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電子・電気・OA機器業界
業界の現状と展望
コロナ禍の特需は一服。今後は、高価格でも売れる高機能製品がポイントか
電子・電気機器業界では、生活に必要な家電や電気用品をさらに便利、快適にするための研究・開発が日々重ねられ、次世代向けの商品が、消費者や企業向けに企画、販売されている。
一般社団法人電子情報技術産業協会の「2023年民生用電子機器国内出荷統計」によれば、2023年の民生用電子機器(映像機器・オーディオ関連機器・カーAVC機器)の国内出荷実績金額は1兆1,232億円で、前年比10.1%減となった。年初の3カ月は比較的堅調であったが、4月以降は6月を除き前年同月比で90%を割り込んだ。オーディオ関連機器は前年比2.8%減、カーAVC機器は同8.4%減にとどまったが、映像機器が同12.7%減となったことが影響した。なお、カーAVC機器とは、自動車に搭載するETCやドライブレコーダーなどで、底堅い需要があり、2022年に続いて映像機器の出荷金額を上回っている。
また、財務省貿易統計によれば、2023年の電気機器の輸出総額は前年比3.4%減の16兆7,515億円となった。中でも音響・映像機器は同8.1%減の7,452億円と厳しい結果となった。
一方、一般社団法人日本電機工業会によれば、2023年の民生用電気機器(冷蔵庫やエアコン、洗濯機などのいわゆる白物家電)の国内出荷金額は2兆5,433億円と2年ぶりのマイナス(前年比1.1%減)となった。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことで、旅行や飲食などに消費がシフトしたことや、物価上昇による節約志向の高まりが耐久消費財購入に影響したと指摘されている。
ただし、ドラム式洗濯乾燥機のように3年連続で過去最高の出荷数を記録する人気商品もあった。
ポストリチウムイオン電池で盛り返したい日本勢
これまでは、リチウムイオン電池は、スマートフォンやパソコン、家電製品などが主な用途だったが、今ではHV(ハイブリッド自動車)やEV(電気自動車)といった車載用が主流になりつつある。リチウムイオン電池は、リチウム、コバルト、ニッケル等のレアメタルを使用するため原材料費が高く、EVでは製造コストの3分の1を電池が占めるといわれている。現状では、中国と韓国がリチウム電池の生産をリードしており、そのため、電子・電気機器業界ではレアメタルの安定的な確保と同時に、リチウム電池に続く、ポストリチウムイオン電池の研究開発に余念がない。
自動車業界が実用化を加速している全固体電池、正極に硫黄を使用するリチウム硫黄電池、フッ化物電池、(金属)空気電池、貴重で高価なレアメタルを使用しないナトリウムイオン電池など次世代電池の候補は多い。現状ではリチウムイオン電池が主流だが、価格面の問題だけでなく、安全性(自然発火や、寒さや暑さに弱いなど)にも課題があり、巨大な市場をめぐって大手からベンチャーまで世界中の企業がしのぎを削っている。

3~4年のシリコンサイクルの谷間から脱出。半導体需要の好転が本格化
世界半導体市場統計(WSTS=World Semiconductor Trade Statistics)によれば、世界の半導体市場は前年比9.4%減の5,201億米ドルと推定。主にパワー半導体が推進するディスクリート半導体は、同5.8%増を見込んでいるが、アナログ、マイクロ、ロジック、メモリーを含むすべての集積回路カテゴリでは、同11.0% 減としており、中でもメモリー部門は同31.0%減と落ち込みが激しい。自動車生産の回復や産業用機器は堅調だったものの、在宅勤務による特需が一段落したことなどの影響もある。
2024年については、前年比13.1%の5,884億米ドルに達すると予測。すべてのカテゴリで増加を見込んでおり、集積回路カテゴリも同15.5%増。在庫調整が続いていたメモリー部門は2023年に底打ちし回復傾向にあり、2024年には同44.8%増の1,298億米ドルにまで急上昇すると見込んでいる。
生成AI(人口知能)の急速な浸透、5GやIoT(モノのインターネット)化の進展、データセンターの能力拡大、自動車のEV化や高性能化、再生可能エネルギー投資など半導体需要は底堅いとみている。日本市場においても2023年の前年比2.0%減から4.4%増へ転換すると予測している。
3~4年で好況と不況が入れ替わるいわゆるシリコン(半導体)サイクルは、2023年に底打ちし回復軌道に入ったという見方は多い。
将来に向けて旺盛な需要が期待できるパワー半導体
半導体にはさまざまな分類の製品があるが、パワー半導体とは、一般的に高い電圧や大きな電流の制御や変換ができる半導体のことを言う。すでに、さまざまな機器に使用されているが、環境意識への高まりもあり、電気の無駄を極力少なくできるパワー半導体の需要は年々高まっている。さらに、パワー半導体は、直流を交流に、交流を直流に変換したり、電圧や周波数を制御したりできるため、EVを動かすための電力や電圧を制御する中核部品でもある。EV化の進展はさらにパワー半導体の需要を喚起することになる。
なお、パワー半導体を含めた多くの半導体の素材にはシリコン(Si)が採用されている。しかし、高性能なパワー半導体では、素材にシリコンカーバイド(SiC)の採用が進んでおり、半導体素材の世界でも開発競争が激化している。
矢野経済研究所では、2023年のパワー半導体の世界市場は258.1億米ドルと予測、2030年には369.8億米ドルにまで規模が拡大すると見通している。
安全保障の観点からも将来を見越した巨大な投資が進む
米中対立やロシアのウクライナ侵攻を経験した現在、半導体は重要な戦略物資の一つとみなされている。世界各国は猛烈な勢いで支援対策を進めており、アメリカでは数十兆円単位の支援金が投入されるとみられている。
日本国内においても、経済産業省を中心にファウンドリー(半導体製造を専門に行う会社)最大手のTSMCを熊本に誘致。日本政府も、1兆円超の設備投資額に対して、最大4,760億円の補助金を支給。2024年中の量産を予定しており、すでに第2工場の計画も進んでいる。
また、2022年8月に、トヨタ自動車やNTT、ソニーグループなど国内企業8社が出資し、新しい半導体製造会社「Rapidus(ラピダス:ラテン語で「速い」という意味)」を設立。政府も多額の補助金支給を決定しており、官民で最先端の次世代半導体の国産化を目指している。かつては世界を席巻した日本企業だが、徐々に競争力を失い、製造技術も世界から大きく遅れているといわれている。ラピダスでは、これまで十分に連携できなかった海外メーカーとの連携も強化し、回路の線幅が2ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)の半導体の製造ライン確立に向けて取り組んでいる。半導体は回路の線幅が狭いほど処理能力が高く、2027年をめどに2ナノメートル単位の半導体の量産化を目指している。

厳しい環境ながら既存事業の改善で収益を向上
OAとは、Office Automation(オフィスオートメーション)の略。OA機器業界では、オフィスでの業務を効率化・自動化する、コピー機やFAX、プリンターといった機器の研究開発、販売を行っている。
オフィス作業の効率化・自動化はあらゆる企業にとって欠かせない。日本メーカーのOA機器は高性能で高品質との評価が高く、これまで世界中のオフィスに導入されてきた。ただし、IoTの進展や導入、ペーパーレス化の動きもあり、OA機器をめぐる状況は厳しい。
また、コロナ禍では、オフィス向けの事務機器需要を押し下げたが、自宅で使えるコンパクトなプリンターやスキャナー、コピー機への需要が急拡大するというビジネス環境の変化もあった。
一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会の事務機械出荷実績によれば、2023年1〜6月の事務機器の国内外を合わせた出荷金額は、前年同期比9.7%増の8,829億円となった。国内向けは同3.9%減の1,782億円となったが、海外向けは同13.8%増の7,047億円だった。
金額比率の高い、複写機・複合機は国内外合わせて前年同期比で10.8%増と好調、台数ベースでも同7.5%増となった。複数の機能を持つMFPタイプのページプリンターは同21.8%増と好調だったが、プリント機能のみのSFPタイプのページプリンターは、同0.9%減となった。ただし、海外向けのカラーページプリンター(MFP)は同78.7%増、カラーページプリンター(SFP)は同46.7%増と絶好調だった。国内外向けのビジネスインクジェットプリンターは同7.1%増、大判インクジェットプリンターは同24.0%増、データプロジェクターは同0.1%増、電卓&電子辞書は同2.0%増などと、多くの分野で前年を上回っている。円安の影響もあり、全体を通じて海外向けの出荷が好調だったことがうかがえる。
各社はすでに、従来の箱(ハードウエア)を売って、トナーやインクなどの消耗品で収益を上げるというビジネスモデルから、事業規模や内容に合わせた機器の提案、導入、メンテナンス、サポートまでをトータルに行うソリューション販売へのシフトを目指している。ペーパーレス化の加速もあり、データの記録や保管といったIT支援サービスも求められており、さまざまな機器やソフトウエアとの連携を強化して、効率的で最適なビジネス環境を構築するソリューション需要は増大すると見られている。
業界関連⽤語
MEMS(メムス)
Micro Electro Mechanical Systemsの略で、センサーやアクチュエーター(モーターやシリンダーなど、電気信号やエネルギーを物理的運動に変換するもの)、電子回路などを、シリコンウエハなどの上に作り込んだ超小型システムで、半導体製造技術を応用した微細加工技術で作られる。平面状に電子回路を集積するLSI(大規模集積回路)と異なり、立体的に積み上げることで、電気的な機能に加えて機械的な機能を組み込むこともできる。自動車やスマホ、ゲーム機、医療機器など、幅広い業種の製品への採用が急増しており、市場規模も拡大している。次世代産業を支える技術の一つとしての期待も大きい。
量子コンピューター
実用化に一歩近づいた次世代コンピューターの一つ。一般的なコンピューターでは、すべてのデータを「0」と「1」の2種類の信号で表しデータ処理を行うが、量子コンピューターでは、これまでとは全く異なる量子力学的な動作原理を活用し演算プロセスを実現する。
そのため、「0」と「1」が共存した状態で同時にデータ処理を行え、スーパーコンピューターをはるかにしのぐ、大量データを一度に処理することが可能になるとされる。
AI半導体
AIのために作られた専用半導体部品。コンピューターに搭載されるCPUやGPUは年々高性能になっているが、ビッグデータやブロックチェーン、AIなどの大規模演算を行うには処理能力が追いつかなくなってきている。
そこで登場が待たれるのが、GPUのようにCPUを補助し、AIの演算を行う専用チップ(AI半導体)。
大規模言語モデル(LLM)の登場で計算量は爆発的に増加しており、ますます超並列・高効率で処理が可能な半導体チップが求められている。急拡大する市場と見込まれており、各社が激しい開発競争を繰り広げている。
EUV露光装置
露光装置とは高度な光技術で半導体の回路をシリコンウエハに印刷するための機械。半導体は回路幅を微細化するほど処理能力を高めることができ、最先端の半導体では回路の線幅を3ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)まで微細化し、量産している。EUV露光装置は、極端紫外線と呼ばれる非常に短い波長の光を用いた装置で、従来の技術では加工が難しい20ナノメートルよりも微細な回路の加工を可能にしている。現在、こうした微細加工ができるEUV露光装置はオランダのASML社の独占状態にあり、いずれ理論的限界ともいわれる2ナノメートルの半導体も登場してこよう。国内企業8社が出資して設立した、半導体製造会社「Rapidus(ラピダス)」は、最先端の次世代半導体の国産化を目指すことを明らかにしており、2027年をめどに2ナノメートルの半導体の製造ラインを確立し量産化を目指している。
EMS・OEM・ODM
EMSは、Electronics Manufacturing Servicesの略で、電子機器の製造を受託するサービスを意味する。親会社の指示で製造業務に特化した「下請け」とは異なり、契約を基に量産規模でロット生産を行う。資材や部材の決定や調達、設計、配送など製造以外の工程を行うこともあり、鴻海精密工業など台湾企業が上位を占めている。OEMは、Original Equipment Manufacturingの略で、設計などは自社ブランドを持つ発注元が行い、製造だけは発注先が行うケース。日本では、相手先ブランド名製造ともいわれる。ODMは、Original Design Manufacturingの略で、相手先ブランドによる製品を手がけるのはOEMと同じながら、企画・設計の段階から製造までの一連の工程を請け負う、OEMの発展形。
スピントロニクス
エレクトロニクス(電流や電圧を信号や情報として利用する技術)と、電子が持つ磁石の性質(スピン)を同時利用する技術がスピントロニクス。従来のエレクトロニクスとスピントロニクスの技術を融合することで、高性能で省電力といった、これまでの半導体の限界を超える新しい半導体が登場することが期待されている。さまざまな電子機器の性能を桁違いに向上させることができる技術として、注目されている。
半導体パッケージ技術
繊細なチップを水分やほこりなどの外部環境から保護する、外部と接続・通信できるよう端子を設ける、焼き付けられた配線板にチップを実装する、放熱を行うなどの役割を果たすのが、半導体パッケージ。
半導体の製造工程には、シリコンウエハに回路を焼き付ける前工程と、そのシリコンウエハを切り出して半導体パッケージ基板に実装する後工程がある。完成品ができるまでのすべてが重要な工程であるが、半導体の微細化や高性能化、さらなるデータ処理高速化の要求もあり、半導体パッケージ技術に対しても、これまでにない技術的革新が求められ、研究開発が進んでいる。
近年は、機能が異なる複数の半導体チップを、1つの半導体パッケージ基板に高密度で実装できる、次世代パッケージ技術の重要性が高まっている。
ヒートポンプ技術
ガスや石油などの化石燃料を燃やさずに、空気中の熱エネルギーを集めて空調や給湯などに使えるようにする技術。気体を圧縮すると温度が上がり、膨張させると温度が下がる、熱は高い方から低い方へ移る、といった性質を活用している。電力は圧縮機などに使うだけなので、省電力。化石燃料による燃焼方式と比較して、二酸化炭素排出量を大幅に削減できる技術として注目をあびている。
エアコンや給湯機には、すでにヒートポンプ技術が採用されているものもある。既存の設備をヒートポンプ技術採用機器に置き換えるだけで、大きな省エネ効果が期待でき、さらなる普及が期待されている。
どんな仕事があるの︖
電子・電気・OA機器業界の主な仕事
営業
自社商品を、顧客である販売店や企業に提案・販売するほか、販売店には新商品の売り方、売り場づくりなども提案する。
企画
マーケティングデータや世界情勢などを分析し、新しい商品やサービスを企画する。
資材調達・購買
世界各地の製造工場からのニーズを取りまとめて、国内外から材料となる素材や部品を仕入れる。
マーケティング
コールセンターなどに寄せられる意見や要望、市場調査などを踏まえて、ユーザーがどんな商品、機能を求めているのかを分析し、商品企画や開発につなげる。
システム・ネットワークエンジニア
主に企業向けに、自社商品の使い方やネットワーク構築の提案、技術的なサポートを行う。
商品開発
既存商品を改善するほか、新商品の企画を立てて、試作や開発を行う。
基礎研究
次世代向け製品に役立てるため、最先端技術の研究を行う。
生産管理
スケジュールや計画を立てて、スムーズに生産できるよう手配する。
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※原稿作成期間は2023年12⽉28⽇〜2024年2⽉29⽇です。
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