注目されている。
経済産業省の「水ビジネス海外展開施策の10年の振り返りと今後の展開の⽅向性に関する調査」によれば、世界の水ビジネスの市場規模は、2030年には112.5兆円に到達するとしている。政府も水分野における海外展開に期待を寄せており、動向が注目される。
また、水ビジネスには、半導体の洗浄や医薬品の臨床試験などで使われる超純水(不純物を極限まで除去した水)を製造するプラントもある。超純水プラントの設計・施工ができるのは世界でも数社程度と言われており、国内外の半導体大手メーカーを顧客に持つ、栗田工業、オルガノ、野村マイクロ・サイエンスの3社はよく知られている。近年は国の支援もあり、国内でも半導体製造工場の建設が進んでおり、超純水プラントへの注目も高まっている。

CCSとCCUS

いずれも、二酸化炭素の排出量を削減するための取り組み。CCSは、Carbon dioxide Capture and Storageの略で、二酸化炭素回収・貯留技術と呼ばれている。発電所や化学工場などから排出された二酸化炭素を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する技術で、海外ではすでに商用規模のCCS施設が稼動している。CCUSは、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略で、分離・貯留した二酸化炭素を利用する取り組み。アメリカでは、古い油田に二酸化炭素を注入することで、残った原油を圧力で押し出しつつ、二酸化炭素を地中に貯留するというCCUSがビジネスとして実用化されている。

DACと人工光合成

DAC(Direct Air Capture)は、空気を装置に取り込み、化学反応や吸着剤などを用いて、大気中に含まれる二酸化炭素を直接回収する技術のこと。すでに実用化が進んでいる国もあり、日本でも実用化に向けた本格的な研究開発に取り組んでいる。人工光合成は、植物が行っている光合成を人工的に行う技術。太陽光エネルギーを使って水を水素と酸素に分解し、そこで生まれた水素と工場などから排出された二酸化炭素を触媒技術で反応させて、プラスチック原料となるオレフィンなどの化学物質を作ることを目指している。

どんな仕事があるの︖

プラント・エンジニアリング業界の主な仕事

営業
プラント建設案件を見つけてくるほか、顧客企業との折衝や契約などを行う。

資材調達・購買
プラント建設に必要な機器や素材を、世界中から調達する。

プロジェクトマネジメント
建設プロジェクトのスケジュールやコスト、人材、品質などを管理する。

設計
機器や配管など、各専門設備の詳細設計をする仕事と、プラント全体の設計を担当する仕事に分かれている。

※原稿作成期間は2024年12⽉28⽇〜2025年2⽉28⽇です。

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