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陸運・海運・物流業界

業界の現状と展望

物流の大動脈を担う陸運・海運

物流の大動脈を担う陸運・海運

陸運・海運業界は、「陸」や「海」や「空」をルートとして、「鉄道」「自動車(トラック)」「船」「飛行機」などで「人」あるいは「物」を運ぶ。物流業界は、さまざまな「物」を、倉庫や施設などに「保管」し「仕分」け、必要なところへ「輸送」している。

陸運では、対象の顧客や地域によって、国内法人向け、海外法人向け、国内個人向けなどに分かれる。現実には、輸送の多くはトラック運送事業者が担っており、一般貨物自動車運送事業、特定貨物自動車運送事業、貨物軽自動車運送事業といった分類がある。 海運では、船舶を使って旅客や貨物を運んでいる。コンテナ船を使って定期的なスケジュール・寄港地で運搬する「定期船」や、ばら積み船・タンカー・専用船などを使い、貨物に合わせたスケジュール・寄港地で運搬する「不定期船」がある。また、貨物ではなく、人を運ぶのが「旅客船」。「豪華客船」ともなれば、さまざまな料理が楽しめるレストランはもちろん、映画館やカジノ、プールなど船内で快適な時間を長時間過ごせるように設計されており、旅客を国内外の観光地や寄港地に運んでいる。

主に貨物の流れを効率的に管理する(ロジスティクス)のが、物流・倉庫業界の中心業務だ。EC(電子商取引)市場の活発化で、物流・倉庫業界の業務は拡大傾向にある。

市場規模は2023年度にやや減少するも2024年度は増加が見込まれる

矢野経済研究所は、物流17業種(海運事業、宅配便事業、特別積合せ貨物運送事業、一般港湾運送事業、軽貨物輸送事業、鉄道貨物輸送事業、航空貨物輸送事業、普通倉庫事業など)の国内有力物流事業者などを調査。それによれば、2020年度までは、前年度比でマイナス成長となっていたが、中国での生産活動や米国での消費の回復もあり、荷動きは活発化。2021年度、2022年度は前年度を上回るとしている。ただし、物流量が大幅に増加したわけではなく、海上輸送と航空輸送の需給ひっ迫で運賃が高騰したことが大きな要因だと指摘している。2023年度には、かつてないほど高騰した海上輸送運賃が正常化し、今後はいかに国内外の輸送需要を取り込むかがポイントだとしている。ただし、輸送運賃の高騰による部分が大きいことを留意しておく必要がある。
なお、2024年度の物流17業種の市場規模は、前年度比2.1%増の24兆4,700億円と予想している。

国内物流に欠かせないトラック輸送

全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業―現状と課題―2023」によれば、物流事業における国内貨物総輸送量は、トンベースで年間約43億トン。うちトラック運送事業は91.4%(2021年度)を、トン数に輸送距離を乗じたトンキロベースでも55.4%(同)とその多くを占めている。
また、国土交通省の「令和4年度宅配便・メール便取扱実績について」によれば、2022年度の宅配便取扱個数は前年度比1.1%増の50億588万個。インターネット通販による需要拡大が続いており、年々、取扱個数が増加している。

トラック運送業界では「中小企業が約9割」を占めており、近年は減少傾向にあるものの規制緩和によって参入する新規事業者との競争は激しい。高額な高速道路使用料、環境問題への取り組み、社会問題ともいえる若年労働者不足、EC(電子商取引)の拡大による取扱量の増加、依然高い再配達率の低減など解決すべき課題は多い。なお、国土交通省の調査によれば、2023年10月の宅配便の再配達率は前年同月比で0.7ポイント減の11.1%。減少傾向が見えるものの依然高い数値だ。2023年6月に関係閣僚会議で取りまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」では、2024年度に再配達率6%を目指すとしている。

さまざまな対応が求められるトラック輸送。トラックGメンの創設も

テレワークや外出自粛でEC市場が急拡大し、小口荷物の取り扱いが増加。宅配ロッカーの普及が進み、「置き配」という配送方法も生まれた。EC事業者は、配送料金を抑えると同時に安定的な配送業者確保のために、大手の運送会社ではなく、中小の運送会社や個人ドライバーへの委託も増やしている。これまでも、地域限定の配送業者への委託はあったが、取扱量が増えるにつれてこうした動きが活発になった。
また、業務効率向上のため、EC事業者と運送会社が提携して物流面の効率化を図る一方で、AIを活用した最適な配送ルートの自動作成や、スマートメーターのデータを活用した不在宅の確認など、デジタル化や最新の技術を駆使した対応も活発化している。さらに、二酸化炭素排出削減に向けた、EVトラックの導入も進めている。

かつては高い給料が話題になったこともあるが、トラック輸送業界は競争激化で待遇や労働環境も悪化。「物流の2024年問題」で、長時間労働が規制され、運べる荷物量が減少。企業収益への影響だけでなく、物流面での混乱発生や、残業時間が減ることでドライバーの収入が減少する懸念もある。各社は配送料金の値上げや待遇改善などにも取り組んでいる。
一方で、多重下請け、買いたたき、長い荷待ち時間、契約外の追加サービスなど元請事業者や発荷主、着荷主側の問題を指摘する声もある。国土交通省では、2023年7月に「トラックGメン」を創設。適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者の監視を強化する体制を整備している。

コロナ禍で好業績を上げる海運業界

国内の海運業界は、再編を繰り返した結果、日本郵船、商船三井、川崎汽船のいわゆる大手3社体制が確立されている。海外の海運会社は、得意とする特定の船種に集中する場合が多いが、日本の3社は、コンテナ、旅客、エネルギー、ばら積みなど船種を幅広く手がけるという特徴がある。また、景気の動向や国際情勢によって大きく収益が変化するのも海運業界の特徴といえよう。

コロナ禍で一時的に物流がストップし、海上輸送でも大きな混乱が発生したが、徐々に生産が再開。経済活動の回復に合わせるように、荷動きが活発になった。世界中で起こった巣ごもり需要もあり、荷動きは急激に増加し、コンテナ船を中心に運賃が急騰。2020年3月には20ftあたり1,420ドルだった横浜からロサンゼルスまでのコンテナ船の運賃が、2022年3月には11,442ドルにまで上昇するなど、2022年度に海運3社は空前の最終利益をたたき出した。
しかし、需給関係が落ち着くにつれて運賃も下落、以前の水準に戻っている。ただし、国際情勢の変化(近年ではロシアによるウクライナ侵攻や紅海での運航停止など)によって運賃は大きく変動するので、注視が必要だ。

また、海運業界にとっても脱炭素対策は待ったなしの状況だ。当面は、燃料を重油から液化天然ガス(LNG)に変更することを軸に、運航時の二酸化炭素排出を削減していくことで対応しつつ、二酸化炭素を排出しないアンモニア燃料や、水素を燃料とした船の導入など、大手3社を中心に多額の環境投資を表明している。

物流の2024年問題

2019年4月1日の施行された「働き方改革関連法」では、同一労働同一賃金や年次有給休暇の確実な取得、時間外労働の上限規制などが盛り込まれた。その際、時間外労働の上限規制実施に関しては、大企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日からと定められているが、自動車運転や建設事業、医師などは5年間の猶予があった。つまり、2024年3月31日までは時間外労働時間の上限規制はないが、翌日の4月1日からは36協定の締結を条件とし、上限が年960時間となる。こうした措置に伴って発生が予想される諸問題が、「物流の2024年問題」。国の検討会では、なんら対応を行わなかった場合は営業用トラックの輸送能力が2024年には14.2%、2030年には34.1%不足する可能性があると試算している。慢性的な人材不足の中で、物流業者は安定的な輸送力の確保やサービスの維持向上を図らなければならず、いかに人材を確保するのか、待遇をどうするのかなど、各社は対応に追われている。
こうした環境下で、日本郵便とヤマト運輸は協業を開始。両社の経営資源を有効活用することで、「物流の2024年問題」や環境問題などの物流業界が抱える社会問題の解決を目指している。その第一弾として、2023年10月から、ヤマト運輸が顧客から預かった「クロネコゆうパケット」を日本郵便に差し出し、日本郵便の配送網で届け先へ投函することとなった。

求められる物流の効率化と環境への配慮

物流倉庫には、複数の企業が利用するマルチテナント型(業界関連用語参照)と、一企業のために専用設計されたBTS(Build to Suit)型の2種類がある。倉庫といえば「保管」というイメージが強いが、近年、それがどんどん薄れてきており、現在、企業は在庫の削減や、ジャストタイム生産システム(JIT)によるリードタイムの軽減など、商品や部品を倉庫に保管する期間をいかに減らすかに注力している。インターネットを通じた通信販売の需要拡大により、物流の世界はさらに多品種小ロット化している。一方で労働力不足は深刻だ。同時に、環境への配慮も求められている。

具体的な対策として進められているのは、環境への負荷が少なく、大量の商品を輸送できる鉄道や船舶を活用する「モーダルシフト」や、ライバル会社を含めた他社の商品と混載する「共同配送」などがある。
荷主や物流業者を問わず連携することで、物流全体の省力化や効率化をさらに進めていく枠組みが必要だ。最近では倉庫を使わずに消費者にダイレクトに届くケースも増えている。その意味で、倉庫業はロジスティクスのさまざまな面で荷主のパートナーとなって、物流そのもののコストダウンや、より効率的なシステムを構築していく必要がある。

拡大するEC市場を支える配送拠点として、物流業界の役割はますます高まっており、倉庫や物流施設の新規開発や拡張が進んでいる。施設を大型化するだけでなく、AIを積極的に活用することで、システムとロボットを融合。施設内の省力化や自動化も行い、在庫管理や物流の効率化、高度化を図っている。

業界関連⽤語

スマートロジスティクス

AIやロボット、遠距離操作などIT機器を駆使した物流システムで、物流作業全般の効率化を図ることができる。倉庫内で商品を積んで移動するフォークリフトの自動運転化や、AI導入による商品サイズに合わせた棚入れなどはすでに実現。将来的には、配送トラックの無人化やドローンによる配送なども想定されており、物流の質の向上はもちろん、労働人口減少対策としての期待もある。

3PL(スリーピーエル)

サードパーティーロジスティクスの略で、企業の流通機能全般を一括して請け負うアウトソーシングサービスのこと。
荷主の立場に立った戦略的、効率的な物流を提案し、荷主の配送・在庫管理などの業務を、プランニングやシステム構築などを含め、長期間一括して請け負う。
また、荷主と運送事業者との間に立ち、貨物の運送取扱、運送関係書類の作成、通関業務などを行う事業者をフォワーダー、輸送手段を持って輸送する事業者をキャリアという。

バルチック海運指数(BDI=Baltic Dry Index)

ロンドンにあるバルチック海運取引所が発表する、外航不定期船の運賃指数。1985年を1000とし、世界各地の海運会社やブローカーなどから主要な航路の運賃を聞き取って算出している。
この指数は、世界経済や穀物・鉄鉱石などの商品価格の先行指標といわれている。海運市場だけでなく海運会社の株価との連動性が高いこともあり、株式市場でも注目されている。

ドローン宅配便

通販大手のアマゾン・ドット・コムがドローンを使った商品配送計画を公表してから一気に話題になったドローン宅配便。ドローンが操縦不能になったり、荷物を落下させたりという安全面での課題はあるが、ドローンビジネスは「空の産業革命」をもたらすともいわれている。
物流量が急増している今日、ドローン宅配便実現への期待が高まっている。ドローン宅配便が実現すれば、渋滞と関係なく荷物を運べるうえ、労働力不足の解決策の1つとなりえる。さらに、人を乗せた状態で動くドローンタクシーのテスト飛行も行われている。 各社が開発にしのぎを削っており、2025年に開催が予定されている日本国際博覧会(大阪・関西万博)での運航実施を目指している。

マルチテナント型倉庫

一企業のためのカスタムメイドされたBTS型倉庫に対して、文字通り多数の荷主企業が倉庫の一部を間借りするタイプの倉庫がマルチテナント型倉庫。大資本による超大型施設が中心で、最先端技術を採用し、商品の入庫や出庫、保管などの一連の作業を自動化した自動倉庫などを擁する施設はこのタイプが多い。EC市場の興隆もあり、人気が高まっている。

荷物のマッチングサービス

運送におけるシェアリングエコノミーサービスで、荷主と運送業者をマッチングさせるサービスを提供している。これまでも同様のサービスを提供する業者はあったが、近年登場しているサービスは、アプリ上で簡単にマッチングできるように工夫されており、荷主と運送業者にとってより一層メリットがあるよう工夫されている。荷主は、エリアや保有する車両の種類、台数、評価などから運送業者を選択。一方で、運送業者は自らの特徴や品質、サービスをアピールし、これまで取引のなかった荷主とつながることが期待できる。また、荷物を降ろした帰路で、別の荷主とマッチングすることも可能になるため、効率化が図れるというメリットもある。

どんな仕事があるの︖

陸運・海運・物流業界の主な仕事

物流管理
倉庫・物流センター内における商品の入出庫管理を行う。保管管理、流通加工、在庫コントロールなど。

情報管理
受発注の管理、配送・集荷の指示、在庫・伝票管理など、物流過程における情報管理を行う。

物流コンサルタント
物流現場の改善や在庫削減、物流センターの開発などを行い、ロジスティクスシステムを設計する。

システム開発
流通の合理化のため、さまざまなクライアント向けに効率的な物流システムを開発する。

陸運・海運・物流業界の企業情報

※原稿作成期間は2023年12⽉28⽇〜2024年2⽉29⽇です。

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