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ソフトウエア・情報処理・ネット関連業界
業界の現状と展望
企業から依頼され、システムやソフトウエアを提供する
ソフトウエア・情報処理業界では、「効率的に仕事を進めたい」、「消費者とのコミュニケーションをスムーズにしたい」など、企業経営に関わる悩みや課題を解決するべく、システムやソフトウエアを開発・販売している。今や、企業での仕事はコンピューター無しでは考えられない。画面に沿って入力すれば書類ができたり、手続きができたりするのは、便利なシステムやソフトウエアがあるからこそ。ソフトウエアは、WindowsやiOSなど機器操作の基本となるOS(オペレーティングシステム)、OS上で動作する表計算や写真撮影、ゲームなど特定の用途や目的のために作られたアプリケーションソフトウエア、両者の中間に位置するミドルウエアの3種に大別される。
クライアントである企業から依頼され、効率的に仕事ができるよう、また関係者がすぐに同じ情報を得られるようシステムやソフトウエアを企画・設計したり、プログラミング言語を使って開発したりするのがこの業界の主な仕事だ。
業界の構造はピラミッド型といわれ、大規模な情報システムの企画から開発・運用までを一手に請け負う「システムインテグレーター(SIer)」を頂点とし、ソフトウエア分野は「ソフトウエア開発」企業へ、計算処理やデータ入力は「情報処理サービス」会社へ、というように、得意分野ごとに中小企業が業務を分担し、最終的に大規模な情報システムが出来上がる仕組みになっている。
多重下請け構造が問題だという指摘もあるが、規模の小さな企業の立場が必ずしも弱いというわけではなく、専門分野でのノウハウとスキルを評価されている企業も多い。
拡大傾向のソフトウエア市場規模。近年はSaaSを軸に市場が拡大
富士キメラ総研は「ソフトウェアビジネス新市場 2023年版」で、企業向けソフトウエア48品目の国内市場について調査結果を発表。SaaS/パッケージの2つの提供形態別に捉え、ソフトウエアビジネス市場の将来を展望しており、2023年度の国内ソフトウエア市場は、前年度比11.0%増の2兆1,938億円と見込んでいる。
CX(業界関連用語参照)/デジタルマーケティング分野に加えて、EPM(業界関連用語参照)や労務管理ソフト、電子契約ツールなどの業務システム分野での伸びが業績をけん引。インボイス制度や、電子帳簿保存法の施行によるペーパーレス化への対応、ソフトウエアを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、デジタル技術活用のための支援ソフトウエアなどの需要が高まっているとしている。
また、ソフトウエアの提供形態別では、SaaSが、同17.1%増の1兆4,128億円、パッケージが同1.3%増の7,809億円となっている。
従来は数年に1回程度発売されるパッケージ版の販売が中心のビジネスモデルだったが、近年はクラウドを利用したSaaSによる定額課金型ビジネスモデルに移行していることが金額からも見てとれる。同調査でも、「パッケージはカスタマイズニーズや情報セキュリティ面などから需要は根強いものの、初期導入および運用コストの削減、機能拡張性への期待、短期間での導入などの利点によりSaaSが増加している。今後もSaaSを軸に市場拡大が予想される」としている。
同調査では、2027年度の市場規模は、引き続きCX/デジタルマーケティングや業務システムの伸びがけん引し、2022年度比で45.2%増の2兆8,700億円にまで拡大すると予測。そのうちの注目市場として、システム開発の高速化や内製化ニーズにより拡大が継続すると見込む「ローコード開発ツール」(2022年度比84.6%増の1,798億円)、システム/ソフトウエアの刷新に伴う、ユーザーサポート対応のため需要が増加すると見込む「デジタルアダプション支援ツール(SaaS)」(同4.6倍の120億円)を挙げている。
重要性が増すICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)戦略
コロナ禍で、外出やイベントの自粛が呼びかけられ、社会環境が大きく変化。企業ではテレワークを積極的に導入、学校ではオンライン授業を、医療機関ではオンライン診療の実施と、これまでオンライン化が進んでいなかった領域にもオンライン化が浸透し、デジタル化が進行。また行政でも、デジタル庁を中心に、国や地方自治体が行政サービスをデジタル化するデジタル・ガバメント実行計画が進行している。ICT(情報通信技術)は、国民生活や経済活動の維持に必要不可欠な“Essential
Tech”として、これまで以上にその重要性が増している。
ICTには、利用者の接点となる機器・端末、電気通信事業者や放送事業者などが提供するネットワーク、クラウド・データセンター、動画・音楽配信などのコンテンツ・サービス、さらにセキュリティーやAIなどが含まれる。
総務省の「令和5年版情報通信白書」によれば、世界のICT市場(支出額)は、スマートフォンやクラウドサービスの普及などにより、2016年以降増加傾向で推移しており、2022年は前年比19.8%増の578兆9,000億円。2023年には614兆7,000億円にまで拡大すると予測していた(出典は、Statista「ガートナー」。 https://www.statista.com/statistics/203935/overall-it-spending-worldwide/)。
また、国内ICT市場(*1)規模は、2022年は前年比5.2%増の27兆2,000億円、2023年は28兆5,000億円、2024年は29兆9,000億円と予測している(出典はプレスリリース、2023年2月27日“Gartner、日本における2023年のエンタプライズIT支出の成長率を4.7%と予測”。
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20230227)。
*1:ICT市場には、データセンターシステム、ソフトウエア、デバイス、ITサービス、テレコム(通信)サービス、インターナルサービスが含まれる。
自動化・省力化によるコスト削減や、レガシーシステムの刷新、効率化のための投資増加に加え、コロナ禍による各種制限の緩和により、幅広い業種での投資拡大が期待されるとしている。
なお、2023年から2024年への産業別の成長率では、銀行/投資サービスと小売りが前年比6.6%増と最も大きく、電力/ガス/水道(同5.2%増)、保険(同4.9%増)と続いている。
また、AI市場についても言及があり、世界のAI市場規模(売上高)は、2022年には前年比78.4%増の18兆7,148億円まで成長すると見込まれており、その後も2030年まで緩やかな加速度的成長が予測されている(出典はStatista「Next Move Strategy Consulting」。 https://www.statista.com/statistics/1365145/artificial-intelligence-market-size/)。
日本のAIシステム市場規模(支出額)は、2022年は前年比35.5%増の3,883億6,700万円で、今後も成長を続け、2027年には1兆1,034億7,700万円まで拡大するとしている(出典は2023年4月リリースのIDC「2023年 国内AIシステム市場予測を発表」)。近年はAIの社会実装が進んでおり、いわゆる生成AI(Generative AI)が注目されていて、AI関連企業への投資も活発化している。
これまでもDXを通じて、産業の効率化や高付加価値化は進められており、サイバー空間とリアル空間の融合が進んでいた。今後はさらに人々の活動の場がリアル空間からサイバー空間へと移行していくと想定されている。メタバースと呼ばれる仮想空間の中でさまざまな活動ができる技術開発が進行しており、ゲームやSNSだけでなく、さまざまな形でビジネスに取り入れようとする動きも加速している。
そうした移行を妨げる規制や慣行を見直し、垣根を最大限取り除くことが、今後の重要な取り組みとなってくる。第5世代移動通信システム(5G)の普及に加えて、IoT、ビッグデータ、AIといったデジタル技術の活用が、これまで以上に重要なものとなっていく。
消費者にとって魅力的なコンテンツを提供する
インターネットやクラウド上の情報、他の機器と連携して機能、動作する電化製品が開発されるなど、新しいメディアとして定着したインターネット。
ネットワーク環境が発達したこともあり、さまざまな情報だけではなく、画質の高いオンラインゲーム、音楽や動画配信など、コンテンツの種類が増えている。
こうしたユーザーにとって便利で楽しいコンテンツやサービスを企画・制作し、提供するのがネット関連業界の主な仕事。他にも、課金や決済の代行、サーバーの維持管理なども行っている。
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によれば、インターネット附随サービス業(サーバーハウジング・ホスティング業務、セキュリティーサービス業務、課金・決済代行およびサイト運営業務、ASP業務、コンテンツ配信業務など)の2023年売上高は前年比5.4%増の2兆3,647億円、常用従業者数は同2.6%増の4万5,1 49人となっている。
インターネット広告の伸びが順調
スマートフォンの普及で広告市場の在り方も従来とは異なってきている。
テレビと同じく、インターネットコンテンツはほとんどが無料のため、ネット関連企業は、企業から依頼されるコンテンツ内広告やマーケティングなどで利益を出している。
例えば、ファッション通販サイトには自然におしゃれ好きなユーザーが集まるため、広告を出すアパレル企業にとっては、高い広告効果が期待できる。
大手広告代理店の電通がリリースした「2023年 日本の広告費」によれば、2023年の日本の総広告費は、前年比3.0%増の7兆3,167億円となり、前年に続き1947年に広告費の推定を開始して以降、過去最高の数字となった。
これまで広告業界をけん引してきた、新聞、雑誌、ラジオ、テレビ(地上波テレビ+衛星メディア関連)のマスコミ四媒体広告費は、前年比3.4%減の2兆3,161億円とマイナス成長となった一方で、インターネット広告費は、同7.8%増の3兆3,330億円と増加した。社会のデジタル化を背景に、総広告費の中に占めるインターネット広告の割合は年々高まっており、43.5%だった前年からさらに増え、2023年は45.5%を占めている。
業界関連⽤語
ビジネスチャット
テキストによってコミュニケーションをとるためのツールで、従来のメールでのやりとりと比較して手軽に使えることが特徴。顧客からの問い合わせといった社外の人たちとのやりとりだけでなく、社内での情報共有やコミュニケーションツールとしても需要が高まっている。さらに、勤怠管理や経費精算などのソフトと連携させることで業務の効率化を図る企業も増えている。
データサイエンティスト
最近はインターネットやスマートフォンの閲覧記録、各種カードの利用履歴など大量の情報がビッグデータとして収集・蓄積されている。こうしたビッグデータを分析・解析し、有効活用できるよう整理する専門家がデータサイエンティスト。ビッグデータの活用は社会や企業にとって重要な課題。IT技術はもちろん統計解析能力、問題解決能力、ビジネスセンスなど幅広い知識や能力が求められ、世界的に人材不足。
SaaS(サース、サーズ)・PaaS(パース)・IaaS(アイアース、イアース)・XaaS(ザース)
ユーザーがソフトウエアをパッケージ製品として購入することなく、ネットワーク経由で提供され、利用料を支払うサービスがSaaS。
PaaSは、は、アプリケーションを稼動するためのOSやハードウエアを含めたプラットフォーム一式をインターネット上で使えるようにして提供するサービス。IaaSは、仮想サーバーやネットワーク用機器などの情報サービスインフラをインターネット上で提供するサービスのこと。
また、XaaSは、「aaS(as a Service)」の概念を拡大したもので、「X」にはさまざまなアルファベットが該当する。SaaSやPaaS、IaaSはもちろん、MaaS(Mobility as a Serviceの略で、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス)やIDaaS(クラウドでIDを管理するサービス)なども含まれる。
SaaS:Software as a Service
PaaS:Platform as a Service
IaaS:Infrastructure as a Service
XaaS:X as a Service
MaaS:Mobility as a Service
IDaaS:Identity as a Service
O2O(オーツーオー)
Online to Offlineの略で「On2Off(オンツーオフ)」と呼ばれることもある。インターネット上の人を、実店舗などに誘導するといった、インターネット上の情報から実際の購買に影響を与えるようなマーケティング施策。販売店や飲食店がインターネット上でクーポンを発行し来店を促すというケースで、口コミ情報や位置情報を集めたサイトにも、こうした手法を取るケースが多い。
情報収集に敏感なスマートフォンユーザーほど、買い物や食事前にクーポン情報に触れるなど、行動に結びつきやすいとされる。
RPA
Robotic Process Robotic Process Automationの略語で、繰り返し行うキーボード入力やクリックなど、定型的なホワイトカラーのデスクワークを、パソコン内のソフトウエア型のロボットが代行・自動化すること。付加価値の低い事務作業や反復作業をロボットに代行させることで、労働生産性の向上を目指している。
スーパーアプリ
1つのアプリの中に多種多様な機能を持つアプリを統合して、生活に必要なあらゆるサービスを提供できるよう開発されたアプリ。個別に複数のアプリを使わなくても、スーパーアプリがあれば事足りるため、ユーザーにとっては利便性が高まる。スーパーアプリは欧米ではなく、アジアや中南米、アフリカなどで普及しており、中でも中国のテンセント社のWeChatとアリババグループのAlipayは有名だ。他にも、インドネシアのGojek、インドのPaytm、シンガポールのGrab、コロンビアのRappiなどがある。
CRM
Customer Relationship Managementの略で、顧客との関係を維持・管理するためのシステム。連絡先や購入履歴、メールなどのやりとり、商談情報など、従業員と顧客との関係を一元的に把握することができる。営業やマーケティング、経営戦略に活用することができ、近年はクラウド化が進んでいる。
IT導入補助金
業務の効率化やDXの推進、セキュリティー対策のためのITツールなどの導入費用を支援する制度。インボイス制度導入時や、安価のITツールの導入時でも利用が可能で、補助額は最大で450万/者、補助率は1/2~4/5。
ChatGPT
ChatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer)は、アメリカのスタートアップOpenAIが開発した、Chatbot(チャットボット:人工知能を活用した自動会話プログラム)。2022年11月にリリースされるや、幅広い質問にまるで人間と対話しているかのようなクオリティーの高い回答をしてくれることから、短期間で億を超えるユーザーを獲得した。ChatGPTは、音楽、小説、脚本、詩、歌詞、さらには設問に人間の平均同等、またはそれ以上の解答を生成することができるなど、高い能力と幅広い機能を持ち合わせており、高品質の動画も生成できる。
CX(カスタマーエクスペリエンス)
日本語では顧客体験価値や顧客経験価値といわれる、経営戦略やマーケティングにおけるコンセプトの1つ。商品やサービスの価格・量・質・機能といった合理的価値だけでなく、商品の認知から、比較・検討、購入、購入後のフォローアップなどそれぞれの過程における体験価値(感情的な価値)を重視しているのが特徴。合理的価値に体験価値を上乗せすることで、他社商品・サービスとの差別化を図ることを目的としている。
EPM
Enterprise Performance Managementの略で、日本語では企業業績管理と呼ばれる。具体的には、企業内のさまざまな経営情報や業務プロセスを可視化し、これまで部門ごとで管理していた業務やデータについて統一した評価基準を設定。全体を同じ基準で評価し、最適化を図るための、問題発見および解決を支援する。組織全体のデータを集約、有効活用することで、売り上げの把握や予算作成業務を効率化し、無駄な作業や工程を排除。企業の業績を向上させることを目的にしている。
モダナイゼーションと2025年の崖 (「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
モダナイゼーションとは、稼働し始めてから数十年が経過したような過去の技術や仕組みで構築された古いシステム(=レガシーシステム)を、過去の資産を生かしながら最新技術に適合した新しいシステムに置き換えること。モダナイゼーションを行うことで、コスト削減、俊敏性の向上、拡張性の実現を可能にし、既存ビジネスの継続と新規ビジネスの創出を目指している。
一方、「2025年の崖」は、経済産業省が2018年にまとめたレポートに登場した言葉で、企業に対してDXの必要性を訴えるものとして注目を浴びた。このレポートでは、日本企業が市場で勝ち抜くにはDXの推進が必要不可欠で、DXを推進しなければ、既存のシステムはレガシーシステムとなり、業務効率・競争力が低下し、2025年から年間で最大約12兆円もの経済損失が発生すると予測した。これが「2025年の崖」と呼ばれている。原因として、既存のITシステムのカスタマイズや最適化を繰り返すことで、システムの複雑化・肥大化を招くことや、既存のシステムの多くで使われている古いプログラミング言語を扱えるエンジニアが2025年までに定年を迎えることなどが指摘されている。
どんな仕事があるの︖
ソフトウエア・情報処理業界の主な仕事
システムエンジニア
営業、IT、人事、会計など、業務に使うコンピューターシステムやソフトウエアを企画し、コンピューター言語による開発や導入を提案・管理する。文理問わず採用を行っていることが多い。経験を経て、プロジェクトマネジャーになるケースが多い。
プログラマー
プログラミング言語を使いこなして、実際にシステムを開発する。
ネットワークエンジニア
コンピューターをつなぎ、情報をスムーズにやりとりできるネットワークをつくり上げる。
営業
クライアントの要望や課題を聞き出し、その要望をかなえる情報システムを提案・販売する。セールスエンジニアやシステムエンジニアとチームで仕事をすることが多い。
セールスエンジニア
クライアントの要望や課題を聞き出し、その要望をかなえるソフトウエアや周辺機器の詳しい情報を提供する。営業やシステムエンジニアとチームで仕事をすることが多い。
データサイエンティスト
ビッグデータの中からクライアントのニーズに合ったデータの取得方法や利用方法などをアドバイスしたり、データの解析などを行ったりする。ビッグデータの活用に注目が集まるとともに、データサイエンティストにも注目が集まっている。
ネット関連技術業界の主な仕事
プランナー
新しいコンテンツを企画したり、「もっと便利に」、「もっと使いやすく」など改善したりするためのプランを立てる。
法人営業
広告主である企業に効果的な広告プランを提案したり、法人向けのインターネットサービスがある場合は、その効果的な使い方やサービスを案内・販売したりする。
マーケティング
ユーザーをさらに増やすための調査や、さまざまなメディアを使ったサイトの知名度向上を図る。
WEBエンジニア
ユーザーがサイトを快適に操作できるように、WEB技術を使ってネットワークやシステム、アプリケーションを整える。
WEBデザイナー
サイトや広告を、WEBのプログラミング言語や技術を使ってデザインする。
ソフトウエア・情報処理・ネット関連業界の企業情報
※原稿作成期間は2023年12⽉28⽇〜2024年2⽉29⽇です。