業界研究・職種研究徹底ガイド 業界研究

医療機関・調剤薬局業界

業界の現状と展望

厳しい病院経営の実態

求められる経営転換。人材不足に加えて2024年問題も課題に

医療業界には、病院や診療所などの医療機関、製薬会社、医薬品卸、医療機器メーカーなどがある。また医療事務や入院患者の給食、患者搬送、リネン・サプライなどの医療関連サービスも医療業界の仕事といえる。
国内の病院は大きく、公立・公的病院民間病院に分かれる。公立・公的病院には、国が運営し研究・教育、高度医療が特徴の国立大学病院や、地方自治体が運営し地域での中心的医療機関となる都道府県立病院、市町村立病院などがある。他にも赤十字病院や済生会病院、労災病院も公立・公的病院に含まれる。民間病院には、私立医学部御三家と呼ばれる慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学など私立大学が運営する病院や、中央医科グループや徳洲会グループなど大手の病院グループ、個人経営のクリニックまで多種多様な医療施設がある。

厚生労働省の「令和4年度 医療費の動向」によれば、2022年度に病気やけがの治療のために医療機関に支払われた医療費は、前年度から4.0%増の46.0兆円となった。診療種類別では、入院18.1兆円(前年度比2.9%増)、入院外16.2兆円(同6.3%増)、歯科3.2兆円(同2.6%増)、調剤7.9兆円(同1.7%増)となっている。2020年度は、コロナ禍による影響により通院控えや手術の延期などで医療費自体が減少したが、2年連続で4%を超える伸び率となっている。
なお、コロナ禍の影響がほぼなかった2019年度との比較では5.5%増となっている。

高齢化に伴って医療へのニーズは高まっているが、病院経営は年々厳しくなっているのが実状だ。2024年度の診療報酬改定(業界関連用語参照)は、医師の技術料や人件費に当たる「本体部分」を0.88%引き上げることになったが、コロナ禍で一時的に病床確保料などによって収益を上げた病院もあり、それらが縮小される新型コロナウイルス感染症の5類移行により、各病院には経営の立て直しが求められている。

少子高齢化や、育児や介護によるキャリアの中断もあり、医療機関でも人材不足が深刻な問題となっている。加えて、2024年4月には、医師の働き方改革も適用され、長時間労働に陥りがちな医師の健康の確保が求められている。今回の改訂では、A水準、B水準、C水準があり、A水準となる「勤務医」の場合は、時間外労働時間の上限が年間960時間以下、月間100時間(休日労働を含む)未満となる。

救急医療などに携わる「地域医療確保暫定特例水準」の医師はB水準と、短期的に症例経験を積む必要がある「集中的技能向上水準」などの医師はC水準となる。いずれの水準でも、上限が年間1,860時間以下、月間100時間未満(休日労働を含む。ただし一定の健康確保措置を行った場合は例外がある)と定められた。将来的には、B水準を解消し、C水準についても縮減する方向性が示されている。長年医師の長時間労働で支えられてきた病院では、働き方改革への取り組みが急務だ。

国民医療費で大きな割合を占める薬代

国民医療費で大きな割合を占める薬代

調剤薬局・ドラッグストア業界では、病院で医師が処方する薬の販売を行っている。厚生労働省の「令和4年度 医療費の動向」によれば、2022年度の調剤医療費は7.9兆円で前年度比1.7%増となった。コロナ禍で一時的に調剤医療費が減少することもあったが、2021年度からは再び増加傾向にある。全体の医療費46.0兆円のうちに占める割合は17.1%。ジェネリック医薬品の導入を促進しているにもかかわらず、近年は高額な癌領域の薬の保険適用もあり、依然大きな比率を占めている。そのため、薬価は2021年度から毎年改定されることになり(これまでは2年に1回)、製薬会社や医療機関、薬局にとっては収益減少の圧力が高まるとの懸念から、慎重な対応を求める声もある。2024年度の診療報酬改定では、薬価については1.00%引き下げることになっている。

一方で、登録販売者がいれば、大型スーパー、コンビニエンスストアなどでも第二類、第三類の一般用医薬品の販売が可能になり(第一類を取り扱う店舗では薬剤師が必要)、薬局市場には総合商社、医薬品卸も本格的に参入。国では、自宅で治療から生活習慣病の予防・未病改善を行うセルフメディケーションを進めていること、一般用医薬品のネット販売の解禁もあり、市場は拡大。複数社がしのぎを削ってきた。ただし、毎年の薬価改定の影響もあり、規模の拡大と生き残りをかけた業界再編の機運も高まっている。

生き残りをかけて質の高いサービス提供を目指す

多くの調剤薬局は、患者ごとの薬歴管理システムを整備している。このシステムによって、例えば複数の病院にかかっている場合、それぞれで処方された薬の重複や、危険な飲み合わせを避けられるメリットがある。

地域密着型の独立系調剤薬局は、今後、こうした質の高いサービスを提供することで、生き残りを図っていくと考えられる。中には、調剤作業を機械化し待ち時間短縮を図る薬局もある。

業界関連⽤語

一般用医薬品

薬には、医師に処方してもらう「医療用医薬品」と、薬局やドラッグストアなどで買える「要指導医薬品」や「一般用医薬品」があり、後者はOTC(Over The Counter)医薬品と呼ばれている。要指導医薬品は、販売に際して薬剤師が対面での指導や書面による情報提供など、慎重に販売することが求められる薬で、インターネットや郵便での販売はできない。一般用医薬品は、副作用などのリスクの程度に応じて、第一類から第三類までの3種類があり、インターネットや郵便での販売も可能。ただし、第二類と第三類の薬は、薬剤師でなくても登録販売者であれば販売できるが、第一類の薬は薬剤師でなければ販売できない。

出生前診断

一般的に出生前診断は、妊娠中に胎児の診断を目的に実施する検査のことをいうが、新型出生前診断とは胎児の染色体遺伝子を調べる検査のこと。受診には一定の条件は必要だが、妊婦の血液中に含まれる胎児由来の遺伝子を解析することで、染色体異常や遺伝性の病気などを出産前に判断できる。

一方で、診断で陽性が認められた人の多くが人工妊娠中絶を選択しているといわれ、「命の選別」だと批判する声もある。

レセプトオンライン化

保険医療機関・調剤薬局と審査支払機関などをレセプトコンピューター処理システムで結び、診療報酬調剤報酬の請求データ(レセプトデータ)をオンライン化すること。紙印刷が不要、レセプトの点数算定等が機械的にでき、人的労力・経費の削減が可能となる。

また診療行為や薬の使用状況、病名と診療行為の関係等が全国規模で分析できる。診療報酬改定の根拠となる情報が集まりやすくなり、適切な診療報酬改定が行われることも期待される。

スイッチOTC

医師の処方箋がなければ使用できなかった医療用医薬品の中から、使用実績があり、副作用が少ないなどの要件を満たした医薬品を処方箋がなくても購入できるように、一般用医薬品へと変更したものをスイッチOTC薬という。

医師からの処方の場合も、処方箋なしで購入した場合も薬の内容・効果に違いはない。セルフメディケーション推進もあって、1.2万円を超えた部分の購入費用については所得税控除の対象となる。

AI医療

AIの活用先として期待されている医療分野。世界ではすでに実用化が進んでおり、日本でも、さまざまな企業や団体がAI医療の開発や活用に向けた取り組みを進めている。心電図や内視鏡画像などの検査データをAIで解析し、早期に病変を自動検出できたり、デジタル問診票のデータと位置情報で、最寄りの適切な病院を表示できたりするなどのシステムの構築が検討されている。AI医療の活用で、限られた医療資源の効率的な利用や、より客観的で正確な診断ができるなど、医療格差の減少も期待されている。

異種移植

人以外の動物の身体の一部を用いて移植手術や再生医療などを行うこと。豚やチンパンジーなどの臓器を人に移植する手術は海外で行われているが、拒絶反応が強く、長年にわたって拒絶反応を防ぐ研究や試みが重ねられていた。2022年1月に、アメリカのメリーランド大学医学部の研究チームが、遺伝子を操作した豚の心臓を心臓疾患の男性に移植することに世界で初めて成功したと発表した。遺伝子操作を行い、拒絶反応を起こりにくくした心臓が移植に使われたことが大きな特長だ。こうした研究は各国で進んでおり、安全性が確認され、将来的に治療法の一つとして承認されることが期待されている。

光免疫療法

新たながん治療法として注目されており、手術、化学療法、放射線療法、免疫療法に続く「第5の治療法」ともいわれている。光に反応しがん細胞だけに付着する特殊な薬を投与すると、薬ががん細胞に集まり、その部位に光を当てると薬が反応。薬と付着していたがん細胞だけを破壊する。光免疫療法で使われる薬は、がん細胞にだけ反応し、正常細胞にはほとんど反応しないため、副作用など身体への負担が少ないことが特長だ。ただ、まだ新しい治療法ということもあり、現状では対象となる部位は限られており、提供できる病院も限られている。技術開発や研究、治験が進むにつれて、他のがん治療にも有効性が確認される可能性もあり、期待は高い。

hinotori(ヒノトリ)

手術支援ロボット市場では、これまで、アメリカのインテュイティブ・サージカル社が開発した「ダヴィンチ」が世界市場を席巻、国内でも多数の病院が導入していた。しかし、諸特許が切れたのを機に、国内外のスタートアップ企業から大手医療機器メーカーまで、さまざまな企業による開発競争がスタート。2020年12月には、国産初となる手術支援ロボット、「hinotori™ サージカルロボットシステム」(以下、ヒノトリ)の発売が始まった。開発は、血液検査装置大手のシスメックスと、総合重機器大手の川崎重工業の合弁会社、メディカロイド。国内の医療機器メーカーは伝統的に、画像診断検体検査の分野で力を発揮していたが、手術支援ロボットの分野にも待望の新製品が登場。ヒノトリを使った手術もすでに何例も実施されている。遠隔による模擬手術も行われており、若手医師のロボット手術を熟練医師が支援することに成功している。また、遠隔操作が可能になれば、外科医療の地域格差の解決にも大きく前進できる。

診療報酬

診療報酬とは、保険医療機関が診察や手術などの医療行為を行う対価として、公的医療保険から支払われる報酬のことで、医療行為ごとに公定価格(点数)が細かく決められており、1点が10円として計算される。大きく、病院の医師や看護師などの人件費などに充てられる「本体」部分と、薬代にあたる「薬価」部分がある。診療報酬の改定は通常は2年に1回行われるが、「薬価」に関しては2021年4月から毎年改定されることとなった。

DPATとDMAT

DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)とは、自然災害や犯罪事件、航空機・列車事故などの集団災害が発生した場合に、被災者の心的外傷後ストレス障害(PTSD)をはじめとする精神疾患発症の予防などに当たる専門チームのこと。精神科医師や看護師、業務調整員を基本にチームが構成される。
一方、DMAT(Disaster Medical Assistance Team)は、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、医師、看護師、業務調整員を基本に構成される。なお、急性期とは、おおむね48時間以内とされている。

どんな仕事があるの︖

医療機関業界の主な仕事

MR
医療情報担当者。薬の販売先である病院や卸会社に薬の詳しい情報を伝える。また、販売先からの薬への要望や意見を取りまとめる。

医療コーディネーター
病院などで患者とその家族のサポートを行う。カルテの情報や治療内容を患者に分かりやすく解説、さまざまな相談に乗り、アドバイスを行う。

医療事務
医療機関での受付、カルテ管理、さらにカルテを基に保険点数を計算し、レセプト(診察報酬明細書)を作成する。

介護福祉士
国家資格の一つで、専門知識と技術をもって、身体上または精神上の障害で日常生活を営むうえで支障がある人に対し、入浴、排せつ、食事そのほかの介護を行う。

社会福祉士
国家資格の一つで、身体上、もしくは精神上に問題を抱えていたり、環境上の理由で日常生活を送ることが困難な人やその家族の相談に応じたりして、適切なサービスの利用を紹介、諸手続きを行い、福祉施設や病院などとの調整を行う。

訪問介護員
訪問介護員(ホームヘルパー)の資格を得るには、各地方自治体が指定した、専門学校、社会福祉協議会、民間団体などの事業者が実施している「介護職員初任者研修」を修了することが必要。

なお、2012年度まで実施されていた「訪問介護員養成研修(ホームヘルパー1級、2級)」および「介護職員基礎研修」修了者も「介護職員初任者研修課程」修了と同等に見なされるので、引き続き訪問介護員として働くことができる。

調剤薬局業界の主な仕事

薬剤師
医療機関や調剤薬局などで、処方箋に基づき薬の調合や服薬指導などを行う。大学の薬学部などで6年間の課程を終え、国家試験に合格する必要がある。

・調剤事務
調剤薬局での受付や会計業務、薬剤師の調剤補助を行う。薬歴管理や薬品の在庫管理も行う。

・登録販売者
2006年の薬事法改正(2009年6月施行)で新しく設置された資格。薬局やドラッグストアで一般医薬品の95%を占める第2類および第3類医薬品を販売する際に必要となる。高校卒業以上で実務経験1年以上などの要件を満たせば受験資格がある。

業界地図でもっと詳しく知る

医療機関・調剤薬局業界の企業情報

※原稿作成期間は2023年12⽉28⽇〜2024年2⽉29⽇です。

業界研究・職種研究 徹底ガイド

就活準備コンテンツ

ページTOPへ